で、勝者はどっちだ。試合が終わっても勝ち負けがわからない! スコア上はイーブンになっても、複雑な計算方式で勝者と敗者が…
で、勝者はどっちだ。試合が終わっても勝ち負けがわからない! スコア上はイーブンになっても、複雑な計算方式で勝者と敗者が生まれるのがアウェーゴール決着だ。試合前には理解していたつもりでも、試合後、まわりの顔色をそっと窺ったりして。そのアウェーゴール・ルールが終了になりそうだ。それで、サッカーは面白くなるのかつまらなくなるのか――。
■守備的になりすぎたホームチーム
そうした微妙な違いはあるものの、こうして「世界の常識」となっている「アウェーゴール・ルール」を、では、UEFAはなぜ廃止しようとしているのか。
始まりは、多くの強豪クラブの監督たちからの批判だった。アレックス・ファーガソン、アーセン・ベンゲル、トーマス・トゥヘル、ディエゴ・シメオネ、ジョゼ・モウリーニョらが、次々と「アウェーゴール・ルール」に関する不満を口にした。計算ばかりが先にたち、試合がつまらなくなったというのである。
元来、「アウェーゴール・ルール」は、より攻撃的でファンが楽しめるサッカーを目指したものだった。2戦制の戦いでは、どうしても「アウェーで引き分け、ホームで勝つ」という考え方が主流になる。だから第1戦は、アウェーチームが守備的になり、自陣に引いて守りを固めるという形になる。アウェーチームにも攻撃のモチベーションを与えようというのが、「アウェーゴール・ルール」の目的だった。
ところがこのルールが定着すると、こんどはホームチームが失点を警戒するあまり、守備的になる。とくにビッグクラブと対戦する弱小クラブは、ホームの第1戦で守備を固めて0-0の引き分けに持ち込み、アウェーの第2戦も再び守備を固め戦い、カウンターから1点を目指すというプランに陥りがちだ。
■今度はアウェーチームがドン引きに
「当初の想定とは、まったく反対の効果になってしまっている。いまでは、ホームでしっかり守るのがトレンドだ」と、ベンゲルは2008年という早い時期から語っている。
このルールが採用された1960年代には、欧州各国間の旅行はより時間も費用もかかった。ピッチの状態は千差万別で、「フーリガン時代」を経る前、まだ規制などほとんどないホームのサポーターがアウェーチームにかける圧力は今日の比ではなかった。そしてレフェリングも、サポーターの声に多分に影響された。そうした状況での「アウェーゲーム」は、ピッチもレフェリングもスタンダード化が進んだ今日のサッカーとは大きく違う。
そうしたなか、「アウェーゴール・ルール」はホームチームをより守備的にし、カウンターに頼るつまらないサッカーにしてしまっているというのだ。それはサッカーの魅力を損ね、人気低下にもつながるという。
こうした批判を受け、UEFAは2019年から検討にはいり、その結論がようやく出たのが、ことしの5月だった。
だが、「アウェーゴール・ルール」を廃止すれば、こんどは再びアウェーチームが守備的になるのは間違いない。カウンターを狙うどころか、ドン引きのガチガチサッカーになるのは目に見えている。そしてもしかすると、遠からぬ将来に「アウェーゴール・ルール」が復活する可能性さえある。
■試されるポステコグルーのサッカー哲学
悪いのは制度ではない。「サッカーをすること」より「勝利を得る」ことを優先させる「勝利至上主義」だ。ベンゲルやファーガソンやモウリーニョが嘆いたのも、「互いに攻撃的にプレーしてサッカーをより魅力のあるものにしよう」などという理想主義的な呼び掛けではなく、ただ、自分のチームが「実力どおり」に勝ち上がるのに障害となる相手チームの姿勢を憎んだだけのものだ。
だから私は、勝つこと以上に「エキサイティングな攻撃サッカーができたかどうか」を偏愛するミシャ・ペトロヴィッチやアンジェ・ポステコグルーなどの監督を敬愛する。
だがアンジェは、世界のサッカーから見れば「田舎リーグ」の「田舎チーム」である横浜F・マリノスとJリーグという舞台を離れ、現在の経営規模では欧州のトップ30にもはいらない(2019年の営業収益は8340万ポンド=約113億円)とはいえ、スコットランドでは「常勝」を義務付けられているセルティックでも、同じ哲学を貫けるのだろうか――。