2020-21バージョンの篠山は非常に堅実なパフォーマンスだった(写真/©B.LEAGUE)    Bリーグ2020-21シーズンを戦い終えた川崎ブレイブサンダースのポイントガード、篠山竜青が6月3日、メディア向けにシーズンを総…

2020-21バージョンの篠山は非常に堅実なパフォーマンスだった(写真/©B.LEAGUE)

 

 Bリーグ2020-21シーズンを戦い終えた川崎ブレイブサンダースのポイントガード、篠山竜青が6月3日、メディア向けにシーズンを総括するズーム会見を開いた。
 その2日前の6月1日に閉幕を迎えたBリーグ2020-21シーズンは、世界的なパンデミックの影響により予定通りの日程すべてをこなすことができなかったが、困難が伴う環境下でも安全を担保してバスケットボールを前進させる決意の下、リーグ戦とポストシーズンを最後まで開催し、大いに盛り上がった。川崎の最終成績はチャンピオンシップ・セミファイナル進出。篠山はプレーメイカーとして、またリーダーシップを発揮するベテランとしてチームを力強くけん引した。
 5月半ばに発表された男子日本代表候補にも、篠山は名を連ねていた。現時点で32歳。20人の代表候補では年齢的に上から4番目だ。周囲に及ぼす影響は年々大きくなっている。FIBAワールドカップ2019を経験した後は特に、世界のトッププレーヤーとのマッチアップから肌で感じた、日本のバスケットボール界発展に必要な要素について積極的に発信する姿も目を引いた。

 この日の会見では、ベテランとしてさらに心身と技能の成長を自らに求める意欲的な姿勢を聞くことができた。


周囲を生かすとともに自身の決定力を高めたい

 

 2020-21シーズンの自分自身に個人的なテーマとして何を求めていたのか。篠山は 「今シーズンは大前提としてまず、健康第一を掲げました」と話した。ウイルス感染のリスクへの対応に加え、練習や試合を通じて対処しなければならない通常のコンディショニングや故障・ケガの予防などは、年を経るごとに重要な要素となっていることだろう。「ケガをしないでシーズンを戦い抜くことがまず一番だなと思ってやって来て、そこに関しては一応クリアできたかなと思っています」

 本来ならば60試合を消化するべく組まれたリーグ戦日程のうち、川崎は59試合を戦った。篠山はそのすべてに出場。平均20分1秒コートに立ち、堅実なプレーで43勝16敗(勝率72.9%)の東地区3位という好成績に貢献した。
 「今シーズンが始まる前、今年はやっぱりビッグラインナップとか、リーグ屈指のシューターがいたり、3番ポジションも非常に充実しているという中で、よりチームを動かすというか活性化させるための動きを求められるんじゃないかというイメージがありました」。川崎はチームとしての1試合平均アシスト数が23.5本。これはB1トップの数字だが、篠山は川崎のロスターが持つスキルセット上のニーズに応えるように、チームトップの4.7本を記録した。リーグ全体の11位にあたる好成績だ。
 「(チームメイトのガードである)藤井祐眞がどんどん成長してきて、キャリアの全盛期に入ったような働きをここ数シーズン示しています。彼の最大の特徴というのは一人でボールをプッシュして個で打開する力を持っているという点。ボールを持って自分でアタックする選手が大きな武器となっている中で、その対比として自分が出たときにはよりボールを動かしたりとか、人を生かしてアシストを増やすという部分が、今シーズンのテーマでした。そこに関してある程度できたかなと」。こう話す篠山の自己分析は非常に的を射ていた。前述の1試合平均アシスト数4.7本を、さらに36分間コートに立った場合を想定するパフォーマンス指標である「Per 36 min」に換算した8.5本という数字は、篠山より上位の10人すべてをしのぐ非常に効率の良い成績なのだ。

「シュートの試投数(1試合平均4.9本)自体は例年に比べるとすごく下がりました。平均得点的にも少し下がりました(同5.9得点、2019-20シーズンは8.3得点)けど、それでもアシストの数字は高く残すことができました(2019-20シーズンと同レベル)。タイムシェアであまり突出した出場時間がなかった中で、リーグの中でも上位のアシスト数を残せたというのは、自分としてもまた少し幅が広がったような感覚です。そこに対してはある程度、自分の成長になったのかなという思いがあります」
 プレーメイカーとして、より充実したピークを迎えるのはまだまだ先に違いない。NBAでは、例えばマイク・コンリー(ユタ・ジャズ、33歳、185cm)やクリス・ポール(フェニックス・サンズ、36歳、183cm)などが、今シーズンも所属チームで非常に重要な役割を担っている。彼らの姿を篠山に重ねることができるだろう。

 篠山はさらに2021-22シーズンに向けた意欲を以下のように語った。「だからこそやりながら感じていたのは、そこだけじゃなくてもう少し決定的なシーンであったり、チームが苦しい状況で自分が、苦しいながらも自分のシュートでつないでいくとか、そういうオプションをもっとつけることができれば、このチームはもう少し楽にやれたなという思いがあります。いろんな課題も成長もあったシーズンだったかなと思っています」

 

シーズン終了のズーム会見で、篠山は明るい笑顔を見せた

 

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「みんなが楽しめるリーグに」 - Bリーグならそれができる

 

 篠山が活躍の場とするBリーグは、丸ごと5シーズンを経てすっかり日本のスポーツシーンに定着し、なおも進化を続けている。プレーヤーの質が向上を見せていることと並行して、例えば今シーズンわかりやすい変化の一つとしては、チャンピオンシップ・ファイナルがこれまでの一発勝負ではなく2戦先勝方式に変更され、頂上決戦の緊迫感をより長く、強く感じられるフォーマットになった。
 U15、U18の活動を活性化させ、ユース世代の育成事業もさまざまな形で推進している。さらにはアジア枠導入によりプレーヤーとノウハウの交流の幅が広がり、東アジアの現状に合った国際化も一歩一歩進めることができている。リーグとしての持続的な発展を目指す姿勢がこうして示されることで、クラブやプレーヤーにも未来展望が明確に伝わっているように感じる。
 その点に関する篠山のコメントも前向きなものだった。「(ファイナルは)複数回勝利したチームが優勝という形にしたほうが、よりチームトータルとしての総合力が問われますし、そういう方が良いのではないかという声が多く聞かれる中で、今年から2戦先勝になりました。いろんな試行錯誤の中で失敗も成功も経験しながら、いろんな変化をしながら、まだまだこのリーグは成長できると思います。そういった意味ではまだ完成形ではなくて過渡期なんだろうなと思いながら戦っています。今後、選手会としても、ファンとリーグとクラブ、そしてスポンサーさんも含めて、もっと距離を近くしてディスカッションしながら、みんなが楽しめるリーグになっていければいいんじゃないかと。Bリーグならそれが実現できると思っています」

 5シーズン目を終えたBリーグの発展を、満5歳になった子どもの成長に例えれば、特に親世代の人々は篠山の感覚を共有できるのではないだろうか。元気な泣き声と共に誕生し、つかまり立ちをできるようになり、ニコニコしながらよちよち歩きで一歩ずつ進んできた幼子に、今すぐ何でもできるわけはない。しかしそんな姿を見て、この子が将来幸せをつかんで、人々の人生に好影響をもたらす存在になってほしい、世界のいろんなところで活躍できる人になってほしいと、大きな夢を描き成長を願うのが親心かと思う。
 チームリーダーとしての川崎における存在感に加え、現役プレーヤーをはじめとしたBリーグ関係者、そのほかのカテゴリーに属する競技者やファンへの幅広いリーチや影響力を感じさせる篠山の展望は温かく、明るいものに感じられた。Bリーグを自らの活躍の舞台とする立場では、その成長に対する責任が伴う親に通じる感覚も、逆にリーグに育てられる子どものような感覚もあるのではないだろうか。
 篠山は自分自身とリーグの成長に対する意欲を語った。決定力が課題という2021-22シーズンには、いよいよキャリアの上り坂本番を迎えることを予感させた。

 

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取材・文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)