スタート前の段階では、今年に入ってすでに5勝(2020-2021シーズン6勝)を挙げ、世界ランキングによって決まる東京五輪代表も有力視される稲見萌寧が逃げ切る――それが、大方の予想だったに違いない。 3日目を終えて通算16アンダーで首位に…

 スタート前の段階では、今年に入ってすでに5勝(2020-2021シーズン6勝)を挙げ、世界ランキングによって決まる東京五輪代表も有力視される稲見萌寧が逃げ切る――それが、大方の予想だったに違いない。

 3日目を終えて通算16アンダーで首位に立つ稲見を、同じ最終組の木村彩子、青木瀬令奈らが4打差で追う展開だった宮里藍 サントリーレディス最終日。

 勝負は意外な展開を辿る。

 三者のスコアが動かないジリジリとした緊迫感のなか、最終組で最初にバーディーを奪ったのは青木だった。5番のパー4で2打目を1.5mに寄せて決めると、続く6番パー3では7mのロングパットを沈めた。

 さらに、8番でも長いバーディーパットを決めて、とうとう稲見に一打差に迫る。青木が振り返る。

「(最終組の)3人ともパーが続いて、スコアが動かないなかで、私が先にバーディーを取ることができて『ヨシ!』とは思いました。萌寧ちゃんは初日からノーボギーを続けていたけど、萌寧ちゃんも人間だろうから、ミスをする時はミスするだろうし、何かしら起こる時は起こる。何も起こらなかったら"それまで"と思いながらスタートしました」

 その何かが、稲見に襲いかかる。9番でボギーを叩き、10番でバウンスバックに成功したものの、11番、14番でスコアを落とし、いつしか青木と後続の山下美夢有に逆転を許していた。

 稲見は、青木と同組でプレーしながら、冷静にこんな印象を抱いていた。

「(青木は)ティーショットもセカンドも曲がらないイメージが強くて、ずっとフェアウェーのいい位置にあるし、セカンドもチャンスについて、パターもしっかり決めていた。ボギーを打たなそうなゴルフでした。

 ただ、私は他の人のプレーを気にしていなくて、自分のショットの調子がよくないなかで耐えながら、チャンスにつけば『決められたらいいな』と思いながらプレーしていた。だけど、チャンスがなかなかこなくて......苦しい状態でした」(稲見)

 青木は、そんな稲見を横目に黙々とプレーしていた。目の前の結果に一喜一憂することなく、感情を表に出すことはほとんどなかった。

「私はちょっと、気持ちの浮き沈みが激しいところがある。緊張であがったりするので、感情を抑えようと思って、表情筋を"無"にしてやろうと今日は思っていました。18ホールを、気持ちと心拍数をなるべく低い位置で保つように心がけていました」



宮里藍 サントリーレディスで4年ぶりの優勝を飾った青木瀬令奈

 最終的には、稲見もふたつのバーディーを奪い返して粘りを見せたものの、通算17アンダーまで伸ばした青木が、2017年のヨネックスレディス以来となるツアー通算2勝目を飾った。

「本当に長かった。今年は不振だったのでしんどかったです......。でも、2015年から支え続けてくれて、励まし続けてくれた大西(翔太)コーチに感謝の気持ちでいっぱいです。(キャディーを務めた)今日も、途中で笑わせてくれようとしてくれて......。でも、私は『笑わない』と決めていたので、笑いをこらえながらのラウンドでした(笑)」

 青木のドライバーの平均飛距離は、ツアー89位となる218ヤード。全米女子オープンを制したツアートップの笹生優花はおろか、飛距離では稲見にも遠く及ばない。

 それでも、スタッツの上位となる平均パット数(3位)と、フェアウェーキープ率(8位)が示すとおり、安定したティーショットとショートゲームを武器にして、トーナメントレコードタイとなる17アンダーを積み上げた。

「『この飛距離で同じ土俵で戦うのは大変でしょう』って言われるけど、それが当たり前でやってきたのが、私のゴルフ人生。もちろん、1ヤードでも遠くに飛ばしたいし、1番手でも短いクラブで打ちたいけど、それは永遠のテーマとして、自分のゴルフのよさを見失ってはいけない。

 150ヤード以上を打つクラブ(の精度)や、アプローチやパターといった自分の生命線をしっかり磨かなきゃと日々思っています。今日はそのへんの精度がよかった」

 28歳といえども、現在の日本女子ツアーでは中堅以上の立場だ。まして、青木は昨年からプレーヤーズ委員長(いわゆる選手会長)を務めていて、コロナ禍によって大会の中止が相次いだ昨年から、難しい調整を強いられてきたことは想像に難くない。

「苦労とは考えてないです。プラスのことも多くて、いろんな選手が声をかけてくれて、コミュニケーションをとるきっかけにもなっているし、頼ってもらえるのはありがたいこと。みんながコロナ対策をきちんとしてくれているので、何事もなく試合が行なわれている。そのへんはみんなに感謝しなきゃ」

 今、最も勢いに乗る稲見に競り勝ったことで、プレーヤーズ委員長の視線は早くも先へ、この優勝で出場資格を得た全英女子オープン、そして国内3勝目へと向いていた。