里崎智也が考える五輪の戦いとプレッシャー 長くロッテの正捕手として活躍した里崎智也は、2005年にリーグ優勝と日本一、2…
里崎智也が考える五輪の戦いとプレッシャー
長くロッテの正捕手として活躍した里崎智也は、2005年にリーグ優勝と日本一、2010年にもチームを日本一に導いた。2006年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)でも、正捕手として世界一に貢献している。
今夏は東京五輪の開催が予定され、日本代表は金メダル獲得を期待されている。2008年の北京五輪に出場した里崎に当時の様子を聞いているうちに、話はプレッシャーと緊張のメカニズムへと発展した。

西岡剛(左)、成瀬善久(右)と共に、北京五輪代表メンバーに選ばれた里崎
――里崎さんは2006年のWBC、2008年の北京五輪に出場されています。プレッシャーを感じることはありましたか?
里崎智也(以下:里崎) 日本代表で戦うプレッシャーを感じたことは1ミリもありません。選ばれて大会に参加しているんだから、誰にも文句を言われる筋合いはないですし。逆に、日の丸に何のプレッシャーがあるのかを聞きたいですね。
よく「日の丸を背負う」とか言われますけど、背負わされた覚えはないし、背負う必要がない。代表に選ばれるということは、そのポジションで優れた選手だと認められただけです。うれしいことですけど、自分の力で手にしたものですから、急に「日本のファンのために」となる必要はないですよ。
――よく「選ばれなかった選手のために」という言葉も使われますね。
里崎 それも選考の結果で優劣が決まっただけですから。逆に選ばれなかった選手の多くは、心の中で「負けろ」と思っているはずです。同じポジションの選手が活躍してチームが勝っていったら、ますます自分にチャンスがなくなるということ。メディアの注目も持っていかれて、アスリート人生が窮地に追い込まれるわけですから、内心穏やかではないですよね。
――北京五輪では、アメリカと韓国に2回ずつ負け、メダルも逃しました(4勝5敗)。その要因は何だと思いますか?
里崎 それは単純で、一発勝負の国際大会で致命的なミスをしたからですね。北京五輪もそうでしたが、2017年のWBCでは、アメリカとの準決勝で守備のミスから決勝点を奪われた。2013年のWBCも、敗れた準決勝のプエルトリコ戦では走塁ミスが大きく響きましたから。
――3位決定戦でアメリカに負けた後のチームの雰囲気はどうでしたか?
里崎 僕は「終わった。こっからまたシーズンやな」という感じでした。国際大会でもプロ野球でも同じで、勝っているチームは雰囲気がよくて、負けているチームはよくない。雰囲気は結果の後づけなんですよ。大げさに言えば、試合中の雰囲気が本当は悪かったとしても、勝ったら誰かが「雰囲気がよかった」って振り返ると思いますよ。
――五輪期間中に印象的なことはありましたか?
里崎 五輪の時は「窮屈やな~」と思いましたね。ホテルから出られずに、やることもないですし。球場への移動で初めて天安門広場を見た時はテンションが上がりましたけど、それも毎日になると......。しかも練習環境は整っていなくて、バッティング練習なんて4人で3分くらいでしたよ。それで試合は朝やることもあったり(笑)。「アマチュアの大会なんやな」と思いました。
WBCでは試合前の練習も互いにたっぷりやって、前の試合時間がどんなに伸びてもインターバルはしっかりあった。選手の行動も比較的フリーでしたから、そこの差は大きいですね。
――代表戦でもプレッシャーを感じない里崎さんでも、緊張をするときはあるんですか?
里崎 引退して間もない頃に出演したゴルフ番組が一番プレッシャーを感じました。僕はゴルフがそんなにうまくないんですが、全国放送の番組だったので、「里崎はゴルフもできるのか」と、いいところを見せたい気持ちが強くなって。それでド緊張したんです。
要は、「自分の能力以上のものを欲してしまうと、プレッシャーと緊張が押し寄せてくる」ということです。それは野球にも通じることで、自分の能力が足りないのに優勝したい、勝ちたい、1軍でプレーを続けたいと思えばプレッシャーも感じますよ。五輪なら金メダル、WBCでは世界一と、目標を高くすればするほど、自分を追い込んでしまうことになる。
僕は、ゴルフ番組でもまったく緊張しなくなりました。今では「下手なところを見せたほうが逆に面白い」と考えています。自分の能力に見合った見せ方もあると思うようになってからは、プレッシャーを感じることはなくなりました。
――結果を残すためにプレッシャーをはねのける一番の方法は、技術を磨いて能力を高めること、ということでしょうか。
里崎 そうですね。先ほども言ったように、僕の考えでは、プレッシャーを感じるのは能力がないから。人間は結果や能力を問われないことと、自分ができるとわかっていることには絶対に緊張しません。だから緊張しやすい選手は、メンタルトレーニングをするんじゃなくて、ひたすら練習をしたほうが解決に向かうと思いますよ。
――里崎さんの理論をお聞きしていると、監督になったらどんなチームを作るのか興味深いです。監督業に興味はありますか?
里崎 監督は、生活リズムが想像しやすいというか、野球選手とだいたい同じような時間軸で過ごすので、新鮮味をあまり感じないんです。だから積極的にやりたいとは思わない。オファーがきたら、こちらの条件も出して、それを承諾してくれるならやるという感じでしょうか。
――どちらかというと、ビジネスなどのほうが興味がありますか?
里崎 ありますね。だって想像ができないじゃないですか。思っていたより難しかったり、「こんなことまでしなきゃいけないの?」ってこともあるだろうし。「これは大変やな」って思うことが多いほど面白そうですよね。
――今はプロ野球の解説やYouTuberとしての活動をはじめ、幅広いフィールドで活躍されています。毎日が想像できないという感じですか?
里崎 まさにそうです。初めて会う人も多いし、やったことない仕事もしますし、出会うはずがなかった人とも共演しますし。人生は1回きり。想像ができる人生を歩むことは、僕はもったいないと感じるんです。今45歳で、男性の平均寿命である80歳まで生きたとしても、あと35年しかありません。僕は最後まで好きなことをやって死にたいです。
■里崎智也(さとざき・ともや)
1976年5月20日生まれ、徳島県出身。鳴門工(現鳴門渦潮)、帝京大を経て1998年のドラフト2位でロッテに入団。正捕手として2005年のリーグ優勝と日本一、2010年の日本一に導いた。日本代表としても、2006年WBCの優勝に貢献し、2008年の北京五輪に出場。2014年に現役を引退したあとは、解説者のほか、2019年にはYouTubeチャンネルを開設するなど幅広く活躍している。