決まると思ったショットが決まらず、果てしなく続くラリー。靴底がコートに描…

決まると思ったショットが決まらず、果てしなく続くラリー。靴底がコートに描く不思議な模様と、赤黒く汚れたソックス。テレビ画面を見ながら頭の中でつぶやく--「ああ、クレーコートだなぁ」。【実際の映像】シナ―、ムゼッティ、アルカラスのハイライト動画集【実際の映像】鈴木貴男と一緒に見る全仏の今

極めつけは、小動物のように勢いよく跳ねるヘビートップスピンだ。見るからに重そうなボールが相手のラケットをはじく。「エグいな!」。思わず声が出てしまう。この全仏では、以前にも増して、このエグいショットを目にする機会が多いように思う。これを駆使する選手、特に若い選手が増えたからだろう。

ボールの質に「芸術点」や「若さ」の要素を加点すれば、2回戦で西岡良仁を破った19歳のロレンツィオ・ムゼッティ(イタリア)が筆頭格か。西岡の感想が生々しい。

「何とかしようとしても、それを超える力で1球で終わる」

技術、戦術、フットワークを駆使して展開をつくっても、一発で形勢を逆転されてしまう。そもそも仕掛ける段階で、なし崩しにされてしまう。だから西岡は、こうぼやくのだ。

「終始、攻めたいけど攻めれない。打ってこられるので、主導権がなかなか握れない」

解説でおなじみの鈴木貴男もムゼッティを高く買っている。出演したWOWOWテニスワールド「テニワのオンライン楽屋」で絶賛した。

「フォアハンド、バックハンドともに力強いボールをきっちり打てる。まだ19歳。体が出来上がり、もっといい走りと、コンスタントで力強いグラウンドストロークがもっとレベルが上がれば、数年後にはトップ20、トップ10に来てもおかしくない」

ムゼッティだけがそういうプレーをしているのではない。西岡は「若い選手」としてフェリックス・オジェ アリアシム(カナダ)、デニス・シャポバロフ(カナダ)、ステファノス・チチパス(ギリシャ)、ヤニク・シナー(イタリア)の名前を上げた。男子テニスの趨勢というか、強いボールが打てること、たたくテニスができることが、BIG3の後方からトップをうかがう選手たちの共通項となっているのだ。

スピード重視のカナダ勢はともかく、シナー、ムゼッティのイタリア勢を筆頭に、クレーコートで育った選手たちは、今大会でなおさら楽しみな存在だ。彼らの強いボール、すなわちエグいトップスピンは、大会序盤で筆者の目を捉えて離さなかった。

上位陣や日本選手にとっては大きな脅威となる。西岡は「僕みたいに、なんとかしのぐテニスをやっている選手は、そこ(強いボールが打てる選手)に対応していく必要が出てきている」と話した。

「ディフェンスだけでは勝てない試合が多い。それこそ僕がまだ18歳でグランドスラムに出始めたときは、展開だけでどうにかなった。そのときは力がなかったが、技術と展開力、あとは頭を使っていかに相手をつぶすかというところだけで何とか勝てた。それがまったくできない」

冷静で冷徹な、西岡の現状分析だ。内山靖崇やダニエル太郎もまた、対応を迫られている。内山は現状をこのように把握する。

「新しくトップ10に入った、またはトップ10に近い若い選手たちを見ると、身長も高く、ボールの強さ、体の強さ、パワーテニスに流れが行っている。その中で、自分の良さとかみ合わせるにしても、ボールの強さは求めていかないと」

ダニエルは対戦した25歳のマッテオ・ベレッティーニ(イタリア)について、こう話している。

「ものすごいパワーがある。信じられないくらいのパワー。フォアハンドは、テークバックは短いのに、手首でハエをたたくような打ち方であんなにスピードを出せるのは、相当、腕の動きが速いと思う。10年前、20年前にはあんなに強く打つ人はあまりいなかった」

体格では太刀打ちできない日本選手にとって、手ごわい相手が続々あらわれる、厳しい時代の到来だ。

今大会では19歳のシナーとムゼッティ、18歳のカルロス・アルカラス(スペイン)と3人の10代選手が3回戦に駒を進めた。いずれも、強いボールの打てるクレーコーターだ。こうした勢いのある若手を迎え撃つのは、上位陣にも楽ではないだろう。もちろん、ファンにとっては楽しみな、才能豊かなクレーコーターたちの台頭だ。

(秋山英宏)

※写真は2021年「ATP500バルセロナ」でのムゼッティ

(Photo by Quality Sport Images/Getty Images)