連覇を狙う日本ハムが、一昨年は捕手、昨年は右翼で起用した近藤健介を内野手にコンバートしようとしている。ポジションは201…
連覇を狙う日本ハムが、一昨年は捕手、昨年は右翼で起用した近藤健介を内野手にコンバートしようとしている。ポジションは2014年に527回1/3を守った三塁ではなく、二塁中心で起用するようだ。このコンバートはチームにどんな影響をもたらすのだろうか。
■2015年にはトップ選手にも肉薄、近藤の打者としてのポテンシャル
連覇を狙う日本ハムが、一昨年は捕手、昨年は右翼で起用した近藤健介を内野手にコンバートしようとしている。ポジションは2014年に527回1/3を守った三塁ではなく、二塁中心で起用するようだ。このコンバートはチームにどんな影響をもたらすのだろうか。
最初に、近藤がどのような選手であるかを確認しておきたい。近藤の強みはなんといってもバッティングだ。バットにボールに当てるコンタクト能力に長けており、三振や空振りが非常に少ない。そういった打者は代償として“強く振れない(振らない)”性質を持つこともあるが、近藤は本塁打こそ多くないものの二塁打が多く、強いスイングができていることをうかがわせる。加えて四球を獲得する能力も高い。「ストライクを選び」「強く振れて」「高い確率で当てる(空振りを避ける)」能力を備えた、稀有なバッターである。
昨年は左膝の故障などもあり思うような結果を残せなかったが、一昨年は得点を創り出す上での貢献の傑出度を表すwRC+(weighted Runs Created plus)(※)で、トリプルスリーを達成した柳田悠岐(ソフトバンク/220)、NPB新記録となる216安打を放った秋山翔吾(西武/166)に続くパ・リーグ3位(規定打席到達選手を対象)の159を記録。得点を創り出す上で、パ・リーグの平均的な打者の159%、約1.6倍の働きを見せていたということになる。柳田や秋山に比べると打席数は少ないが、ポテンシャルは疑いようがない。若くして高い完成度を見せていた。
近藤の価値をさらに高めていたのが、捕手を務められることだった。捕手は守備での働きを優先されることが多く、他に比べ打撃能力は控えめの選手が選ばれやすい。そのため、捕手の平均的な打撃能力と比べたときの近藤の傑出は、全打者の平均からの傑出以上に大きくなる。
故障や送球難などもあり捕手に定着できてはいないが、「守備での働きが優先される、打撃に重きが置かれにくい守備位置」に近藤を配置し、その打撃能力の価値を高めたいという思惑が日本ハムにあってもおかしくない。一昨年のパ・リーグでポジションごとに平均wRC+を算出すると二塁手は86。これは捕手の52、遊撃手の63の次に低い数値で、指名打者や外野手として出場するよりも好影響を与えられるポジションとなっていた。
■レギュラー陣の肉体的な負荷軽減、世代交代のための重要なピースに
日本ハムのチーム事情も、近藤の二塁コンバートの有効性を高めるとみる。昨年、日本ハムの内野は中田翔、田中賢介、ブランドン・レアード、中島卓也でほぼ固定されており、彼らは全守備イニング1284回のうち1200回以上を守っていた。
図は昨年の日本ハムの内野手の攻撃、守備、走塁での貢献を勝利数に換算した数字、WAR(Wins Above Replacement)である。基準となる0は「代替可能(控え)選手レベルが残すと見込まれる貢献」に置いており、4選手がそうした選手に出場機会をすべて譲った場合、チームが失う勝利数と考えることができる。レギュラーはそれぞれ約2~4勝分の貢献を記録しているが、バックアップメンバーはほぼ0。貢献を果たすための出場機会が限られており、また貢献の質も高められていなかったことがわかる。
安定した成績を残せる選手がそろっていた一方で、レギュラーを脅かすレベルの控え選手が出てきていない日本ハムの内野陣は、レギュラーが離脱すると一気に力を落とす可能性がある。そこで打撃で貢献が見込める近藤が二塁手としてバックアップができる状況をつくり、リスクの軽減を図ろうというのは妥当なプランだ。戦力を落とさず田中に適度な休養を与えたり、大谷が指名打者として出場していない試合では、田中を指名打者に入れ、近藤を二塁に入れて負荷を軽減したりすることも可能になる。
そうしたリスク対応以外にも、今季36歳を迎える田中の後継者育成で、近藤の二塁コンバートは効果を生むだろう。近藤がそのまま二塁に定着するというシナリオはもちろん、さらに若い二塁手に1軍で経験を積ませる局面がやってきた際にも、近藤との併用が可能であれば、大幅な戦力ダウンを避けることができる。
■内野手としての可能性を見せていた2014年の三塁守備
コンバートの成否は、近藤がどの程度二塁の守備をこなせるかにかかっている。日本ハムがどのような基準で守備の評価を行っているかの詳細は不明だが、客観的な数値からは、可能性をうかがわせる結果が出ている。ゾーン別の打球処理(アウト奪取)状況などから野手の守備貢献を評価し得点換算したUZR(Ultimate Zone Rating)の数値は、2014年に527回1/3を守った三塁で8.5を記録した。これはNPBの平均的な三塁手が同じイニング(527回1/3)を守った場合に比べ8.5点多く失点を防いだという評価を意味する。
このUZR8.5という値は、三塁手としてかなり良いもので、2013年から昨シーズンまで4年連続でゴールデングラブ賞を獲得している松田宣浩(ソフトバンク)を上回っていた。もちろん527回1/3という守備イニングはシーズンの半分程度のものなので統計的な信頼度は下がるが、近藤が低くない守備能力を持つ可能性を示唆するものではある。
また、打球処理状況をゾーン別に見ていくと、定位置から左右への打球、特に三遊間(E、F、G)の打球に対しては3つのゾーンですべて2.0以上を記録している。普通の三塁手よりも広い範囲を高い確率でアウトにしていることがわかる。これは打球への反応やフットワークの良さなどをうかがわせるものであり、内野手として一定のスキルを備えている可能性は高い。
もちろん、三塁手と二塁手では違った動きも必要であり、それにどれだけ対応できるかはわからない。捕手で問題視されることもあった送球がどれだけ改善できるかもポイントだろう。ただ、もしこのコンバートが成功した場合、連覇を狙う日本ハムにとってかなり有効なオプションとなることは間違いないだろう。
※出塁力・長打力両面から攻撃力を評価し、それがリーグ平均に対しどれだけ抜きん出ていたかを表す指数。100が平均。130であれば「リーグの平均的な打者の130%、約1.3倍の働きを見せた」という意味。
DELTA http://deltagraphs.co.jp/
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える セイバーメトリクス・リポート1~5』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『Delta’s Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』(http://1point02.jp/)も運営する。
DELTA●文 text by DELTA