公認スポーツ栄養士・橋本玲子氏の連載、今回は「UEFAが提唱するサッカーの水分補給」 Jリーグやラグビートップリーグをみ…

公認スポーツ栄養士・橋本玲子氏の連載、今回は「UEFAが提唱するサッカーの水分補給」

 Jリーグやラグビートップリーグをみてきた公認スポーツ栄養士・橋本玲子氏が「THE ANSWER」でお届けする連載。通常食や栄養に対して敏感な読者向けに、世界のスポーツ界の食や栄養のトレンドなど、第一線で活躍する橋本氏ならではの情報を発信する。今回は「UEFAが提唱するサッカーの水分補給」について。

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 20度台後半の気温となる地域も出始め、スポーツ時の暑熱対策が大事な時期に入りました。今回は、2020年、UEFA(欧州サッカー連盟)が発表したエリート(プロ)サッカー選手の栄養に関する合意声明 (Consensus statement)から、暑い環境でサッカー選手がパフォーマンスを発揮するための水分と栄養補給の考え方についてお話ししましょう。

 以前、当連載でも触れましたが、この合意声明は、選手の健康やパフォーマンスの向上を目的としたもので、主に18歳以上のプロ選手(性別問わず)が対象。最新の科学から得られた知見を応用しての、食事の摂り方・考え方がまとめられています。

 サッカーに限らず、アスリートは脱水により体重が3~4%減少すると、筋力は2%、筋パワーは3%、高強度持久力は10%低下する恐れがあるといわれています。このことから、よいパフォーマンスを発揮するには、運動後の体重が運動前よりも2~3%以上減少しないよう、水分補給を行うことが望ましいとされています。

 UEFAの合意声明では暑熱下において、

<1>糖質よりも水分摂取を優先させたいときは、吸収速度が早い糖質濃度2~6%程度の水分を摂るのが望ましい
<2>通常、試合前のウォーミングアップ後、そしてハーフタイムは、各30~60gの糖質摂取が望ましい。ただし、水分摂取を優先させたい暑い日は、各20~50gの糖質摂取に抑える

 としています。

脱水を起こしやすいサッカーの対策は?

 まずは<1>の水分補給についてです。

 サッカーは試合中の走行距離が長く、十分な水分補給を心掛けないと脱水を起こしやすいスポーツです。そのため、暑熱下では脱水を予防する観点から、糖質濃度に配慮することが大事になります。

 その際、暑い時期は常温よりも冷たいドリンクのほうが、自発的に飲む量が増えるうえ、体温の上昇も抑えられます。加えて、発汗により体内のナトリウムがたくさん失われるため、特に発汗量と汗からの塩分損失量が多い選手の場合、個別に水分と塩分の摂取量について指導を受けることが望ましい、としています。

 とはいえ、栄養士や運動生理学者、スポーツドクターなどの専門家のサポートが受けられない場合も多い。その場合は、

A.たっぷりの水分と、ナトリウム、カリウム、水分を多く含む食品を意識して摂る
B.毎朝、のどの渇きや体重、尿の量をチェックする

 ことを、個々に心掛けるようアドバイスしています。

 次は、暑熱下の糖質の摂取についてです。試合前やハーフタイムという限られた時間内に摂ることを考えると、摂るべき糖質量は「かなり多い」という印象を受けると思いますが、最新のデータでは、これだけの糖質摂取が有効だとされています。

バルセロナを対象に行われた研究データから学べること

 さて、今年、スペインのFCバルセロナの選手を対象に実施された、水分摂取と発汗量についての研究データが発表されました。

 サッカーは大量に発汗するスポーツのため、試合中、選手の体内の水分量が少なくなることが以前から報告されています。一方、エリート選手の発汗量、給水量、糖質摂取量を異なる気温や運動強度によって比較した研究はほとんどなかったため、今回の研究が行われました。

 対象者は60~120分のトレーニングまたは試合を、週に3~6回行う14名のトップ選手。4つの条件下(1.低温・低強度条件 2.低温・高強度条件 3.高温・低強度条件 4.高温・高強度条件)で、6%の糖質濃度の電解質飲料を、タイミング、量ともに自由に摂取した際の脱水状態を調べました。

 その結果、全ての選手が体重減少を運動前の2%以内に抑えられていました。これは、さすが世界のトップチーム、という結果です。2%以内という優秀な数値から、選手たちの水分補給に対する意識の高さが伺えます。

 この結果が意味するのは、今回の条件下では選手たちが意識的に水分補給を行うことで、脱水を予防できる、ということです。また、脱水率は運動強度と環境温度に比例して高くなり、特に運動負荷の大小の方が脱水リスクに関係することも明らかになりました。

 一方で、質の高い練習時に摂取する糖質量は、UEFAの推奨量にははるかに及ばない、という結果も出ました。

 日本では少し前まで、スポーツ飲料でさえ「甘すぎるから」と薄めて飲んでいましたが、バテてくる後半こそ糖質の摂取がカギとなります。しかし、糖質量を多く含む甘いものは、体が受け付けない、のどを通りにくいなど、特に暑い季節は摂りにくいものが多いのが現状です。

 パフォーマンス向上のために水分だけでなく必要な糖質量をどのように取り入れていくのか? 世界のトップチームの選手でも達成できないことから、ウォーミングアップやハーフタイムの糖質摂取については、今後の大きな課題といえるでしょう。(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)

長島 恭子
編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビュー記事、健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌で編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(中野ジェームズ修一著)、『つけたいところに最速で筋肉をつける技術』(岡田隆著、以上サンマーク出版)、『走りがグンと軽くなる 金哲彦のランニング・メソッド完全版』(金哲彦著、高橋書店)など。