ジャマイカとの親善試合の予定が、急きょU-24日本代表(U-24)とのチャリティマッチに変更された試合は、日本代表(A…

 ジャマイカとの親善試合の予定が、急きょU-24日本代表(U-24)とのチャリティマッチに変更された試合は、日本代表(A代表)が要所でゴールを決めて3-0で勝利した。



後半にゴールを奪った、A代表の浅野拓磨

 もともとU-24が、この試合の2日後に行なわれるガーナ戦に合わせて準備を進めていたこと、予定外の移動を強いられたこと、A代表に比べて活動期間が少ないことなどを総合すれば、結果自体は予想どおり。U-24は、結果以上にメンバー選考が現段階の優先事項だけに、敗戦に悲観する必要もないだろう。

 一方、ジャマイカ戦のための準備を進めていたA代表にとっては、U-24とは違った受け止め方をしなければならない。現在のA代表の活動で大切なのは、W杯アジア最終予選のためのチーム強化だ。そのためには、たとえ対戦相手が変更されたとしても、戦力の底上げとチーム戦術のブラッシュアップが何よりも求められる。

 とくにこの試合の相手となったU-24は、森保一監督が「1チーム、2カテゴリー」と言うように、同じ戦術と狙いを持ったチームだ。システムも同じ4-2-3-1を採用するため、自ずと試合はミラーゲームになり、お互い相手の良さを消すための守備方法、あるいはそれをかいくぐるための術など、森保監督が目指すサッカーの骨格が、通常の試合と比べて圧倒的に見えやすくなる。

 その視点で今回の試合を検証してみると、一見A代表が力の差を見せつけたように見えた試合も、実はスコアだけでは見えてこない、A代表にとって喜ばしくない部分が露呈した内容だったのがわかる。

 まず、森保ジャパンのサッカーを見るうえで重要なポイントになるのは、ダブルボランチから前線に供給するくさびの縦パスだ。1トップの大迫勇也をはじめ、2列目の選手も入れ替わり立ち代わりで相手のライン間にポジションをとり、縦パスを受けて起点をつくる。

 当然、相手はそうさせないために、中央寄りにポジションをとってパスコースを消しにかかる。そうなった時は、サイドに空いたスペースを有効に使い、中央に絞った相手を外側に広げさせ、再び中央に空いたスペースを使って攻撃する。その逆も然りで、これを繰り返すことでゴールを目指すというのが攻撃のベースだ。

 今回対戦したU-24を率いる横内昭展監督代行も、同じスタイルでチームつくりを進めているため、当然お互いそれができている時間帯は優勢となり、できていない時間帯では劣勢に陥る。試合を見るうえでは、とてもシンプルな構図である。

 試合の序盤から優位に立ったのはA代表だった。開始2分にコーナーキックから橋本拳人が決めた先制ゴールも大きく影響したと思われるが、立ち上がりからU-24は狙いどおりの守備ができない時間がつづき、苦戦を強いられた。最大の要因は、A代表のビルドアップを抑えられなかった点にある。

 A代表もU-24も、守備時は1トップとトップ下が並列になり、4-4-2の陣形で守備を行なう。そのなかで、お互いが相手の攻撃の糸口を断ち切るためには、まず相手センターバック(CB)がボールを保持してビルドアップを開始する際、前線の2枚がダブルボランチへのパスコースを消すためのポジションをとって「ボールの出口」を封鎖する必要がある。U-24で言えば、その最初のフィルターとなるのが田川亨介、久保建英だ。

 しかし試合の序盤は、2人の立ち位置が定まらず、A代表のダブルボランチ(守田英正、橋本)は、田川と久保の間のスペースでCBからのパスを受け、いともたやすく攻撃の起点となった。また、田川と久保が正しい立ち位置をとった時は、守田か橋本のどちらかが最終ラインに落ちてパスコースをつくり、前からプレスをかけられた時にはGKもビルドアップに関わって、それを回避することもできていた。

 ただし、前半20分にU-24の田川が決定的チャンスを迎えたのを境に、試合の流れは変化の兆しを見せた。A代表が初シュートを浴びたそのシーンでは、谷口彰悟と植田直通が高い位置まで深追いし、揃って田川と久保に圧力をかけたのが裏目に出た。以降、守備ラインがやや後退。同時に、U-24の田川と久保の立ち位置が定まるようになり、その後の10分間はU-24に押し込まれる展開がつづいた。

 それでもA代表が大崩れしなかったのは、大迫と鎌田大地の前線2人が相手の「ボールの出口」をふさぎ、U-24のビルドアップでダブルボランチ(板倉滉、中山雄太)を経由させなかったことが大きかった。

 実際、前半でU-24が記録した敵陣での縦パスはわずか2本しかなく、クロスも25分に久保が記録した1本のみ。それに対してA代表は、12本の縦パスと7本のクロスを記録するなど、優勢を保ったままハーフタイムを迎えている。ただ、クロス7本のうちの6本は、試合を支配していた前半20分までに記録したもので、そういう意味ではピッチ上で起こっていた現象が、そのままスタッツに表れたと言える。

 注目すべきは、A代表が見せた後半の変貌ぶりである。

 もちろん、きっかけは後半開始から一気に5枚の交代カードを切ったことにある。シュミット・ダニエル、長友佑都、原口元気、鎌田、南野拓実がベンチに下がり、代わりに中村航輔、小川諒也、浅野拓磨、古橋亨梧、伊東純也がピッチに登場すると、システムは変わらずとも、その運用のところで綻びを見せてしまったのだ。

 前半と比べて大きく変化したのが、守備時に最初のフィルターとなる前線2枚の立ち位置だった。不慣れなせいもあり、大迫の右側に立った古橋のポジショニングがなかなか定まらず、その結果、U-24の左CBの町田浩樹からの縦パスが増加。そこが「ボールの出口」となり、相手の前進を許すようになったのだ。

 劣勢に転じたA代表は、後半は自陣に押し込まれる時間帯がつづいた。救いは、後半立ち上がり52分に、カウンターから浅野がゴールを決めて3-0とリードを広げたことだった。しかしそのゴールも、自陣から発動した左サイドのカウンター攻撃であり、自分たちが優勢の状態で決めたゴールではなかった。

 さらに、その後にA代表がつくったチャンスは、守田が伊東を走らせた67分のシーン、川辺駿が浅野を走らせた86分のシーンと、いずれも自陣から繰り出したロングカウンターによるもの。それ以外にチャンスらしいチャンスをつくれず、後半はA代表にとってスコアとは裏腹な、劣勢の状態に終始したというのが現実だった。

 両チームの後半のスタッツを比較しても、それは如実に表れる。まず、U-24が記録した敵陣でのくさびの縦パスは、13本に増加。クロスは、後半開始から前田大然(左サイド)と相馬勇紀(右サイド)が入ったことで活性化し、最終的には計21本を記録した。

 それとは対照的に、A代表が後半に記録した敵陣での縦パスは、わずか4本に激減(そのうち成功は1本のみ)。クロスボールも3本に減少したうえ、そのすべては後半立ち上がり10分間に記録されたものだった(成功は1本)。これらの数字を見ても、いかに後半のA代表が苦戦していたかが見て取れる。

 確かに、後半から主力級が投入されたU-24と比べると、A代表は普段は控えの選手が途中出場した影響があったのは間違いない。しかし、レギュラーとサブの違いが、ここまで戦術の差として露わになったとすれば、それ自体が大きな問題だ。常にベストメンバーで試合に臨んできた指揮官の姿勢が、ネガティブに作用したことになる。

 形としては、3-0というスコアによって面目を保ったA代表。しかし、実際にピッチ上で起こっていた現象は、むしろ危機感を覚えるべき内容だった。もちろん半分以上のレギュラーを欠いてアジア最終予選に臨むことはないにせよ、この問題を少しでも改善するのが、当面このあと3試合の課題であり、注目ポイントになる。