ユーロ2016決勝。ポルトガルはその前半早々、大ピンチに見舞われた。主砲のクリスティアーノ・ロナウドに故障が発生。ロナ…
ユーロ2016決勝。ポルトガルはその前半早々、大ピンチに見舞われた。主砲のクリスティアーノ・ロナウドに故障が発生。ロナウドは様子を見ながらしばらくはプレーを続けたものの、続行不能となり、前半25分、涙を流しながらピッチを後にした。
ロナウドのワンマンチームと見られていたポルトガル。その優勝の可能性は潰えたかに見えた。開催国で優勝候補の本命に推されていたフランスは、絶対的に優位な状況に立った。
ところがフランスは、スタッド・ドゥ・フランスを埋めた地元観衆の熱気が、逆にプレッシャーとして災いしたか、プレーが硬く、ポルトガルに引導を渡せない。試合は延長戦へ。そしてその後半4分、ポルトガルに決勝点が生まれた??―。
ポルトガルが初優勝を飾った前回大会から、はや5年が経過した。

優勝候補の筆頭フランスで代表に復帰したカリム・ベンゼマ
五輪夏季大会と同じ年に行なわれるユーロだが、2020年大会は東京五輪同様、新型コロナウイルスの影響で、今年2021年に順延された。
開幕戦は6月12日(現地時間)。トルコ対イタリア(ローマ・オリンピコ)で、1カ月という長丁場の口火を切る。
大会が開催にこぎつけることができた大きな理由は、会場が欧州各都市に分散されていることにある。ユーロは本来、国単位(共催を含む)で開催される大会だが、2020年大会に限り、あらかじめ欧州12都市で分催されることになっていた。ひとつの都市にかかる負担が少ないことが、たとえば、東京五輪との大きな違いになる。
もっとも、ユーロにも少なからず紆余曲折があった。ダブリン、ビルバオが開催を断念。ダブリンの試合はサンクトペテルブルクのスケジュールに組み込まれ、またビルバオのぶんは、セビージャが代替開催に名乗りを挙げることで解決を図り、最終的には11都市で開催されることになった。
欧州のクラブサッカー=都市対抗戦とはまた異なる魅力に包まれた国別対抗戦が、大々的に開催されるのは、2018年ロシアW杯以来3年ぶりだ。日本在住のサッカーファンが"ひさびさ感"を覚えるのは、その間にUEFAが主催するユーロ・ネーションズリーグが行なわれたものの、日本ではテレビで放送されなかったことと大きな関係があるだろう。
その初代覇者(2018-19大会)は、ユーロ2016で初優勝を飾ったばかりのポルトガルだった。決勝の舞台が完全アウェーだったユーロ2016とは対照的に、ポルトのエスタディオ・ドラゴンが、決勝戦の舞台となったこともプラスに作用した。昇り調子のオランダを1-0で下し、欧州で「連覇」を達成している。
ネーションズリーグは現在、第2回大会が進行中で、イタリア対スペイン、フランス対ベルギーの準決勝戦が、2021年10月に控えている。
このネーションズリーグの成績は、ユーロ2020を占おうとしたとき、重要な指標になる。すなわち、第1回大会ファイナリストのポルトガル、オランダ、第2回大会ベスト4のイタリア、スペイン、フランス、ベルギーは、有力な優勝候補に挙げられる。それにチャンピオンズリーグ(CL)で好成績を挙げたプレミアのクラブに人材を多く輩出しているイングランド、強国ドイツ、2018年W杯準優勝国クロアチアを加えた9カ国の中から、優勝国は生まれるとみて間違いない。
ブックメーカー各社の予想を総合すれば、本命に推されているのはフランスだ。前回ユーロの準優勝国にして2018年ロシアW杯の優勝国。申し分のない実績を誇る。
フランスには、開催が1年延びたことによる恩恵も期待できる。2015年以降、フランス代表から外れていたカリム・ベンゼマが、ユーロのメンバーに加わったからだ。その間、レアル・マドリードの看板選手としてCLやスペインの国内リーグでは、活躍を続けてきたお馴染みの顔だが、フランス代表のユニフォーム姿を見るのは、懐かしいというか新鮮だ。
キリアン・エムバペも、この延期が吉と出そうな選手だ。当初の陸上選手風情から、1年1年、身のこなしがサッカー選手らしくなっているスピードスター。パリ・サンジェルマンに所属する将来のバロンドール候補が、ベンゼマ、アントワーヌ・グリーズマンというレアル・マドリード、バルセロナ所属のスター選手と3トップを張る姿はどんなものか。好奇心はそそられる。
◆久保建英より若い逸材も。ユーロ2020大注目のヤングスター4人
ブックメーカーが2番手に推すのは、ロシアW杯でベスト4入りしたイングランドだ。この国もこの1年で若手が成長。1年前に開催されていたら、メンバーに選出されていたかどうか微妙な選手が複数いる。リース・ジェームス、メイソン・マウント(ともにチェルシー)そして、フィル・フォーデン(マンチェスター・シティ)だ。
中でも今季のCLで存在を示した左利きの左ウイングは、ユーロでも注目の選手になるだろう。バルサ、レアル・マドリード、バイエルンといった超名門クラブで活躍する大物を最近輩出していないイングランドだが、フォーデンはその有力な素材。大会でどこまで名を売ることができるか。
一方、悪い意味で開催が1年遅れた影響を受けたのが、セルヒオ・ラモス(スペイン/レアル・マドリード)、フィルジル・ファン・ダイク(オランダ/リバプール)だ。
セルヒオ・ラモスは今季、たび重なるケガに見舞われた影響で、今回の大会メンバーから漏れることになった。ファン・ダイクは2019年のバロンドールの投票で、リオネル・メッシにわずか7票差で2位に泣いた欧州最強のディフェンダーながら、こちらも今季初めに負った右膝のケガで、その後ピッチに戻れずにいる。
ブックメーカーの予想に戻れば、現在、ロシアW杯覇者のフランスを抑え、FIFAランキングで首位を行くベルギーは、微妙なポジションにいる。3位に輝いたロシアW杯をピークと見るか、高位安定と見るか、やや下降と見るか、難しいところだ。ロシアW杯で予選落ちした隣国でライバル国のオランダが示すような、上昇ムードにはないと見る。
そのオランダは、かつてのチームに見られた小国のメンタリティが、健在かどうかがポイントだ。
W杯で準優勝3回、ベスト4が2回という代表チームの実績と、国内リーグの規模に、欧州で最も差がある国。かつてのオランダには、代表チームの活躍で、存在感を発揮しようというモチベーションがあった。国家として、攻撃的なサッカーにこだわる理由でもあった。そうしたモチベーションはいまなお健在なのか。
それが、明らかに見て取れるのが、欧州でオランダと同じ立ち位置にあるポルトガルだ。とりわけユーロでは、1996年イングランド大会以降、優勝1回(2016年)、ベスト4が2回(2000年、2012年)、ベスト8が2回(1996年、2008年)、という輝かしい実績を残している。
選手の顔ぶれも年々、充実している。ブルーノ・フェルナンデス(マンチェスター・ユナイテッド)、ジョアン・フェリックス(アトレティコ・マドリード)、ルベン・ディアス、ジョアン・カンセロ、ベルナルド・シルバ(マンチェスター・シティ)、ラファエル・ゲレロ(ドルトムント)、ディエゴ・ジョタ(リバプール)など、ポルトガルをダークホースと言うのは失礼に当たりそうな、欧州で活躍する好選手がずらりひしめいている。ロナウドのワンマンチームではもはやない。
今回も行けそうだと言いたいところだが、ブックメーカーの優勝予想では、フランス、イングランド、ベルギー、スペインに次いで5番手止まりだ。それは、ポルトガルが所属するF組の顔ぶれとも深く関係する。フランス、ドイツ、ハンガリー。ハンガリーはともかく、フランス、ドイツのどちらかを抑え、この「死の組」を抜けるのは至難の業だ。
この組の予想をする上で欠かせないポイントは、かつての王者、ドイツをどう見るか、だ。上昇しているのか、下降しているのか。ネーションズリーグにおける成績を見る限り、後者とみる。2020-21大会では、グループリーグでスペインに0-6のスコアで敗れる屈辱を味わっている。選手の顔ぶれは悪くないが、ポルトガルとは真逆の、大国の油断が見て取れる。
ネーションズリーグの準決勝で対戦することが決まっているスペインとイタリアも、上昇中なのか、否かが注目される国だ。
2022年は早くもワールドカップイヤーだ。今回のユーロ2020は、W杯でベスト8入りを狙う日本にとっては、まさに見逃せない大会となる。日本代表がこの大会に出場したら何番になれるか。敵はアジアにあらず、なのである。