6月7日に千葉ジェッツが開催した『CHIBA JETS REBRANDING』発表会見は、ホームアリーナの船橋アリーナ…

 6月7日に千葉ジェッツが開催した『CHIBA JETS REBRANDING』発表会見は、ホームアリーナの船橋アリーナからさほど遠くない千葉県八千代市で行われた。チーム専用の練習場として4月にオープンしたばかりのロックアイスベースがその会場だった。

 

ロックアイスベースの上階から見下ろしたコートの様子

 

メインコート中央にはの新調されたチームロゴも

 

施設内は天井が高く広々とした印象がある

 

NBA級の眩しさを持つ施設

 

 ロックアイスは家庭用の袋詰め氷製品で、千葉ジェッツとパートナーシップを結んでいる小久保製氷冷蔵株式会社が製造、販売している商品だ。ブランドロゴはチームが公式戦で着用するパンツにも掲出されているが、コンビニやスーパー等で商品自体を見かけたことのある人も多いのではないだろうか。

 

 ロックアイスベースの情報自体はすでに公になっていたのだが、足を運ぶのはこの日が初めてだった。筆者はたまたまNBAの取材経験があったので、本場アメリカの練習施設の充実ぶりを少しは知っている。毎度渡米して各チームの施設に足を踏み入れるたび「やっぱり本場はスゲェな…!!」という率直な感想を持ち帰ってきたものだ。

 

 しかしこの日、ロックアイスベースに到着した時点から、それを上回る驚きに包まれた。これまでに感じたことのないようなワクワク感が頭を満たした。

 

 今回のリビルディングのコンセプトに沿って用意された新しいチームロゴがあしらわれたコートは、チームのメンバーが「ここは俺たちのコート」と胸を張れるデザインだ。コートのすぐ横にはトレーニングルームが見え、食堂、ボディーケアを行うケアルームもある。

 

 2階に用意されたチーム専用のロッカールームは、個々のプレーヤーのロッカーごとに背番号がついており、それぞれが自分専用の場所として使用することができるようになっている。全員が集まって映像を確認する際に必要な大型モニターもある。スタッフのミーティングルーム、シャワールームに加えてロックアイスを使ってアイスバスとしても活用できるバスタブも。さらには仮眠室まであり、極端な話、ここから一歩も外出しなくても、連日バスケットボールに取り組んで上達できるすべての環境が整っている。アメリカで目にしたNBAの施設にまったく引けを取っていない。

 

 外観、内装、パッと見ただけで視界に飛び込んでくる充実した設備の数々、背景となったコンセプト、将来展望。会見を通じて語られるそうした要素を聞くにつけ、ロックアイスベースはいっそう眩しい場所に見えてきた。

 

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千葉ジェッツ在籍時の小野龍猛が小久保社長と交わした会話がロックアイスベース誕生のきっかけになったという(写真/岡田 健)

 

「小久保さん、作っちゃったら…?」小野龍猛の一言


 会見では、『CHIBA JETS REBRANDING』の諸々の発表の後に、小久保製氷冷蔵株式会社の小久保龍平社長が登壇。ロックアイスベースのオープンに至る詳しい背景を披露した。きっかけは、2020年までチームでキャプテンを務めていた小野龍猛(2020年に信州ブレイブウォリアーズに移籍)との会話だったという。

 

「以前所属していた小野龍猛と食事をしながら、ジェッツって強いよねと話していたんです。ただ、いろいろな話をしている中で、専用の練習場がないからあちこち転々としながら練習をしないといけない。例えばウエイトをしたあと、移動しながら各々食事して、船橋アリーナでチーム練習をしてという具合です。そうした中でもずっと成績を上げてきたんですけど、『やっぱり最後にてっぺんに届かないのって、そういうところなんですよね』という話があって」。

 

 小久保社長はそれを聞いて、「それは確かにそうだ」と同意こそしたものの、はじめは、だからといって自身がその建設に乗り出すとは考えていなかった。しかし、「そこはやっぱり小野龍猛ですね。『いや、小久保さん、作っちゃったらいいんじゃないですか…?』みたいに軽く言ってですね…(笑)」。その後、このやり取りが実を結ぶ。「当時の島田社長(現Bリーグチェアマンの島田慎二氏)とお話しさせてもらう中で、ずっと長年練習場が欲しいという夢があったということを聞きました」

 

 パートナーとしてできることを検討した結果、小久保社長は、千葉ジェッツがホームタウンとする船橋市に隣接する八千代市に、小久保製氷冷蔵が保有する遊休地の活用を思い立つ。「千葉ジェッツふなばしの名前に入ってこない場所なんですけど、ここだったら空いていますよという話をして、そこからお互いの夢を語り合って、現実にここにということになりました」。

 

会見でにこやかな笑顔を見せた小久保製氷冷蔵株式会社代表取締役社長の小久保龍平氏(左)と株式会社千葉ジェッツふなばし代表取締役社長の田村征也氏(右)


 その場所――つまりロックアイスベースが建てられた場所は、小久保製氷冷蔵株式会社にとって大きな意味を持つ場所でもある。遊休地として使っていなかったものの、実はこの地はロックアイス発祥の地なのだ。「会社として、現会長の小久保 歓として思い入れもありますので、この土地を手放すというのはないなと。何か有効活用ができないかなということで、だったらここにロックアイスベースを作って、いろんな形でまた社会に貢献していこうというふうに思って作りました」

 

 経営者として、この地での事業にことさら営利を求める気持ちもなかった。「これでご飯を食べていこうという考えではなかったんです。うちの父(現会長の小久保 歓氏)にとっては創業の地なので、「ロックアイス」というのを残したいというのがありました。例えばここにレストランとかを作っても、もう「ロックアイス」じゃないよな…。発祥の地として謳えないなというのがあって」。小久保社長自身にとっても、この場所は子どもの頃、夏休みのたびに父親に連れられて遊びにきた場所。父の背中を見て人生を学び、当時の社員と交流し、社業への熱を高めた思い入れもあるのかもしれない。

 

 それでも社内で話せば、そういった周辺事業的なことよりも直接的に社員の生活に還元される方向での活用を望む声も出てきそうだ。工場を作ってはどうか、社内の福利厚生に活用できる施設はどうか。

 

「工場を作らないかという話もあったのですが、周りを住宅で囲まれているからいまさら作れないな、となりました。工場を作ること自体は許されても、近隣住民の方々とうまくなどできないよと…」。

 

 解決策として検討を進めたロックアイスベースの建設を始める前には、社長自ら社内でこうしたコンセプトを理解してもらえるよう構想をまとめた動画も作り、説明会も開いたという。その上で最終的に、千葉ジェッツ専用練習場としてだけではなく、小久保グループの社員も福利厚生の一環として使用が許可されているそうだ。

 

 ここで千葉ジェッツのコート上での実績もモノを言った。「千葉はジェッツが強くて、社員にもいっぱいブースターがいるんですよ」と小久保社長は笑顔で話す。千葉ジェッツの支援を始めた後、「社員が私にお礼を言ってくれるようになったんです」というエピソードからも、社内に同じ思いが企業文化として根付いていることがうかがえる。そうなると多くの社員にとって、この場所は「千葉ジェッツファミリー」的な感覚を共有できる場所にもなるだろう。ロックアイスベース建設についての社内コンセンサスはこのような中で確立された。

チーム専用のロッカールーム。カメラ側には映像を見られる大型モニターもある

 

チーム、パートナー、地域がともに夢を見られる「基地」


 こうした背景からも、ロックアイスベースには単に千葉ジェッツが練習会場として使う以上の意味合いが自然に生まれていることがわかる。小久保社長はネーミングの背景も教えてくれたが、そこにはチームのみならず、パートナーの立場、あるいは地域に生きる立場としての将来に向けた夢が詰まっていた。「ベースは基地という意味。(千葉ジェッツの)田村征也社長がおっしゃるように、千葉県をバスケットボール王国にするために、まずその基地となるところを作らないと。それにはやはりここからスタートだろうという意味合いを込めて『ベース』となりました」。

 

 この場所を基地として、千葉ジェッツはB1連覇を目指すことになるが、前述のとおり小久保グループの社員も使用することができ、またクラブとしてはユースチームもこの場所を拠点として活動していく。「ここで練習したユースの子たちからBリーガーが生まれるような、面白い未来が描けるかなと思っていますし、千葉ジェッツの力を借りながら、例えば『ロックアイスカップ』のような、最後にここで決勝戦を行うような子どもたちのバスケットボールの試合もできたらなと思っています」

 

 ロックアイスベースは日常的に一般公開される場所ではない。しかし上記のような形をとって、地域の子どもたちの歓声がこだまする場所としても大きな役割を果たすことになりそうだ。

 

 チームとしては言うまでもなく、プロとして「てっぺんを目指す」理想の基地ができた。この日会見に出席していた赤穂雷太は、「以前はトレーニングをしに7-8km移動して、終わったらまた7-8km戻ってきていたので大変でしたけど、その時間もなくなりました。ものすごくいい環境でバスケットボールをやらせてもらっているので、自分としてとてもうれしいです。もっともっとうまくなりたいなという気持ちが大きくなりました」といっそう意欲を高めている。佐藤卓磨も感激した様子でこう話す。「本当に必要なものがギュッと凝縮されています。トレーニングした後にすぐ体育館でシュートも打てますし、その後すぐに栄養を食堂で摂ることができます。アイスバスとかも、ロックアイスを使ってできるんです。本当に、プロ選手の一日に必要なスケジュールのすべてをここで全部こなせるので、完璧です」

 

「アイスバスはこんな感じで…」と赤穂

 

バスタブの傍らにはアイスバスに使用するロックアイスも完備

 

 ベテランの西村文男は「ウエイトレーニングをするのが嫌いな僕は、これまでは船アリで練習した後にゴールドジムまで行かなきゃいけなかったので、ちょいちょい『今日はイヤだ!』という日も多かったんです(笑)」とジョーク交じりに話した。「でもやっぱり一つの体育館にすべてがそろっていると、やらざるを得ないと思うだけでなく、やる気にもなります。僕も感謝しかないですし、そうやってチームを含め会社として強くなっていくんだなというふうに感じています」と、喜びを言い表していた。「プロになって今年で12年経つんですけど、ルーキーイヤーの頃の環境と比べても全然違います。こんなにいい環境でバスケができるなんて想像していなかったので…。子どもの頃というよりも、大人になってから考えていたこと以上のものを与えてもらっていて、そこにびっくりしています」。

 

 きっかけとなった小野龍猛も、ひょっこり千葉に帰還してロックアイスベースをその目で確かめたという。「ここを見てやはり感激していましたね。言い出しっぺの本人が、移籍で詳細を知らないままになって…。今ではもう千葉ジェッツの選手ではないんですけど、選手を代表してお礼を言ってもらいました」と小久保社長は感慨深げに振り返った。

 

 そうしたエピソードの一つ一つが、理想の基地の価値をいっそう高める要素だ。ロックアイスベースは魅力に満ちた眩しい場所だった。

 

施設内には田口成浩の「おいさーフィギュア」が11体潜んでおり

小久保社長によればすべてみつけた選手にはボーナスが支給されるという

 

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ロックアイスベースフォトギャラリー

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取材・文・写真/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)