ラスベガスのリングを2週連続で日本人ボクサーが沸かせられるのか――。 現地時間6月19日、米ネバダ州ラスベガスのバージン・ホテルで行なわれたWBAスーパー、IBF世界バンタム級タイトル戦で、王者・井上尚弥(大橋ジム)が、IBF指名挑戦者の…

 ラスベガスのリングを2週連続で日本人ボクサーが沸かせられるのか――。

 現地時間6月19日、米ネバダ州ラスベガスのバージン・ホテルで行なわれたWBAスーパー、IBF世界バンタム級タイトル戦で、王者・井上尚弥(大橋ジム)が、IBF指名挑戦者のマイケル・ダスマリナス(フィリピン)に3回KOで圧勝。あらためてその実力と存在感を強烈にアピールした。

 その井上からバトンを渡されるような形で、26日には元OPBF東洋太平洋ライト級王者の中谷正義(帝拳ジム)が同じバージン・ホテルのリングに立つ。



元3階級王者ロマチェンコと戦う中谷正義

 昨年12月、中谷はラスベガスのMGMグランドで行なわれた地域タイトル戦で、強敵フェリックス・ベルデホ(プエルトリコ)を相手に9回TKO勝ちを飾り、本場のファンを驚かせた。ただ、今回の相手はさらに手強い。『ESPN+』で全米に配信される今回の興行で戦うのは、元3階級王者のワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)。アマ時代に五輪2連覇、通算396勝1敗というとてつもない実績を残し、プロ入り後もデビュー3戦目で世界王座に就いたスーパーボクサーだ。

 パウンド・フォー・パウンド(PFP)でも一時はNo.1に君臨していたロマチェンコが、新鋭テオフィモ・ロペス(アメリカ)にまさかの判定負けを喫したのは昨年10月のこと。プライドの高い元王者は再起戦の相手として、2019年7月にロペスと戦い、敗れたものの善戦した中谷を選んだ。

 プロでの16戦中、デビュー戦以外の15戦はすべて世界タイトルマッチという、尋常じゃないキャリアを誇る33歳のロマチェンコが強さを見せつけるのか。それとも32歳と年齢的にも脂が乗った中谷が番狂わせを起こすのか。楽しみな一戦のゴングが間近に迫っている。

 今回、アメリカに本拠を置く4人の記者、ボクシング関係者に3つの質問をぶつけ、日本ボクシング史上に残るかもしれない戦いの行方を占ってみた。

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●パネリスト

【クリス・アルジェリ】
元WBO世界スーパーライト級王者。37歳になった現在でも現役だが、『ESPN』のボクシング放送で解説者も務める。

【マルコス・ビレガス】
『Fight Hub TV』の創始者、インタビュアー。『FOX』のボクシング中継で非公式ジャッジを務める。

【ジョナ・ディラン】
米紙『ラスベガス・レビュー・ジャーナル』の記者。6月19日の井上vsダスマリナス戦に続き、ロマチェンコvs中谷戦も現場取材する。

【ライアン・オハラ】
『リングマガジン』のライター。コロラド州在住。丁寧な取材に裏打ちされた流麗な記事を執筆する。

Q1.中谷がロマチェンコに勝つためにやるべきことは?

アルジェリ 中谷はすばらしいタフネスとハートの強さを持っている。普段どおりに手数を出し、プレッシャーをかけていくべきだ。ロマチェンコとリングの中央で戦った場合は厳しい流れになる。長身の中谷はサイズのアドバンテージを武器に、ロマチェンコを追いかけ回し、時にサイドステップも使い、相手に自由に動かれないようにするべきだ。

 パンチを当てるチャンスがあったら、顔面、ボディに限らず、肩でもヒジでもグローブでも構わないから打ちまくる。フィジカルの強さでは上回っているだけに、パンチをヒットできれば、たとえそれが急所ではなくとも効果はあるはずだ。

ビレガス ロマチェンコはすでに一度、オーランド・サリド(メキシコ)というプレッシャーをかけるのがうまい選手に敗れた経験がある。中谷はサリドよりサイズがあり、打たれ強さ、パンチ力も上だろう。ベルデホ戦では多少の被弾があっても絶えず前に出続けて、精神力の強さも証明した。

 ロマチェンコの心身のコンディション次第だが、中谷には大きなチャンスがあると私は見ている。クレイジーと言われるかもしれないが「中谷が有利じゃないか」とすら考えている。ロマチェンコ陣営が復帰戦の相手として中谷を選択したのは、適切だと思えない。

ディラン 中谷にとって大事なのは、ジャブを有効に使って距離感を掴むこと。さらに独特のスタイルを最大限に生かし、ロマチェンコを戸惑わせること。いずれにせよ、中谷にとっては最初の数ラウンドが極めて重要になる。そこでロマチェンコにフラストレーションを抱かせ、ポイントを奪い、ペースと自信を掴めたら試合は面白くなる。逆に序盤を制することができなかった場合、巻き返すのは簡単ではない。

オハラ 中谷はロマチェンコを下がらせる必要がある。ジャブを生かし、不必要なリスクを犯すのを避けること。ただ、ロマチェンコのスタイルは、中谷には攻略が難しいように思える。

Q2.ロマチェンコが再起戦を飾るためにやるべきことは?

アルジェリ 前戦のロペス戦でのロマチェンコは圧倒的に手数が足りなかった。リングに上がってみたら、ロペスのカウンターのうまさとフィジカルの強さに戸惑った部分があったのだろう。中谷戦ではより積極的にパンチを出すべき。中谷はロペスと比べてはるかにパンチを当てやすい選手なため、手数は自然と増えるのではないか。

ビレガス 勝敗のカギはロマチェンコが自分らしさを取り戻せるかどうかだ。大事なのはサイドに動き、中谷を混乱させること。ロマチェンコのパンチは的確だが、中谷をあっさりと倒すほどのパワーは備えていないから、まずはボディを中心に狙うべきかもしれない。

ディラン ロマチェンコはロペス戦よりもいいスタートを切る必要がある。これまでは相手の力を測り、アグレッシブになるまで数ラウンドをかけていたが、その作業をより早いラウンドからやらなければいけない。

オハラ ロペス戦での敗北に関して、ロマチェンコは自分自身を責める以外になかった。後半戦の戦いぶりは悪くなかったが、最初の6ラウンドはほとんど何も成し遂げなかったからだ。もともとスロースターター気味で、それがついに災いした印象がある。

 同じくスロースターターの傾向がある中谷に対し、今戦では早い段階からエンジンをかけるべきだろう。中谷は接近戦が得意ではなく、前に出ていく際にガードがガラ空きになる傾向がある。そんな相手にプレッシャーをかけ、中谷の長いリーチから繰り出されるジャブを無効化すれば、カウンターを打ち込むチャンスが生まれるはずだ。

Q3.予想される試合展開は?

アルジェリ ロマチェンコに衰えが見えた場合、あるいは集中できていなかった場合には、中谷にもチャンスが出てくる。ただ、好調時のロマチェンコにとって、中谷は難しい相手ではない。いい試合にはなると思うが、おそらくロマチェンコの判定勝ちだろう。

ビレガス 中谷の判定勝ち。

ディラン ロマチェンコの10回KO勝ち。ロマチェンコはロペス戦よりも緊張感を持って今回の試合に臨み、ラウンドが進むにつれて中谷を崩していくだろう。終盤にボディ攻めでフィニッシュに持ち込むのではないか。

オハラ 3-0の判定でロマチェンコが勝利する。