前回の記事では、金の切れ目が縁の切れ目となるパターンを紹介した。このオフでの他の監督交代には、別の切れ目も見える。「心…

 前回の記事では、金の切れ目が縁の切れ目となるパターンを紹介した。このオフでの他の監督交代には、別の切れ目も見える。「心」の問題である。

■衝撃を与えたジダンの公開書簡

 レアル・マドリードは今季、無冠に終わった。そして、ジネディーヌ・ジダン監督が去った。

 勝利が義務づけられたクラブでは、致し方ないことだったのかもしれない。だが、ショッキングだったのは、その後だ。

 ジダンは退任の数日後、地元紙『アス』に惜別のメッセージを公開。その中で、クラブからの信頼とサポートを感じられなかったことで、退団を決意したと語ったのだ。

「このクラブが、私が必要とする信用をもはや与えてくれないと感じるから、私は去る。中長期にわたって何かを築き上げるためのサポートを、私に提示してはくれないのだ」

「私はフットボールというものを理解しているし、マドリーのようなクラブが要求するものも分かっている。勝つことができなければ、出ていかなければならない。だが、とても大事なことが忘れられている。日々私が築き上げてきたものが忘れ去られている」

 クラブもメディアを通して反論したが、ジダンの声に勝るものではない。

 多くのクラブが、「自分たちのグアルディオラ」を欲している。ジョゼップ・グアルディオラの下でタイトルを総なめにした、近年では最強のバルセロナを夢見ているのだ。チェルシーフランク・ランパードユベントスアンドレア・ピルロといったOB選手に指揮権を託しては、失意を味わった。単に成功をもたらすだけでも簡単なことではないのに、独自のサッカーを創造するグアルディオラのような指揮官が、そうそう存在するはずもない。

■バイエルンの逆ギレと手のひら返し

 そういった点で、一線を画しているのがドイツのクラブだ。驚くべきことに、ブンデスリーガでは上位3クラブが来季を新しい監督とともに戦うことになる。

 バイエルン・ミュンヘンを昨季のチャンピオンズリーグ優勝に導いたハンス=ディーター・フリック監督は、シーズン途中に今季限りの退任を公言した。寝耳に水のクラブは怒りを表明したが、2週間も経たないうちに、ユリアン・ナーゲルスマンの来季監督就任を発表した。最終的に勝ち点13差をつけた2位のライプツィヒからの引き抜きである。

 バイエルンに、OB監督との栄光などという幻想などない。ユルゲン・クリンスマンというOB選手の例はあるが、クラブのレジェンドクラスがチームを率いたのは、フランツ・ベッケンバウアーが最後だ。

 一方で、クラブ幹部はOBが占める。ピッチには有能な指導者を引っ張ってくるが、あくまで幹となるのはバイエルン派であるということだ。フリック監督の退任は、ディレクターを務めるサハン・ハリサミジッチとの確執があったとされるが、幹を生き残らせて枝を切るというクラブの方針にブレはなかったというわけだ。ナーゲルスマンは以前から目をつけていた青年監督でもあり、計画が前倒しになっただけとも言える。海千山千がそろうバイエルンで成功を収めるのに、時期尚早であるかどうかは、また別の話として…。

■合理性のライプツィヒとドルトムント

 2位のライプツィヒについても同じことが言える。近年の躍進の立役者が引き抜かれたが、同じ「レッドブル」系列であるザルツブルクから、ジェシー・マーシュ監督を迎えた。レッドブル系のチームづくりに注目すべきものがあることは確かで、ドルトムントも流れに乗った。ザルツブルクをヨーロッパリーグ4強、続いてボルシア・メンヘングラードバッハをクラブ史上初のCLベスト16へ導いたマルコ・ローゼ監督を来季新指揮官として迎えることを、シーズンを折り返したばかりの2月には発表していたのだ。ユルゲン・クロップトーマス・トゥヘルと、「旬」を逃さない目利きができることは、これまでにも証明している。こうした合理性があるからこそ、リーグで上位につけていられるのだろう。

 このように、ドイツ勢は論理的に来シーズンのヨーロッパでの戦いも見据えているはずだ。上位に監督交代のなかったイングランド勢は、引き続き主要な地位を占めるだろう。監督交代にラテン色が見えたレアル・マドリードは再びカルロ・アンチェロッティにチームを託したが、「第2次政権」が必ずしも成功の再現を約束しないことは、チェルシーでのジョゼ・モウリーニョのケースで証明済だ。

 そのレアル・マドリードとバルセロナを抑えたアトレチコ・マドリードが、ディエゴ・シメオネ監督に世界最高額とされる年俸を支払うのは、やはり意味があることなのかもしれない。資金力がものを言う現在のサッカー界で、イタリアの復権はまだ早すぎるか。

 選手の移籍の前に、まず巻き起こった監督交代の嵐。その先には、来季のヨーロッパの勢力図が透けて見えてくる。

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