今年1月に映画化が発表された『SLAM DUNK』。1990年から96年まで週刊少年ジャンプで連載され、今もなお絶大な人気を誇るマンガだ。映画公開日はまだ発表されていないが、映画化決定を記念してバスケットボールと作品を愛する男たち、Bリー…

 今年1月に映画化が発表された『SLAM DUNK』。1990年から96年まで週刊少年ジャンプで連載され、今もなお絶大な人気を誇るマンガだ。映画公開日はまだ発表されていないが、映画化決定を記念してバスケットボールと作品を愛する男たち、Bリーガーにあらためて『SLAM DUNK』について語ってもらった。

 第3回は、キャプテンとしてもチームを鼓舞する川崎ブレイブサンダースの篠山竜青選手。



ポイントガードとして言われたいセリフがあるというⒸ井上雄彦 I.T.Planning,Inc.

――『SLAM DUNK』を最初に読んだのはいつですか?

「覚えてないんですよね。田臥(勇太)さんと同学年で、8つ上の兄もバスケをやっていて『SLAM DUNK』が好きだったんです。だから、物心ついた頃には家に単行本があったので、気づけば手に取っていました」

――すぐに『SLAM DUNK』にハマりましたか?

「最初は派手なプレーの絵を見て楽しんでいるくらいで。小学3年からミニバスを始めたんですけど、5年生くらいの時に、もう一度ちゃんと1巻から読んで完全にハマった感じですね。もちろん、その時も流川(楓)や仙道(彰)がカッコいい、沢北(栄治)がスゴイとか、そんな感じでしたけど(笑)。中学生になると、『SLAM DUNK』は神奈川県が舞台の作品なので、"ここがマンガに出てきた会場か!"とか、神奈川で生まれ育った『SLAM DUNK』ファンだからこそ感じられる喜びがありました」

――高校は北陸高校に進学しましたね。実家を離れる時は「SLAM DUNK」を持っていきましたか?

「迷ったんですが、寮に持って行かなかったんです。でもそこは心配無用というか、全巻持ってきているチームメイトが何人かいたので借りればいつでも読めました。悩んだ時、壁にぶつかった時、高校時代も何度も『SLAM DUNK』を読み返しました」

――例えばどんなシーンに励まされましたか?

「湘北対山王戦で、河田(雅史)に圧倒される赤木(剛憲)に向けて、板前の格好をして乱入した魚住(純)が"華麗な技を持つ河田は鯛...""お前は鰈だ。泥にまみれろよ"と声をかけるシーンが好きなんです。このシーンは年齢を重ねるごとに染みるというか......。

 僕は中学までは神奈川県の中で"自分が一番点を取れる""一番スピードがある"って自信を持ってプレーしていました。でも、ステージが全国に広がると、自分より点を取れる選手やスピードがある選手がいっぱいいて、何度も壁にぶつかりました。その度に魚住の言葉に励まされていましたね。

 PG(ポイントガード)として生き抜いていくための道を模索して、身体能力に頼らず、頭を使ったり、地味できついことを厭(いと)わなかったり、何か自分にもチームに貢献できることがあるはずだと勇気づけられたんです。そういう意味でも年齢を追うごとに魚住の言葉がより染みてきました」

――チームに貢献するために、まさに泥にまみれる覚悟を持ったということですね。

「2019年のワールドカップのアジア予選や本戦で、代表での生き残りをかけた時もそうでした。PGのポジションを争う選手、特に若い選手の中には、PGでありながら身長が高い選手、圧倒的なスピードを持った選手、何かに特化した武器を持っているPGがいっぱいいました。

 また、"そういう選手を代表にするべきじゃないか"って声も僕の耳に届いて。自信が揺らぎそうになった時、魚住さんの言葉を思い出して必ず自分なりの方法でチームに貢献できるはずと信じることができました」

――なるほど。

「あと、好きなセリフで言えば湘北対山王戦の直前に、山王ファンの観客が言う"いつも黒子役に徹する深津のパスがあっての山王工業だ"ってセリフが好きです。深津(一成)が、好きなんですよね、PGとして。牧(紳一)、藤間(健司)、仙道、リョーちん(宮城リョータ)、いろんなタイプのPGが登場しますけど、自分の理想とするPG像に深津が一番近いというか。点取り屋じゃなくても、目立つ選手じゃなくても、長年チームを見てきた人から"あいつがいてこそ"って褒められたらめちゃくちゃうれしいですよね。だから、あの台詞は地味に好きです」

――では、『SLAM DUNK』の物語と自身の体験が重なったような瞬間はありますか?

「それを一番強く感じたのは高校3年生のインターハイの決勝ですね。対戦相手は京都代表の洛南。3年に湊谷(安玲久司朱)、2年に辻(直人)、1年に比江島(慎)がいたチームでした。大阪での開催だったこともあり、めちゃくちゃ洛南の応援が多かったんです。それに洛南の選手は髪も自由で、ユニホームもかっこいいデザインで垢抜けていてすごく人気があった。

 片や北陸は福井の田舎からやってきた黄色いユニホームで坊主頭。しかも、応援の柄が悪い(笑)。もちろんどアウェイになるのはわかっていたので、"もうワルモノでいこうや!"ってチームメイトと話し合って決勝に臨んだのを覚えています。あの時のコートに入った瞬間の"ワルモノ見参!!"な感じは、山王戦を迎える湘北とかぶったというか。アウェイな状況でも気持ちで負けず、試合に勝てたのは、ある意味で『SLAM DUNK』のおかげだったかもしれないです」

――インターハイで優勝以降も、大学、実業団、Bリーグと、篠山選手は所属したすべてのチームで優勝を経験しています。

「振り返ってみると確かに優勝していますね。でも、優勝したことと同じくらい印象に残っているのが、Bリーグが開幕した年のファイナルで栃木(現・宇都宮ブレックス)に負けたことです。残り1分、土壇場で僕が致命的なパスミスをして負けているんです。あそこはパスじゃなく3ポイントを打つべきだったなと。今なら打ちますね。

 ただ、あの敗戦からすべてが始まった気がするんですよね。湘北に負けた山王の堂本監督が"「負けたことがある」というのが いつか 大きな財産になる"と言ったように、あの敗戦があって個人としてもチームとしても成長できたと思うんです。

 あのファイナル、代々木第一体育館を埋めた川崎と栃木のブースター(ファン)の割合は3:7か2:8くらい。まさに栃木のチームカラーである黄色に会場が染まっていました。あの試合から勝利を目指すのはもちろん、プロとして集客にも力を入れなければいけないと様々な活動が始まりました。あのファイナルがあったからこそ、川崎ブレイブサンダースは、2020-21シーズンで1試合平均入場者数が1位になれたんだなと思います」



『SLAM DUNK』を読むとバスケが好きという気持ちを再認識できると語った篠山竜青(C)KBT

――篠山選手は所属する川崎だけでなく日本代表でもキャプテンを務めていましたが、『SLAM DUNK』に登場するキャプテンでは誰に似たキャプテンだと自身のことを思いますか?

「誰に近いですかねえ!? わかんないですけど、多分、湘北は新チームになってリョーちんが新キャプテンをやるじゃないですか。彼は赤木キャプテンの残像を追うのではなく、自分らしいキャプテンをやると思うんです。だから、僕が誰に似ているかという質問からはずれてしまうかもしれませんが、リョーちんが僕みたいなキャプテンになっていくのかなって少し思いますね」

――篠山選手はキャプテンとして心がけていることは何かありますか?

「そもそもの話でいうと、東芝(現・川崎)で最初にキャプテンに選ばれた時は素直に嫌だったんです(笑)。東芝に入った時、チームはどちらかというと、大人しいイメージがありました。チーム一丸になって盛り上がる勢いのあるチームに変えたいなと、1年目からしゃしゃり出てムードメーカーのようなことをやり始めたんです。それが3年目に急にリーダーに指名され、まだちょっと早いなというのが当時の正直な感想でした。

 ただ、キャプテンになったとはいえ、やっぱりゴリみたいにグイグイ引っ張っていくようなタイプではない。自分の性格的にゴリのスタイルは合っていないというのはわかっていたので、自分に合ったキャプテンをやっていかないとなって思ったんです。

 だから、最初は戸惑いもありましたけど、キャプテンだからといってすべてを自分でやろうとするんじゃなく、周囲に協力を求めながらやっていけばいいって思えるようになってからは楽になりましたね」

――最後に、『SLAM DUNK』は篠山選手にとってどんな存在ですか?

「なんですかねえ。いまだに悩んだ時に読み返すこともあれば、何気なく手にとった時にあらためて気づかされたりすることもあります。最近だと、チャンピオンシップが始まる前日に最終巻を読んだんです。『SLAM DUNK』に出てくる選手は、どの選手も純粋にバスケットを楽しんでいるというか。楽しみながらバスケに打ち込んでいる。原点に帰るじゃないですけど、読んでいて自分はバスケットボールが好きなんだということを再確認させてもらえる。支えてもらったり、気づかされたり、大切なことを思い出させてくれたりする存在というか......、すみません、一言では言い表せないです(笑)」

Profile
篠山竜青(しのやま・りゅうせい)
1988年7月20日生まれ。神奈川県出身。PG(ポイントガード)
明るい性格で、キャプテンとしてチームを牽引している。その人柄を買われ、日本代表でもキャプテンを務め、2019年のW杯では精神面でもチームに大きく貢献した。大学卒業後の2011年に東芝ブレイブサンダースに入団して以降、変わらず川崎ブレイブサンダース一筋で活躍している。