中村憲剛×佐藤寿人第3回「日本サッカー向上委員会」@中編 1980年生まれの中村憲剛と、1982年生まれの佐藤寿人。20…
中村憲剛×佐藤寿人
第3回「日本サッカー向上委員会」@中編
1980年生まれの中村憲剛と、1982年生まれの佐藤寿人。2020年シーズンかぎりでユニフォームを脱いだふたりのレジェンドは、現役時代から仲がいい。気の置けない関係だから、彼らが交わすトークは本音ばかりだ。ならば、ふたりに日本サッカーについて語り合ってもらえれば、もっといい未来が見えてくるのではないか。飾らない言葉が飛び交う「日本サッカー向上委員会」、第3回は日本が抱えるストライカー不足問題について語ってもらった。
「第3回@前編」はこちら>>
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佐藤寿人氏が注目しているのは横浜FMのこの人
---- 「FW向きの性格」とよく聞きますが、FWに求められるメンタル面の特徴はあるのでしょうか?
佐藤 サッカーの目的って、点を取ることじゃないですか。点を取るためにやっていることをもっと求めていかないといけない。ドリブルでかわさなくても、シュートを打って決めればいいだけ。目的ではなく、手段に意識が向きすぎている気がするんですよね。
中村 もっとシンプルなんですよ、本当は。さっき言ったように、裏1本で点が取れれば一番いいんですよ。そこがあって、いろんなところに派生していく。でも、違うところからスタートしちゃってるんですよ。点を取ることに重きを置けば、FW的なメンタルは育っていくんじゃないですかね。稀にいますけどね、「俺、点を取ることしか考えてません」って平気で言う選手が(笑)。
---- 大久保嘉人選手(セレッソ大阪)とか?
中村 彼くらいにピッチ内で我が強い選手は、ストライカー向きですよね。でも、FWは最終的にはみんな自分勝手。自分が点を取れればいいと考えている種族なんで(笑)。それでいいと思うんですよ。先頭の人がそう思ってくれないと、チームは点を取れないですから。
---- 我が強い選手が少なくなった気がします。
佐藤 さっきも言いましたけど、前の選手にそれを背負わせてないのが原因だと思います。点を取らずに途中交代した選手にも、守備をがんばったからって拍手で迎えるじゃないですか。
中村 守備もスペースメイクもやって、自分は点を取れなかったけど、チームは2−0で勝った。その時に、「クソ、点が取れなかった」と悔しがる選手が育ってほしいですね。やっぱり得点王になった選手は、みんなギラついてましたよ。ジュニーニョも、嘉人も、(小林)悠もそうだった。
佐藤 そういう思いでやらないと、ポジションはなくなりますからね。一番、外国籍選手が入ってくるポジションですから。結果を出せなければ、外国籍選手に取られてしまう。でも、若い選手からそういう危機感をあまり感じないんですよね。
中村 その危機感を持てるかだよね。あとは、プロでアジャストできるかどうかも大事。育成年代の時にうまくやれていたことが、プロでは通用しないこともある。その時にどう変化させていくか。
この前、DAZNの番組で鈴木優磨(シント・トロイデン)が面白いことを言っていて。日本にいた時はポストプレーなど、体をぶつけながらのプレーを全然やれていたんだけど、ベルギーでは簡単にはじき返されるから、いかに当たらないでプレーするかを考えるようになったと。そういう思考に変わったら、点が取れるようになったと。
彼の中でアジャストしていったということ。日本で培ってきた形はあったけど、その形が通じない時にどうやって対応していくか。彼の考え方は、子どもたちにも参考になると思いますよ。今の点の取り方をその先にどうやってつなげていくか。それは通用している時から考えないといけないことだと思います。
---- 同じFWの佐藤さんも、そんな時がありましたか?
佐藤 ずっとですよ。今日の試合で点を取りました。じゃあ、次の試合でも同じ形で取れるとは限らない。常に次のゴールを奪うために求めていかないといけないんです。いろんなことに目を向けて、耳を傾けて、チームメイトとも共有していかないといけない。
小さいゴールのアイデアがどこかに落ちていないかと、常に探していましたし、そうじゃないと点を取り続けることはできないんです。たとえ20点を取ったとしても、次の年に点を取れるかなという不安しかなかったですから。
中村 そういう危機感を持ったFWが一番怖いんですよ。自分が点を取るんだという意識が強ければ強いほど、怖かったですね。寿人もそうだし、ワシントン(2005年@東京ヴェルディ、2006年〜2007年@浦和レッズ)もそうだった。いいストライカーであればあるほど、危険なオーラを発しているんですよね。
---- 今のJリーグに危険なオーラを感じる選手はいますか?
佐藤 直接対峙していないのでわからない部分もありますけど、いいなと思うのはオナイウ阿道(横浜F・マリノス)ですね。ギラギラしてますし。
中村 点を取るのが自分の使命、というふうに変わってきた感じがする。(2019年に所属していた)大分トリニータくらいからかな。自分のゴールでチームを勝たせると、そういうのが備わってくるんじゃない?
佐藤 そうです、そうです。
中村 のってくるというか、俺が勝たせるというプライドみたいなものが作られていくんだろうね。
佐藤 オナイウはJ2のレノファ山口(2018年)に行ったのがよかったですよね。だから、若いうちはトップじゃなくてもいいと思いますよ。下のカテゴリーでも成功体験を積み重ねて、自分の形を作っていくことが大事ですから。
中村 点を取っていくと、無駄が減っていくよね。寿人なんて、その極み。点を取るために一番効率的な動きをするから、対戦していて嫌でしたよ、やっぱり。
佐藤 最近、指導の現場に出て思うのは、点を取ることをいかに言語化して伝えていくかということ。点を取ることに、感覚なんてありませんから。感覚でやっていたら、偶然でしか点は取れない。そのロジックを言語化して伝えていくことの重要性を強く感じています。
---- 以前のインタビューで、本能的だと見られている大久保選手も実はすごく考えてプレーしているとおっしゃっていましたよね。
佐藤 嘉人は、めっちゃ考えてますよ。言葉にはうまく表せてはないですけど(笑)、あいつの中では点を取るために何が必要かが、しっかりと整理されていると思います。
中村 あと、彼がすごいのは、足が止まらないこと。味方がシュートを打った時にひとりだけ動いているんです。
シュートの瞬間って、ほとんどの選手が(ボールの行方を)見てしまうので、普通は足が止まるんですよ。でも、彼はその瞬間がゴールチャンスだと思ってるから絶対に走っているし、あとちょっとで触れたりとか、ファーに流れたシュートをそのまま合わせるゴールがすごく多かったですね。最後に俺のところに来いという動きなんですよ。
佐藤「GKが弾け」とか「逸れてこい」という動きですよね。普通だったら、味方がシュートを打ったら、決まってくれと思う。でも、いかに自分が取るかという頭の回路なんですよ。
僕も味方がシュート打った時に「決まれ」と思ったこともあるんですけど、止まらずに動いていたら合わせられたというシーンもいくつかあった。そこで3点くらい決められていたら、評価は変わるじゃないですか。そう思うと、考え方は大きく変わりましたね。
中村 寿人も嘉人も、身体は大きくないけど、あれだけ点を取る。だから、最後まで足を止めないというのはFWにとって大事なことなんです。
---- サイズの話で言うと、日本人はフィジカルの部分でどうしても世界に太刀打ちできない。どうがんばってもズラタン・イブラヒモビッチ(ミラン)にはなれないと考えると、日本人的なFW像を確立する必要があるのでしょうか?
佐藤 いや、仮にそういうものがあったとしても、全員が同じそれにはなれないじゃないですか。やっぱり、人それぞれなんです。フィジカルに恵まれている選手もいれば、僕や嘉人みたいな身体が小さい選手もいる。どういう選手を作るのではなくて。その選手の武器をより高めて、研ぎ澄ませていくことが大事なことだと思います。
---- 先ほど、佐藤さんがおっしゃられたように、FWは一番外国籍選手が入ってくるポジションですよね。そうなると、なかなかFWが育ちにくい環境なのかなと思うのですが。
佐藤 しょうがないですよね。Jリーグの歴史を紐解いても、間違いなく外国籍選手の割合はストライカーが圧倒的に多いですから。
中村 ポジション争いに勝つしかないんですよ。逆に言えば、伸びる土壌でもある。しのぎを削れる相手がいるわけだから、そこで勝つことで成長できるし、代表にも近づけるわけです。
ただ、彼らは助っ人としての強い使命感を持ってきているわけで、それ以上の使命感を持たないと、なかなか太刀打ちできないですよね。そこの意識を持てるかが、重要だと思います。今、フロンターレでは(レアンドロ・)ダミアンと悠が高いレベルでしのぎを削っている。ああいう形が理想的ですよね。
佐藤 あのふたりの争いはすごいですよね。この前の鹿島戦(5月30日@J1第17節)で、悠がアディショナルタイムに投入されて、ファーストプレーで仕事をしたのは本当にすごかった。ストライカーの立場で言えば、あの時間帯で出されたら、「ふざけんな」という感じなんですけど、それをゴールで答えちゃうのは、尊敬しかない。あれはもっとフォーカスされてほしいシーンですね。
中村 イライラしてただろうしね。
佐藤 そうですよ。早く出せよと思っていたはずですよ。
中村 あとで聞いたら、「自分が決める」と思っていたらしいよ。そのメンタルだよね。俺しかいないと思っているから。
佐藤 ポジティブなマインドで入ったことが、結果を呼び込んだんでしょうね。やってられないという感じで入っていたら、あのゴールは絶対に生まれない。日本人のストライカーは小林悠を見習うべき。
とくに、試合になかなか出られていない若い選手は参考にしてほしい。あれだけ結果を出している選手が、ああいう使われ方をされても、しっかりと結果を出すわけですから。
---- 先ほど、オナイウ選手の名前が出ましたけど、さらに若い世代のFWをどう見ていますか?
中村 林大地(サガン鳥栖)はいいですね。ギラつき感もありますし。
佐藤 たしかに。同じ鳥栖の山下敬大もいいですよ。去年は千葉で一緒にやったんですが、山口から這い上がってあそこまで行きましたから。あと上田綺世(鹿島アントラーズ)。表情からはなかなか伝わらないですけど、彼もギラギラしていますね。自分で点を取るためのいい動き出しもしています。
中村 数字を残している選手は、おしなべてギラついてますよ。その数をもっと増やしてほしいですね。
(後編につづく)
【profile】
中村憲剛(なかむら・けんご)
1980年10月31日生まれ、東京都小平市出身。久留米高校から中央大学に進学し、2003年にテスト生として参加していた川崎フロンターレに入団。2020年に現役を引退するまで移籍することなく18年間チームひと筋でプレーし、川崎に3度のJ1優勝(2017年、2018年、2020年)をもたらすなど黄金時代を築く。2016年にはJリーグ最優秀選手賞を受賞。日本代表・通算68試合6得点。ポジション=MF。身長175cm、体重66kg。
佐藤寿人(さとう・ひさと)
1982年3月12日生まれ、埼玉県春日部市出身。兄・勇人とそろってジェフユナイテッド市原(現・千葉)ジュニアユースに入団し、ユースを経て2000年にトップ昇格。その後、セレッソ大阪→ベガルタ仙台でプレーし、2005年から12年間サンフレッチェ広島に在籍。2012年にはJリーグMVPに輝く。2017年に名古屋グランパス、2019年に古巣のジェフ千葉に移籍し、2020年に現役を引退。Jリーグ通算220得点は歴代1位。日本代表・通算31試合4得点。ポジション=FW。身長170cm、体重65kg。