午前中にあった、スクラム練習の合間のことだ。最前列の組み手に負けないくらい、第3列側面の金正奎も声を張り上げていた。これから始まるセッションに強い態度(Attitude)で臨もうとの思いからか、手を叩いて周りを鼓舞する。「行くぞ、スクラム…

 午前中にあった、スクラム練習の合間のことだ。最前列の組み手に負けないくらい、第3列側面の金正奎も声を張り上げていた。これから始まるセッションに強い態度(Attitude)で臨もうとの思いからか、手を叩いて周りを鼓舞する。

「行くぞ、スクラム! Attitude!」
 
 2月28日、東京・辰巳の森ラグビー練習場。国際リーグのスーパーラグビーに日本から参戦2季目となるサンウルブズが今季初遠征の前の最後の練習をおこなっていた。3月1日からシンガポール、南アフリカを約4週間で回るにあたり、FW陣はプレーの起点となるスクラムを確認した。

 金がここで気持ちを入れたことからは、ふたつの要素が読み取れる。

 ひとつはチームによってばらつきのあるFLのスクラムへの熱が、長谷川慎スクラムコーチの存在で高まっていること。もうひとつは国内のNTTコムで主将を務める、金の矜持だ。

 身長177センチ、体重93キロの25歳。今季のサンウルブズが始動した2月初旬、先導役としてこう意気込んだ。

「試合に出て活躍したいのはもちろんですけど、チームがひとつになるための要素になれればと思っています」

 昨年5月に日本代表デビューを飾り、7月にはサンウルブズへ追加招集された。もっとも南アフリカ遠征中だった7月9日のブルズ戦で、左膝靱帯(じんたい)を断裂。昨季は国内のトップリーグで前半節に出られず、「やきもき」した思いを抱えていた。

 啓光学園中、高、早大、さらには年代別の代表と、行く先々でリーダー職を任されてきたとあって、自分の組織への影響力を強く意識するのである。

「昨シーズンは参加してすぐに怪我をしたので、チームに何か大きな影響を与えることができなかった。今シーズンは大きな影響を与える存在になれるように、ひとつずつ努力しています」

 チームは2月25日、東京・秩父宮ラグビー場での初戦で前年度王者のハリケーンズに17-83と完敗。しかし、必要以上に後ろは振り返らない。

 前半34分から出場した金は、後半29分のトライシーンなどで巧みな走りを披露していた。大量失点を招いた防御を「前に出ていたけど、それが中途半端になった時に行かれていた」と悔やみながら、最後はこう締めた。

「組織で前に出たら、(攻守逆転の)チャンスが生まれる。ポジティブにやっていくだけです!」

 3月4日の第2節では、先発メンバーに名を連ねた。準ホームの扱いとなるシンガポール・ナショナルスタジアムで、南アフリカのキングズに激突する。自分より大柄な相手にクラッシュしながら、初勝利を目指す。

「シーズンを終えた時、最高のチームになれた、個人としても成長できたと言えるようにしたいです。そのためにひとつの練習、ひとつの試合を愚直にやっていきたいです」

 クラブのカンフル剤であり続けるなか、1年ぶりの代表復帰も視界に据える。

「ここまで準備してきたものの精度を、どんどん上げていく。そうすればもっと、チャンスも作れる。相手がどうというより、自分たちがこうしたいというところにフォーカスを置いていきたいです」(文:向風見也)