日本最南端・沖縄県はかつてプロスポーツ不毛の地だった。 アメリカに占領されていた“負の歴史”がある一方、アメリカ文化の影…

日本最南端・沖縄県はかつてプロスポーツ不毛の地だった。
アメリカに占領されていた“負の歴史”がある一方、アメリカ文化の影響もあってスポーツは身近な存在ではあった。
しかし2006年にバスケットボール・琉球ゴールデンキングスがbjリーグに参入するまで、トップリーグに所属するクラブは不在。それでも沖縄のポテンシャルと国内でプロスポーツが続々と立ち上がっている流れに乗じ、サッカーのFC琉球、卓球の琉球アスティーダ、野球の琉球ブルーオーシャンズと次々に誕生している。

各クラブそれぞれのカラーを出して沖縄の発展に寄与し、ビジネスを展開しているがその中でもFCで琉球の取り組みは非常に興味深い。新型コロナウイルスの影響が色濃く出た昨年から、敢えて強気のクラブ運営を試みているのだ。

©FC琉球

長かった下部リーグ時代も 根を張った活動が花開く

2003年に誕生したFC琉球は、長らくJFL、J3に所属していた。クラブの運営会社が変わるなど紆余曲折を経て、2019年にJ2に昇格している。
クラブとしては悲願の昇格ではあったが、「サッカーを知っている人からすると本当にすごいことなのですが、知らない一般の方からするとピンとは来ていませんでしたし、感動はそこまで大きくなかったと思います。」と、昇格以降から経営に参画した小川淳史取締役社長は当時を振り返る。
昇格をしたからといって沖縄全体を巻き込むような大きなムーブメントは起きなかった。

J3在籍時やJ2昇格後はパートナー営業において門前払いを食らったこともあった。それでも根を張った営業活動で県内での地盤を固め、資本提携や増資で安定した経営戦略を図っていった。
同時に地道にアカデミーやスクール、ホームタウン活動を拡大。こうした取り組みによって、小川取締役社長が「話を聞いてくれないことはまずない。しっかりとクラブの存在を認識してくださっていると感じます。」と話すように、J2に昇格して3年、「沖縄とともに、強くなる」を理念に、県内での地位を確立しつつある。

チームにおいてはJ2昇格初年度が14位、昨シーズンが16位だったが、今シーズンは樋口靖洋監督が就任して3年目。「ホップ、ステップ、ジャンプ、の『ジャンプ』の年」と語るように、攻守ともに精度の高いプレーで4位と好調だ。
「少し出来過ぎと思われているかもしれませんね」と小川取締役社長は笑うが、「今まで重ねてきたものがしっかりと成熟し、そこに今季は足りないパーツを補うことができ、一戦一戦集中して良いサイクルで戦えていると思います」と自信をもって語ってくれた。

地元出身選手の#20上里一将 ©FC琉球
守りの要として欠かせない#26田口潤人 ©FC琉球

コロナ禍でも事業の拡大を模索し続ける

ただその裏では、新型コロナウイルスの影響が暗い影を落としている。
2020年度の決算において、総売上高で前年比7,200万円の減。協賛金は増加したものの、コロナの影響でリモートマッチや入場制限がかかったことから入場料、物販等試合関連の収入が大きく後退した。小規模予算の地域型クラブにとっては削減できる経費ももう無いという状態まで可能な限り削減していきながら、新たな手を打つことになった。

2020年11月にはクラウドファンディングを実施。ユニフォームやグッズなどクラブが持つ資産と沖縄県の特産品をリターン品に加えるだけでなく、医療従事者に向けたチャリティーユニフォームを着用して試合に臨んだり、観光業など大きな影響が出た沖縄に対して、クラブとして何ができるかを考え、“One OKINAWA”をテーマに掲げた。その結果、目標の1,000万円を超える1,871万円が集まった。今シーズンもクラウドファンディングを計画しており、「より前のめりになる」(小川取締役社長)内容を検討中だ。

その一方で、今年2月にクラウドサービス事業やゲーム事業等を展開する株式会社Donutsとパートナー契約を締結。Donutsが開発したライブ配信アプリ「ミクチャ」を通じ、3月からはFC琉球ガールズを選出する企画を実施し、6月5日には3名の FC琉球ガールズ就任が発表された。
今後は今回の企画をフィードバックしながら、様々な企画を検討している。

そして今後の新たなサービスとして検討を進めているのが、ブロックチェーンを用いたファンコミュニティの形成。
なかなか会場に行くことができない既存ファンに加えて、これまで交わることができなかった県外のファンにもアプローチできることが大きな利点だ。ファンにとってはどこにいてもクラブを応援でき、クラブとしても軌道に乗れば入場料、物販収入に加えた収入源として期待できる。
今季トップパートナーとなった株式会社マイネットと事業提携をし物販部門を皮切りにスポーツ産業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進していく構想であり、「地域クラブが新たな技術を率先して取り込み、地域経済に波及・還元させていく、という流れは今後のスポーツクラブの存在価値になっていくと考えている」。(小川取締役社長)

昨季はコロナ禍にも関わらず増資を含めた資本政策によりクラブ経営・財務の安定度をむしろ高めることができ、今季は引き続き厳しい環境は続いているが積極的にデジタル技術を用いた事業の拡大を推進していく、という。

沖縄への想いを語った小川取締役社長 ©FC琉球

コロナ禍は県外ファンを増やす後押しにも

ファンにとって試合観戦ができなくてもクラブ支援ができる環境は非常にありがたいことだ。観客数の上限や移動に伴う感染リスクもあり、スタジアムでの試合観戦を身近に感じづらくなっているが、クラブからリモートで楽しめるコンテンツが発信されることで、一昔前には考えられなかったサービスが多く提供されている。

実はこの状況はクラブにとっては追い風とも言える。
クラブ発足から沖縄県内に向けたサービスを展開していたが、陸地でつながっている都道府県がないためどうしてもできることに限界がある。
そこで東京を本社所在地とする企業がパートナーになったり、本土との移動手段となるJTA日本トランスオーシャン航空株式会社とパートナー契約を締結し、イベント実施したりとここ数年は沖縄の地盤固めに励む一方で、事業拡大の一環で県外にも目を向けている。
コロナ禍においてはリモート、SNSで県外のファンや企業に向けて沖縄の魅力、ポテンシャルを発信する機会を創出できる。
「県外企業様からは、一クラブとしてだけではなく、沖縄自体のポテンシャルを感じてサポートいただいている面もございます」と小川取締役社長。

沖縄県外への発信はポスト・コロナにも生きることになるだろう。

沖縄の宝になるために

こうして立て続けに企業とコラボレーションを実現できているのは、クラブと企業の関わり方に変化があったからこそ。以前はスポンサーという名称で企業からPRや広告目的で支援を依頼していたが、昨シーズンからはパートナーと呼び、運命共同体として一緒に行動をしていく考えに変わった。「PRで名前が出るからその分いくら払うという時代感ではなくなってきている。『こういう取り組みをすれば、こういう企業が乗ってくれるのではないか』というように企画レベルを上げていかなければいけない」と小川取締役社長。
コロナの影響もあり企業は宣伝広告費こそ捻出できないが、クラブを通して地域の抱える課題解決や社会貢献ができるなら、という方向性に変わり始めている。

また2019年には台湾サッカー協会と包括的パートナーシップ協定を締結したり、今年ベトナムのサイゴンFCと提携するなど、沖縄ならではの立地を生かしたアジア戦略も展開している。
先述したように本社所在地が東京の企業がパートナーに増えているのは、FC琉球を活用してアジア展開を視野に入れている企業とマッチングし、サッカークラブと連携した事業を模索しているからである。
クラブは運営資金を拠出してもらい、企業はクラブの資源を活用するというwin-winの関係を構築している。

そして最終的には「FC琉球が沖縄の宝になりたいです。まさに、島人ぬ宝。」と小川取締役社長は見据える。
観光が主産業のため経済への大打撃を受けている沖縄には、他にも基地問題や子どもの貧困といった様々な問題が山積している。
むろんそれらをプロサッカークラブ単体で問題を解決することは難しいが、パートナーや行政、サポーターなどFC琉球に関わる全ての人が手を取り合い、一つ一つ行動に移していくきっかけになることを望んでいる。

子どもたちをはじめ、沖縄の宝になるべく挑戦は続く ©FC琉球