福田正博 フットボール原論 こうした"イニエスタ効果"は、同じチームでプレーする日本選手にとどまらず、育成年代にも波及し…

福田正博 フットボール原論

 こうした"イニエスタ効果"は、同じチームでプレーする日本選手にとどまらず、育成年代にも波及している。

 私は子どもたちにサッカーの指導をしているが、イニエスタがJリーグでプレーするようになってからは、スクール生たちがさかんに首を振るようになった。これはイニエスタが試合中に頻繁に首を左右に振りながら、周囲の状況を確認する姿に影響を受けたからだ。

 サッカーではボールをもっていない時に、常に刻々と変化する味方と相手の位置や動き出しをチェックするのが大切だ。ただ、それを指導者が伝えても、いざ試合が始まると子どもたちはボールに夢中になって、周りを見るのを忘れてしまうケースが多い。

 しかし、世界最高峰の選手が実践する姿を見て、意識が変わった。もちろん、イニエスタがなぜ首を振っているかの真意がわからないまま、子どもたちがマネている部分もある。そこは指導者がしっかりサポートするのが大切だ。

 もう一つ、イニエスタが日本のサッカーファンに教えてくれたのは、「サッカーは良い選手が11人揃わないと勝てない」という点だ。皮肉めいた言い方だが、サッカーはスーパースター1人の力だけではチームを劇的に変えることはできない。

 イニエスタが加入し、翌年はダビド・ビジャ(2019年シーズン限りで引退)が加わるなどした神戸は、"バルセロナ化"を推し進めようと取り組んだ。しかし、イニエスタとビジャが絡んだ攻撃ではその香りを感じさせたが、それ以外のところでは苦労した。

 昨年のシーズン途中から指揮を執る三浦淳寛監督の下、神戸は当初の計画よりも現実路線へと舵を切っている。理想を追うのも大切だが、結果も求められるのがプロの世界という考えもあるだろう。

 今シーズンの神戸は、イニエスタ復帰前までは全選手がハードワークする戦いぶりが特長になっていた。目指していたポゼッションサッカーとは違うスタイルだが、チームのメンバー構成を踏まえれば順当な判断だと思う。

 そこにイニエスタが復帰して、どう変わっていくのかは興味深い。「イニエスタのスキルやテクニックをハードワークするチームに融合させる」のは、言葉で言うのは簡単だが、具現化はなかなか大変だ。

「イニエスタがいる時のチームとしての戦い方」と、「イニエスタがいない時の戦い方」の2パターンを使い分けていく必要があるだろう。その困難なテーマに対して三浦監督がどんな手腕を見せるかにも注目している。

 昨年から続く新型コロナウイルスの影響で、イニエスタのプレーを直接スタジアムで観られる機会は激減した。彼のすばらしさを感じるのに、画面越しに観るのと、直接スタジアムで観るのとでは、やはりかなりの差がある。

 それでも少なくともあと2年はJリーグでイニエスタがプレーしてくれる。それだけに一日も早くコロナ禍が収束し、多くの人がスタジアムでイニエスタの一挙手一投足に感嘆できる日が来るのを願うばかりだ。