東京都大井埠頭に設営された特設コースを舞台に5月30日、ステージレース 2021ツアー・オブ・ジャパンの最終ステージが開催された。第1・第2ステージのレポートはこちら富士山ステージ相模原ステージ大会には登坂能力がカギを握るアップダウンコース…

東京都大井埠頭に設営された特設コースを舞台に5月30日、ステージレース 2021ツアー・オブ・ジャパンの最終ステージが開催された。

第1・第2ステージのレポートはこちら
富士山ステージ
相模原ステージ

大会には登坂能力がカギを握るアップダウンコースを用いるステージが多い中、東京ステージはオールフラットのコースを用いており、例年スプリンターたちが勝利を狙い込み、迫力のある高速レースが展開される。



大井埠頭の周回コースを用いる東京ステージ



高低差はなく、オールフラットのスプリンターコースだ

日曜日の東京ということもあり、毎回多くの観客でひしめき合うのだが、今年は大会からの観戦自粛要請があり、がらんとしたサーキットの中での開催となった。



各賞のリーダージャージを着た選手たちが先頭に並ぶ

個人総合成績1位の増田成幸(宇都宮ブリッツェン)がグリーンジャージ、U23首位の留目夕陽(日本ナショナルチーム)がホワイトジャージを守っており、ポイント賞は前日のステージ優勝で手に入れたホセ・ビセンテ・トリビオ・アルコレア(マトリックスパワータグ)が、山岳賞ジャージは繰り上げで2位のトマ・ルバ(キナンサイクリングチーム)が着用する。
個人総合順位では、1位の増田と2位のトマ、3位の山本大喜(キナンサイクリングチーム)との間にそれぞれ11、44秒の差が残っている。上位選手は各チームにマークされていることもあり、平坦のコースで自ら抜け出し、大差をつけて勝利するのは非常に難しいが、最後の最後まで、何が起きるかわからない。なんとしても1勝をもぎ取りたいスプリンターチーム、個人総合の挽回を狙いたいチームなど、各チームそれぞれの思惑が入り乱れる。



パレードを走る小泉氏のバイクはフレーム、ホイール共にマホガニー製!木の乗り心地は絶妙なのだとか

まずはパレード走行が始まった。トライアスリートでもある都議会議員の白戸太朗氏や、サイクリストである自転車活用推進議連の顧問を務める小泉昭男氏らが先頭を走る。



タイム差を選手たちに伝えるボードにはウェルカムメッセージが

3.8kmの走行の後、いよいよレースがスタート。1周7kmの周回を16周する設定だ。開始早々、抜け出しをかけたアタックが続くが、リスクを恐れるリーダーチームに、動きはことごとく潰され、逃げ出しは叶わない。



レースがスタート



チームメイトに守られながら、慎重に走る増田

4周回が終了し、最初のスプリントポイントも集団のまま通過。



新緑が美しい大井埠頭の倉庫街を集団が走り抜ける



集団を抜け出した入部正太朗(弱虫ペダルサイクリングチーム)と平井光介(⽇本ナショナルチーム)

日本チャンピオンジャージを着た入部正太朗(弱虫ペダルサイクリングチーム)と平井光介(⽇本ナショナルチーム)が抜け出し、差を開くシーンがあったが、ほどなく大集団に吸収され、8周回が完了。2回目のスプリントポイントは仮屋和駿(日本大学)が獲得した。

折り返しを越えた9周目。横塚浩平(チーム右京 相模原)、渡邊翔太郎(那須ブラーゼン)、岡本隼(愛三⼯業レーシングチーム)、川野碧⼰(弱⾍ペダルサイクリングチーム)、⼩林海(マトリックス パワータグ)が先行、ようやく集団が容認し、逃げ集団が作られることになった。タイム差は30秒あまり。集団は増田を擁する宇都宮ブリッツェンがコントロールする姿勢を示す。
逃げる5人と一定の差をキープし周回を回るメイン集団。最前列にはブリッツェン、その後ろには2位、3位のトマ、山本大喜を擁するキナンサイクリングチーム、さらに後ろには、このステージの勝利を狙うスプリンターチーム、スパークルおおいたの選手たちが並ぶ。



逃げ続ける5名

ブリッツェンにとっては、リスクを冒して今日のステージ優勝も狙いに行くよりは、動きを押さえ込み、このままゴールして増田の個人総合を確実に狙いたい思いもあるだろう。11秒のタイム差を覆す好機を見つけられないキナンもこのまま追随。先頭を捕らえに行くよりは、守る方向になったのか、淡々としたペースで周回をこなしていく。
先頭5名の中には、岡本、川野と2名のスプリンターが入っている。ここに勝機のある選手を送り込んでいないチームからも動きはなく、メインはきれいにまとまった大集団のままレースは進んでいく。



先頭集団から抜け出した川野碧⼰(弱⾍ペダルサイクリングチーム)と⼩林海(マトリックス パワータグ)

ラスト3周、捕まることを嫌った小林、川野の2名が先頭5名から飛び出す。ステージ優勝を狙うチーム、個人総合の順位をひとつでもあげたいチームにとっては、危機的状況のはずだが、リーダーチームのコントロールが盤石なのか、有力チームから新たな動きが出てこない。若手数名の飛び出しがあったが、ほどなく集団に吸収された。



逃げ切りに向け、走り続ける川野と小林



先頭を捕らえたいチームが前に出て決死で追う体制にはならず、横に広がるメイン集団

2名は40秒のタイム差を保ちながら最終周回に突入する。1周の距離はわずか7km。逃げ切りの可能性が極めて濃厚になった。

ステージ優勝は2名の一騎討ちで決されることになった。逃げ切りのための協調体制を終了させ、正々堂々と勝負に挑む2名。最後のストレートに差し掛かり、スプリントが始まった。掛け合いからわずかに前に出たのは川野。このまま押し切って、弱冠19歳の川野が、ツアー・オブ・ジャパン東京ステージの王者の座を手に入れた。



見事一騎討ちを制した川野

弱⾍ペダルサイクリングチームは、漫画「弱虫ペダル」の作者、渡辺航氏が立ち上げた総合サイクリングチーム。UCI(世界自転車競技連合)登録されたチームではないが、冬の競技シクロクロスでは、すでにチャンピオンを輩出する日本を代表するチームになっており、ロードレースでも存在感を高めてきていた。世界を目指す選手たちが在籍し、この国際ロードレースでも「戦える」ことを証明することになった。
3位は集団スプリントとなり、沢⽥桂太郎(スパークルおおいた)が競り勝っている。
個人総合に関しては、順位に変動は生じなかった。増田成幸はしっかりとグリーンジャージを守り抜いた。



表彰台で喜びを語り、笑顔を見せる川野

優勝した川野は慶應大学の2年生。この優勝で得たゴールポイントで、ポイント賞も獲得した。「最初、逃げ切りは無理かと思っていたが、2人で抜け出してからタイム差が縮まらなかったので、これは行くしかないと思って心を決めて行った」と語る。「前日の(ポイント)順位を見て、逃げたらポイント賞の可能性もあるかと」思い、逃げに加わったという。だが、終盤は逃げ切りの可能性に備え、できるかぎり脚を使わず、温存し、ゴールに備えていたと語った。リーダージャージを着るのは人生初だという川野。フレッシュな喜びが伝わるインタビューだった。

グリーンジャージを守り抜いた増田。重圧から開放され、やわらかい笑顔を見せた

2004年以来、17年ぶりの日本人として2人目の個人総合優勝を決めた増田成幸。厳しかった第2ステージも振り返りながら、グリーンジャージ獲得の喜びを語った。増田は来る東京五輪の日本代表に決定しており、五輪を今シーズン最大の目標と語った上で「新城選手と日本代表チームを組んで、最強の2人で日本を背負って走れるように、自分自身気を引き締めてやって行きたいと思っている」と力強く語った。
コロナ禍で、日本国内ではレース数も少なく、研ぎ澄まされたコンディションを維持するのは非常に厳しい状況であるに違いない。その中でも、今回のパフォーマンスは自身をベストの状態に保っていることを示したと言えるだろう。今回は制限されたメディアの中のみでの表彰式となったが、増田への敬意を示す拍手が鳴っていたのが印象的だった。



確定した4賞のリーダージャージの獲得者、増田、川野、留目。すばらしい健闘だった

新人賞の留目は、3日間守り抜いた喜びを語るとともに「今後は世界を舞台に次はネイションズカップなど、海外のレースで更に上を目指して行きたいと思います」と決意を表明し、インタビューを締め括った。



チーム総合を獲得したマトリックスパワータグ。選手個々の個性がにじみ出るポージング

チーム総合は、マトリックス パワータグが獲得。この日、小林の2位を受け、2位以下との差を開いての優勝確定だった。

感染症対策で厳戒態勢だった異例づくしのツアー・オブ・ジャパンが閉幕した。参加選手、帯同スタッフは2回のウィルス検査を経て、バブルの中に入り転戦、取材メディアも数を抑え、さらに動きも制限。会場に入るには、検温と不織布マスク、フェイスシールドが必須となり、バブル内の人たちとの接触は禁止された。


がらんとしたチームテントエリア。例年は選手との交流目当てでファンが押し寄せ、にぎわうが、今年はメディアですら選手団との直接の接触は禁止された

神経をすり減らすような厳しい運営となったが、選手、関係者からこの状況下で大会を実現させたことに対する感謝の言葉が多く聞かれたことも印象的だった。良質なライブ中継も好評ではあったが、来年こそは、通常の形で大会を開催できることを祈りたい。

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【結果】ツアー・オブ・ジャパン 第3ステージ東京

【ステージ順位】
1位/川野碧⼰(弱⾍ペダルサイクリングチーム)2時間16分44秒
2位/⼩林海(マトリックス パワータグ)+00秒
3位/沢⽥桂太郎(スパークルおおいた)+26秒

【個⼈総合時間賞(グリーンジャージ)】
1位/増田成幸(宇都宮ブリッツェン) 7時間33分21秒
2位/トマ・ルバ(キナンサイクリングチーム)+11秒
3位/山本大喜(キナンサイクリングチーム)+44秒

【個⼈総合ポイント賞(ブルージャージ)】
1位/川野碧⼰(弱⾍ペダルサイクリングチーム)35pt
2位/⼩林海(マトリックス パワータグ)29pt
3位/ホセ・ビセンテ・トリビオ・アルコレア(マトリックス パワータグ)25pt

【個⼈総合⼭岳賞(レッドジャージ)】
1位/増田成幸(宇都宮ブリッツェン)15pt
2位/トマ・ルバ(キナンサイクリングチーム)12pt
3位/山本大喜(キナンサイクリングチーム)10pt

【個⼈総合新人賞(ホワイトジャージ)】
1位/留目夕陽(日本ナショナルチーム)
2位/⼩出樹(京都産業⼤学)
3位/仮屋和駿(日本大学)

【チーム総合順位】
1位/マトリックス パワータグ
2位/キナンサイクリングチーム
3位/チーム ブリヂストンサイクリング

写真、画像提供: 2021ツアー・オブ・ジャパン、編集部