日本が産んだ"モンスター"の、2021年初のリング登場が間近に迫っている。 WBAスーパー、IBF世界バンタム級王者の井上尚弥(大橋ジム)は現地時間6月19日、米ネバダ州ラスベガスのバージン・ホテルで、IBF指名挑戦者のマイケル・ダスマリ…

 日本が産んだ"モンスター"の、2021年初のリング登場が間近に迫っている。

 WBAスーパー、IBF世界バンタム級王者の井上尚弥(大橋ジム)は現地時間6月19日、米ネバダ州ラスベガスのバージン・ホテルで、IBF指名挑戦者のマイケル・ダスマリナス(フィリピン)との防衛戦を行なう。デビューから20戦全勝(17KO)の井上は、今では全階級を通じて最高級のボクサーと目され、伝統ある『リングマガジン』のパウンド・フォー・パウンド・ランキングでも2位にランクされている。



6月19日に防衛戦を行なう井上尚弥

 一方、30勝(20KO)2敗1分のダスマリナスには目立った実績がなく、戦前の予想でも「井上が絶対的に有利」と目されている。そんな試合の見どころ、井上がやらなければいけないこと、そしてダスマリナスが大方の予想を覆して善戦する可能性などを、 元WBO世界スーパーライト級王者のクリス・アルジェリ(アメリカ)に聞いた。

 37歳のアルジェリは今も現役だが、その聡明さを買われて『ESPN』のボクシング放送で解説者、アナリストも務める理論家だ。2014年11月には、判定で負けたものの、英雄マニー・パッキャオ(フィリピン)と対戦した経験も持つ。

 そんなアルジェリは、軽量級離れしたパワーの持ち主で、最近では"ネクスト・パッキャオ "とまで称されるようになった井上をどう分析するのか。

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――井上が米リングでスーパースターになっていくために、ダスマリナス戦、その先の試合でどんなパフォーマンスを見せる必要があるか。

 ダスマリナスとの試合は井上が絶対有利ですが、特別なことをする必要はないと考えています。今後、井上は勝ち続けて世界バンタム級のタイトルを防衛していくだけでなく、アメリカのファンを魅了することが課せられていくでしょう。しかしそのために、これまでと何かを変えるべきではないというのが私の意見です。

 昨年10月31日、MGMグランドガーデンでのジェイソン・マロニー(オーストラリア)戦で、井上はラスベガスのリングに初登場しました。そこでの戦いぶり、内容、勝ち方はすばらしかった。アナリストとして見ていて、技術面でも突っ込みどころはなかったですし、最終的には文句のないKO勝ち。私にとっての"フェイバリット・ファイター"のひとりになりました。どんな媒体で「パウンド・フォー・パウンド」ランキングを決めても、確実にトップ5に入ってくるボクサーです。

 アメリカのボクシングファンによる、軽量級の選手への評価が手厳しいということは否定できない事実です。その中で「スーパースターになる」ということは、毎試合のようにハイレベルのパフォーマンスを見せなければいけないということ。そういった意味では、井上が中量級、重量級の選手よりも難しい立場にいるのは確かでしょう。

 ただ、これまでのキャリアをあらためて振り返れば、その難題をクリアしてきた選手であることに誰もが気がつくはずです。ほぼすべての試合でハイライトになるようなKOシーンを生み出し、その破壊力、スキルをファンにアピールしてきました。自身の前にある高いバーを飛び越え続けてきたボクサーなのです。

 だから先ほども言ったように、これから先も何か特別なことをやる必要はありません。ダイナミックなKOが好まれるのはどこの国でも同じです。今までと同じように勝ち、KOを積み重ねていけば、アメリカでもより多くの人々が彼の能力、魅力に気づくはず。あれだけの選手であれば、それが必然だと考えています。

――井上対ダスマリナス戦の予想展開は? 絶対不利と見られている挑戦者が善戦し、番狂わせを起こすとしたら何が必要なのか。

 ダスマリナスが善戦するためには、何らかの形で井上にフラストレーションを感じさせる必要があるでしょう。ダスマリナスのキャリアをそれほど詳しく追いかけてきたわけではないですが、彼が長身のサウスポーで、シャープなパンチを打つ選手であることはわかっています。

 井上は非常にリズムがよく、自分のペースに持ち込むのが上手な選手。今回の試合でも彼がリズムを掴んでしまえば、一方的な戦いになるでしょう。ダスマリナスはサイズとサウスポーの利点を生かし、継続的に角度を変えたパンチを打って井上を戸惑わせ、なんとかしてそのリズムを崩さないといけません。

 もうひとつ重要なのは、ダスマリナスが試合の早い段階で、井上の"リスペクト"を得ることです。言い方を変えれば、強烈なパンチを打ち込み、ダメージを与えられなくても「警戒が必要だ」と感じさせること。それができた時、攻略の糸口が見えてくるのかもしれません。

 ただ、これまで話してきたことは言うのは簡単ですが、井上のような選手を相手に実際にやり遂げるのは難しい。正直、6月19日の井上対ダスマリナス 戦は、私はそれほど長い夜(=長期戦)になるとは考えていません。ほぼすべての面で明らかに上回る井上が、問題なく試合の中盤でKO勝ちを収め、さらなるビッグファイトにつなげることでしょう。