まさに芽吹く新芽の如くか。ラグビーの新生・日本代表が、サンウルブズの気概に気圧(けお)されながらも、交代で入った代表経験の浅い若手がチームにインパクトを与えた。とくに初代表の23歳、SH(スクラムハーフ)の齋藤直人。ハツラツプレーで光り輝…

 まさに芽吹く新芽の如くか。ラグビーの新生・日本代表が、サンウルブズの気概に気圧(けお)されながらも、交代で入った代表経験の浅い若手がチームにインパクトを与えた。とくに初代表の23歳、SH(スクラムハーフ)の齋藤直人。ハツラツプレーで光り輝いた。



日本代表のスクラムハーフ齋藤直人

「本当に最高の気分でした」。目標と公言していた桜のジャージを着た齋藤はそう、言葉に実感をこめた。

「試合前のホテルでのミーティングでジェイミー(ジョセフ・ヘッドコーチ)から、とくにニューメンバーはこのジャージをリスペクトしてプレーしてくれと言われていた。ラグビーを始めた時から、日本代表をひとつの目標としていたので、このジャージを着てプレーできたことを光栄に思いました」

 12日、静岡・エコパスタジアム。あの2019年ラグビーW杯(ワールドカップ)では、日本代表がアイルランドを撃破し、「エコパの奇跡」と形容された思い出の地には、1万8434人(新型コロナ禍で上限2万5000人)の観客が集まった。そのW杯以来の日本代表の実戦とあって、ファンは応援ハリセンをばたばた鳴らしながら激闘を楽しんだ。

 欧州遠征を目前とした日本代表に対し、失うものがない"狼軍団"サンウルブズ。その立場の違いは接点に出て、日本代表はブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)で後手を踏んだ。前半を3-14で折り返した。

 齋藤はベンチから、こう見ていた。

「ブレイクダウンでプレッシャーを受ける場面が多く、なかなか自分たちのテンポに持ち込めていないなという印象がありました」

 後半10分過ぎ、齋藤が先発のSH茂野海人に代わって入った。パスのキレ、判断のスピード。素早い球さばきで、チームにリズムをつくった。意識的に大声を出して、フォワードを動かした。こう、振り返る。

「まずはアタックにモメント(勢い)を生むため、テンポを上げることを意識して(グラウンドに)入りました。ビハインドということもあって、リザーブからエナジーを出していかないといけないと意識していました。プレーもそうですが、コミュニケーションだったり、声掛けだったり、チームをエナジーアップしようと」

 モールを押し込んで1トライを返した後の後半25分だった。敵ゴール前のラインアウトから、FWが立て続けにラックサイドを突く。さらにラック左に出そうとした瞬間、齋藤は近場のFWを飛ばして、ディフェンスラインの隙間に切れ込んできたCTB(センター)中村亮土に鋭いパスを飛ばした。

 齋藤の述懐。

「亮土さんがこう、外側から、自分の気配を消す感じて入ってきているのがわかっていた。たしか(相手のヘル)ウヴェさんが内側にいたんですけど、そのウヴェさんと目が合ったので、これは切れる(パスで外せる)なと思って、亮土さんに投げました」

 そのまま、中村がスペースを突いて、鋭利するどいランでポスト右にトライした。逆転トライ。中村が笑い飛ばした。

「フォワードがいいプレッシャーをかけてくれていて、いいところに(齋藤)直人が放ってくれたので、"ごっつぁん"みたいな感じで(トライを)とれました」

 試合は、32-17で新生日本代表が初陣を飾った。齋藤の持ち味は、そのラグビーに対する真摯さにある。目標設定と研究心、そのための不断の努力の積み重ねである。「目標はワールドカップ」と何度も聞いたことがある。

 こんなことがあった。2019年2月、早大3年の齋藤はW杯トレーニングスコッドキャンプのメンバーから外れた時、そのスコッド練習にひとりで見学に来ていた。日本代表になりたい、少しでも上手になりたい、といった向上心ゆえだった。

 その後、W杯メンバーに届かなかった時、齋藤は「悔しさが込み上げてきました」と漏らした。日本を熱狂させたW杯を観戦し、さらに代表入りへの思いを募らせたのだった。早大4年の時は主将で大学日本一に輝いた。直後、この日対戦したサンウルブズのメンバーとしてスーパーラグビーに参戦したものの、スーパーラグビーは新型コロナ禍の影響で中断。

 昨年春、サントリーサンゴリアスに入り、2019年W杯で活躍したSH流大を追いかけてきた。身長165cm、体重73kg。サントリーでは、ニュージーランド代表の至宝、SO(スタンドオフ)ボーデン・バレットとともプレーした。感じたことは?

「きつい状況でも、常にラグビーを楽しんでいるなという印象を受けました」

 実は、神奈川・桐蔭学園高校時代から、「ラグビーノート」をつけている。練習や試合のなかでの気づきや反省を書き、いくつかの観点から、自分のやるべきことを整理し、メモしていく。そのノートはもう、何冊になっただろう。感じ、考え、行動する。ノートも、「準備」の一環である。

 齋藤は試合後、「自分のやるべきことを意識して臨んだので」と胸を張った。

「緊張しましたけど、通常通りのプレーができたのかなと思います」

 もっとも、まだ試合後半からの30分間デビューだった。先発だと、相手の圧力も厳しさも違ってくる。今月中旬からの欧州遠征では、全英&アイルランド代表ライオンズ戦などが待つ。今回の日本代表には、2019年W杯代表のSH流、田中史朗が不在。チャンスだ。

 質問がライオンズ戦に触れられると、齋藤はまたも準備を口にした。

「前半、チームが苦しい時に自分が出ていたらどういうコントロールができたのか。実際、自分が経験していないのでわからないですけど、そういったことも想定しながら、準備をしていきたいなと思います」

 目標を達成する鉄則は、その目標につながる目の前の小さなターゲットを確実に実現していくことだろう。そういえば、強化合宿中のオンライン会見では、「2023年(W杯)は必ず、出場したい」と言っていた。

「前回大会(W杯)よりは、目標に近づいている。この欧州ツアーを経て、自分が、2023年までどういうふうに成長しないといけないか、しっかりプラニングしたい」

 まだまだ成長途上。でも、その道程は見えてきた。高みを目指す若者の向上心に触れると、ワクワクするではないか。