で、勝者はどっちだ。試合が終わっても勝ち負けがわからない! スコア上はイーブンになっても、複雑な計算方式で勝者と敗者が…

で、勝者はどっちだ。試合が終わっても勝ち負けがわからない! スコア上はイーブンになっても、複雑な計算方式で勝者と敗者が生まれるのがアウェーゴール決着だ。試合前には理解していたつもりでも、試合後、まわりの顔色をそっと窺ったりして。そのアウェーゴール・ルールが終了になりそうだ。それで、サッカーは面白くなるのかつまらなくなるのか――。

■オーストラリアを襲った「メルボルンの悲劇」

 だがそのとき、イランが体の奥底に残っていた力の最後の一滴をしぼり出した。後半31分、ペナルティーエリアの右にアジジが侵入し、2人がかりのタックルにいちどは倒れたが、フォローしたMFのエブラヒム・タラミ(6分前に投入されたばかりだった)が拾う。アジジはゴールライン上で両足を伸ばし、体の背後に両腕をついて倒れたままだったが、タラミが触れたボールが自分の前にこぼれてくるのを見るとすぐに立ち上がり、猛烈な勢いで飛び込んでくるオーストラリアGKマーク・ボスニッチが触れる直前にゴール前に流す。受けたMFカリム・バゲリは無人のゴールにけり込むだけだった。

 そして4分後、ボスニッチのゴールキックをはね返したボールがオーストラリア陣の中央にいたFWアリ・ダエイの足元に収まると、右からアジジが相手DFラインの裏に走り、ダエイのスルーパスで抜け出す。そしてGKと一対一になると、冷静に右隅に流し込んで2戦合計スコアを3-3としたのだ。

 そこからのオーストラリアの猛攻はすさまじかった。2失点目の直前に投入されたFWグラハム・アーノルドを加えた3トップめがけてロングパスを送り、こぼれ球を拾って二次攻撃をかけようという「パワープレー」で再三チャンスをつくった。

後半のアディショナルタイムは5分が過ぎても終わらず、当時としてはありえない長さとなった。ようやくハンガリー人のイムレ・ボゾキー主審が笛を吹いたのは、53分7秒のことだった。イランが、1978年以来、20年ぶりのワールドカップ出場を決めたのだ。

 奇妙だったのはここからだった。イランが狂喜し、オーストラリアの選手たちが頭をかかえて立ち尽くすなか、8万のオーストラリア人ファンはまだお祭り騒ぎをしていたのだ。「2試合とも引き分け。さあ、延長戦だ」といった雰囲気だった。「アウェーゴール・ルール」が理解されていなかったのだ。緑・白・赤の国旗を手に場内を1周するイラン・チームを、8万の観客は不思議そうに見守っていた。

■9月のアジア最終予選でもアウェーゴールを適用

 ワールドカップ予選には、現在も「アウェーゴール・ルール」がある。そしてそれは、来年6月に予定されているプレーオフだけでなく、ことし9月にスタートする予定のアジア第3次予選(最終予選)にも適用される。この予選は、現時点では6チームによるホームアンドアウェーの2戦総当たりと予定されている。

 その順位は、もちろん、①勝ち点、②得失点差、③総ゴール数の順で決められるのだが、この3つを適用しても同点の場合には、当該チーム同士の対戦での成績だけが対象となり、そこでも④勝ち点、⑤得失点差、⑥総得点の順で差がつくまでチェックされる。

 そしてそこでも同点の場合には、当該チームが2チームの場合のみ、同士の対戦で「アウェーゴール・ルール」が適用されるのである。

 そしてその次の順位決定優先順位が「フェアプレーポイント」(イエローカード1枚1点、2枚のイエローカードで退場=3点、一発レッドカード4点、イエローカード1枚と一発レッドカード=5点で、全試合でポイントの少ないほう)となり、最後に抽選となる。

■最後のチャンピオンシップでは鹿島が大逆転優勝

 日本でも、「アウェーゴール・ルール」は一般化され、Jリーグルヴァンカップ(ナビスコカップ)、入れ替え戦やプレーオフ、そしてチャンピオンシップなどで使われてきた。2016年のJリーグ・チャンピオンシップ決勝、浦和レッズ鹿島アントラーズは、アウェーゴールで決着がついた対戦だった。

 カシマスタジアムでの第1戦を阿部勇樹のPKで1-0と先行した浦和は、第2戦でも前半7分に興梠慎三の芸術的なボレーシュートで先制、圧倒的な優位に立ったように見えた。しかし最初から2点を入れての勝利が必要だった鹿島はあわてなかった。2戦の総ゴール数だけでなくアウェーゴール数でも同じだった場合(埼スタで鹿島が1-0の勝利をつかんだ場合)には、リーグの2ステージの通算勝ち点で上位のチームがチャンピオンになることになっていたからだ。通算勝ち点は浦和74、鹿島59。浦和の先制点は、鹿島には何の意味もないものだったのだ。

 前半40分に金崎夢生のゴールで1-1とした鹿島は、後半34分、抜け出した金崎が浦和DF槙野智章に倒されてPK。これを金崎自身が決めて2-1と逆転、2戦合計を3-3としただけでなく「アウェーゴール」で上回って優位に立ったのだ。そしてそのまま逃げ切り、Jリーグで8回目の優勝を飾った。

 欧州発祥で世界に広まった「アウェーゴール・ルール」だが、その運用には微妙な違いがある。2戦を終わって総ゴール数でもアウェーゴールでも差がつかない場合には延長戦にはいるが、その延長戦で記録された得点が「アウェーゴール」になるかならないかで、見解が分かれるのだ。ワールドカップ予選やUEFAのクラブ大会では、たとえば延長戦のスコアが1-1の場合、第2戦のアウェーチームの勝利となる。ワールドカップ予選の規約には、「延長戦は第2戦の不可分な一部であるから」と、その理由も明記されている。

 しかしAFCチャンピオンズリーグなどアジアサッカー連盟(AFC)の大会では、延長戦での得点には「アウェーゴール」の計算は行われず、延長戦で1-1の場合、PK戦となる。その理由は、「第2戦ホームのチームには、アウェーで延長戦をする可能性がないから」とされている。Jリーグのルヴァンカップも同様である。

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