5月のベストセーブは首位を走る川崎の守護神が見せたセーブ 元日本代表GK楢﨑正剛氏が選んだ5月度の「月間ベ…
5月のベストセーブは首位を走る川崎の守護神が見せたセーブ
元日本代表GK楢﨑正剛氏が選んだ5月度の「月間ベストセーブ」は川崎フロンターレのGKチョン・ソンリョンのワンプレーだ。5月16日の第14節・北海道コンサドーレ札幌戦(2-0)の60分、キックの名手・DF福森晃斗がゴール正面やや遠い位置から狙った直接FKに反応し、右手一本でファインセーブ。開幕から続けている無敗を守り、2-0の勝利に大きく貢献した。
ここまで開幕から21試合を消化して17勝4分と圧倒的な強さで首位をひた走っている川崎だが、要所で光るソンリョンのファインセーブがチームに与える影響とは。かつて日韓戦やAFCチャンピオンズリーグ(以下ACL)の舞台でも対戦したことのある楢﨑氏とソンリョンの対談が実現した。
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楢﨑「ソンリョン選手、今日はよろしく!」
チョン・ソンリョン(以下ソンリョン)「ナラさん、お久しぶりです。今日はよろしくお願いします!」
楢﨑「さっそくだけど、僕が5月の月間ベストセーブに選んだのは、札幌戦でソンリョン選手が福森晃斗選手の直接FKをセーブした場面です」
ソンリョン「ナラさんに僕のプレーを選んだもらえて本当に光栄です。ありがとうございます」
楢﨑「ゴールまでちょっと距離がある位置からの直接FKだったけど、キッカーの能力を考えるとちょうどいい距離だったと思う。壁のことをあまり考えずにキックに集中できる距離というか」
ソンリョン「そうですね。僕の中で福森選手は、アジアの枠を超えて世界レベルの力を持ったキッカーです。キックにスピードと正確性があり、それでいて威力もあります」
楢﨑「得点の匂いがするキッカーにああいう位置でチャンスを与えるのは、GK心理としては非常に嫌だよね。ソンリョン選手のプレーを見ていると、もっと難易度の高いセーブでチームを救っていることもあるけど、直接FKを止めるという仕事はGKにとって重要なので選びたかったという気持ちもあるんだ」
ソンリョン「簡単に止めたように見える人もいるかもしれませんが、僕の中ではとても難しい判断と技術を要求されるプレーでした。壁を作るとボールはあまり見えませんし、さらにあのスピードのキックが曲がって落ちてくる。少しでも左に重心を傾けていたら追いつかなかったと思います。運が良かったかもしれません」
楢﨑「運が良かったというのは謙遜でしょう。他のGKで、先に動いて結果的にセーブできてしまう場面もあるけど、ソンリョン選手はしっかりとボールの動きを見てセーブしようという狙いを感じる。そのあたりは意識している?」
ソンリョン「あの場面は、自分から見てゴールの右サイドを壁でブロックし、左サイドをGKが守るのがセオリーだと思います。でも、もし左サイドにゴールされてしまったらGKの責任です。だからできるだけ最後まで我慢して、ボールより先に動かないことを意識していました」
中村俊輔、マテウス…ソンリョン選手が語るFKの名手とは
――福森選手はJリーグ屈指のキッカーとして知られています。お二人が対戦してきた選手で印象的なキッカーはいますか?
楢﨑「福森選手はFKだけでなくCKもすごく危険なボールを蹴る。僕はあまり対戦経験がないけど、どのチームもとても苦労している印象があるよね。スピードがあって、狙っているポイントにしっかりと蹴れる。僕が対戦してきた世代だと、シュン(中村俊輔/現・横浜FC)のイメージに近い。ソンリョン選手にとって怖いキッカーはいる?」
ソンリョン「昨日、横浜FCとの試合だったんですけど、俊輔さんはとてもうまかったです(※この対談は6月3日に実施)。あとは名古屋グランパスのマテウス選手も危険なキッカーだと思います」
楢﨑「マテウス選手は福森選手とタイプが違って、無回転のキックを蹴るからGKとしては大変だよね。ボールの変化が読みにくい。フロンターレの強さは誰の目にも明らかだと思うけど、それでも試合の中でピンチが全くないわけではない。そういった場面をGKがしっかり食い止めるのか、それとも決められてしまうのかでは、その後の展開が大きく変わってくる。福森選手の直接FKの場面も1-0の状況で、もし決められて1-1になっていたら試合の行方は分からなかった」
ソンリョン「チームの調子は良いですが、自分ができるベストの仕事をやることを心掛けています。一試合、一試合に決勝のような気持ちで臨んでいるから、今の成績を残せているのだと思います」
楢﨑「今のフロンターレには、もし1失点しても2、3点取ってくれる信頼感があるはず。1失点したらその後が大変だと思って臨むのとは違うと思う。GKの心理としては、ある程度余裕を持って楽しみながら取り組めるんじゃない?」
ソンリョン「みんなでサッカーを楽しんでいるという感覚はあります。それにナラさんがおっしゃったように点を取ってくれるという信頼感があるので、積極的な守備ができています。それがいい結果につながっている部分もあると思います」
楢﨑「GKとして止めなければいけないところをしっかり止める。ソンリョン選手のプレーにはそれが随所に見えるから見逃さないでほしいと思うよ」
ソンリョン「フィールドプレーヤーを信じていますが、その反面で『すべてを信じてはいけない』という考えも持っています。どんなに優れた選手、チームでもミスは必ず起きてしまうので、GKとしていつも良い準備をしなければいけません」
楢﨑「僕自身は今、育成年代の指導をしているので、今のソンリョン選手の言葉を子どもたちに伝えるよ!」
ソンリョン「僕にも何か教えてください!」
楢﨑「僕からソンリョン選手に教えることは何もないよ(笑)」
――お二人は過去にJリーグの舞台以外で対戦経験があると耳にしました。
楢﨑「たしかソンリョン選手がまだ水原三星ブルーウイングスでプレーしていて、ACLで名古屋と対戦した時だよね。試合が終わってソンリョン選手からユニフォーム交換を申し込まれたのを覚えているよ」
ソンリョン「昔からナラさんのようなスタイルのGKが大好きなんです。あくまでも僕の個人的な考えですが、GKは常に落ち着いていないといけない。それでナラさんのプレーを昔から知っていて、見習うことが多いと感じていました。一喜一憂することなく常に落ち着いていて、それでチームを勝利に導く。『このスタイルだ!』と思いました」
楢﨑「自分もそのスタイルを貫いてきたので、ソンリョン選手のような素晴らしい選手にそうやって言ってもらえるのはすごくうれしい。確かにGKにはいろいろなタイプがいて、いろいろなスタイルがあるけど、僕とソンリョン選手は似ているタイプかもしれない」
ソンリョン「ナラさんに似ていると思ってもらえたらすごく光栄です」
楢﨑「そういえば近年、Jリーグでソンリョン選手を始めとした韓国人GKが活躍している流れがあるけど、その流れや理由についてどう思う?」
ソンリョン「日本人GKのレベルは高く、競争力も高いです。韓国人GKはヨーロッパで活躍した歴史がありません。それは今だけでなく過去も含めて、です。日本人GKは多くの選手がヨーロッパでプレーしていますし、それが水準の高さを物語っていると思います。僕自身、日本でプレーするようになって見習うべき点がたくさんありますし、育成年代の指導もレベルが高いと感じます」
楢﨑「日本人は隣の芝生が青く見えてしまう性格なのかな(笑)。でも、韓国人GKが増えたことに刺激を受けて力を入れている部分も少なからずあると思う。育成に関しては、地道な努力を続けてきたことで、少しずつ成果が出てきたかもしれない」
GKが変わっているのは世界共通の認識だった!?
――余談ですが「GKは変わっている人が多い」と聞きます。お二人はどのように思いますか?
ソンリョン「僕自身は変わっていないと思います」
楢﨑「みんな自分ではそう言うよね(笑)」
ソンリョン「そうですね(笑)。でもそういった言われ方をすることも多いみたいですね」
楢﨑「やっぱり韓国でもそうなんだ! 聞くほうが愚問だよね? それに『僕は変わっています』と自分で言うGKはいない(笑)」
ソンリョン「絶対に言わないです(笑)。フィールドプレーヤーからGKになった選手が多いと思いますが、ナラさんは何歳からサッカーを始めたのですか?」
楢﨑「本格的に取り組むようになったのは13歳くらいだったかな。それまではFWもやっていたけど、本格的に取り組むようになってからはGKとしてプレーするようになったんだ。ソンリョン選手は?」
ソンリョン「僕は小学5年生の時にサッカーを始めて、最初はDFでした。GKになったのは中学1年生の時です。韓国にいる小学5年生の息子もGKなんです」
楢﨑「GKのことなら教えられるからいいよね。ウチの子どもはFWだから、僕は何も教えられない(苦笑)」
ソンリョン「サッカー選手の血が流れているからきっと大丈夫ですね」
――GKというポジション柄、失点してしまう場面もどうしてもあると思いますし、かといって得点チャンスはほとんどありませんよね。それでもGKを続けているメンタルの強さに感服します。
ソンリョン「それがすべてのGKの宿命です。GKはゴールを守らなければいけないし、それが職業です。でも僕は韓国でプレーしている時にGKコーチに言われたことがあります。『GKはゴールされる職業だ』と。最初はその意味が全く分からなかったですが、それはすごくポジティブな言葉なんです。ゴールされたとしてもプレーを続けなければいけないですし、チームを守り続けなければいけません」
楢﨑「また育成年代の子どもたちに伝える言葉が増えました(笑)。みんなその重い宿命を背負っていて、だから比較的変わっている人間に見えるのかもしれないね。ソンリョン選手はこれからACLもあるし、なかなかハードな日程だね。勝ち続けるのは大変だと思うけど頑張って! 応援しているよ」
ソンリョン「今日は本当にありがとうございました。直接お会いして話したかったですが、まるですぐ横にいて話しているかのように楽しい時間でした。ナラさんにまた選出してもらえるように頑張ります」
楢﨑「新型コロナウイルスが収束したら、食事に行く約束を果たしましょう」
ソンリョン「ぜひ、よろしくお願いします!」
■楢﨑正剛
1976年4月15日生まれ、奈良県出身。1995年に奈良育英高から横浜フリューゲルスに加入。ルーキーながら正GKの座を射止めると、翌年にJリーグベストイレブンに初選出された。98年シーズン限りでの横浜フリューゲルス消滅が決まった後、99年に名古屋グランパスエイトへ移籍。2010年には、初のJ1リーグ優勝を経験し、GK初のMVPに輝いた。日本代表としても活躍し、国際大会では2000年のシドニー五輪(OA枠)、02年日韓W杯などに出場。19年1月に現役引退を発表し、現在は名古屋の「クラブスペシャルフェロー」に加え、「アカデミーダイレクター補佐」および「アカデミーGKコーチ」を兼任。21年からはJFAコーチとしても活躍している。(藤井雅彦 / Masahiko Fujii)