リザーブの山本幸輝は、グラウンドに出る前から自信を持っていた。最前列左で組むスクラムに関して、である。

「ベンチから相手のスクラムを観ていて、いつも通り自分のスクラムを組めれば、と」
 
 2月25日、本拠地の東京・秩父宮ラグビー場。国際リーグのスーパーラグビーに日本から参戦するサンウルブズは、発足2シーズン目の開幕節で手を焼いていた。前年度王者のハリケーンズに相次ぎ失点し、結局は17-83と大敗する。

 厳しい現実を突きつけられた格好だが、スクラムのまとまりには確かな手ごたえをつかんだ。最前列3名が強固にまとまり、それを後列の5選手が押し込む。長谷川慎スクラムコーチが唱える形を、反復練習で落とし込んでいた。

 国内所属先のヤマハでも長谷川コーチの指導を受けていた山本は、この日、後半19分から登場。三上正貴に代わって、持ち場の左PRに入った。

「相手は上体が高いのですが、体重をかけて押せる体勢を作ろうとしているのが見えた。入る前に三上さんからは『相手(の右PRに入っていたマイク・カインガ)は内側に入ろうとしているけど、それを右肩で押さえれば問題ないよ』とアドバイスももらえた。そこを意識して…」

 スクラムの優劣は、立ち上がりからイーブンを保った。お互いの運動量が落ち始めた終盤からは、サンウルブズが優勢に出る。

 後半25分ごろ、自陣22メートルエリアで電車道を貫きスタンドを沸かせる。

 そして34分、敵陣ゴール前でペナルティキックを得るやスクラムを選択。大きく手をたたき、山本が位置につく。

 この時、ハリケーンズはLOのマイケル・ファティアロファを一時退場処分で欠いていた。その後の防御を見据えてか、6人でスクラムを組むこととなる。

 山本たちがせり上がるのは、必然かもしれなかった。

 プッシュ。腰を落としたまま、対面の上体を起こす。後方両側面を抑えるサンウルブズのFL陣も、背中を背筋と平行に保っていた。

 8人の一体感は、相手のコラプシング(塊を故意に崩す反則)を誘うのだった。

 ここから再度、スクラムを選択。サンウルブズは見せ場を作りたかったが、ハリケーンズも意地を示した。組む人数を7人とし、より低い姿勢を取る。サンウルブズは、思うような攻略ができなかったという。

 どうやら2本目の折、相手の選手は地面に手をつきながら耐えていたとの証言がある。もし、レフリーからそのように見なされれば、もう一度ハリケーンズの反則が重なったろう。山本は振り返る。

「向こうは何としてでも止めようとしていて…。そこでもこだわり切れたらもっとよかった。ただ、(1本目の)スクラムでペナルティを取れたことは、自信につながったと思います」

 この一連のスクラムには、隣で組んでいたHO、日野剛志も「1本押してペナルティを取ったけど、相手の絶対に押されちゃいけないというプライドで止められた。向こうはダン・コールズ(途中出場のニュージーランド代表HO)を中心に『絶対に押されるな!』と言っていたようだった」。ヤマハでも山本のチームメイトである背番号16とて、収穫と課題を口にしていた。

 もっとも確かなことはひとつ、あった。チームは2月1日に始動したばかりなのに、反復練習が必要なスクラムで手ごたえをつかんだのだ。

 試合終盤には向こう側より素早くまとまり、相手ボールスクラムを左側から押し返した。背番号17は、「時間的にも最後。本来の形であればバズさん(サンウルブズの右PRに入った浅原拓真)が真っすぐ前に出るなか、僕が(力学上、足もとへ来る)ボールへプレッシャーをかけたかったところ。それで結果(スクラムが左から右へ)、回ってしまったのですけど、押すという姿勢は最後まで貫き通せた」と、内なる感覚を明かす。

 長谷川コーチの唱えるスクラム理論には後方からの押しも不可欠だが、山本はこうも続ける。

「そこには長谷川さんのわかりやすい落とし込み方もあると思います。ここまでスクラムに対する勉強をするのは初めてという人(FW第2、3列目)もいるなか、それぞれがまじめに取り組んでくれる。あとで映像を観返したらわかると思うんですけど、相手選手と組む前の準備が全然、違う。そこまでやってくれると僕らもこだわりがいがあるというか、信頼して(相手に)挑んでいける」

 身長181センチ、体重116キロの26歳は、2013年度にヤマハ入り。前年度もサンウルブズに参戦して開幕節に出場した。しかしその直後には、重度の肉離れで離脱を余儀なくされていた。昨秋の日本代表デビューを経て迎えた今季は、実り多き日々を過ごしたい。(文:向 風見也)