元日本代表FWの巻誠一郎は「利き足は頭です」と語った。足元は不器用だったが、腰より下の低いクロスもヘディングでゴールに…

日本代表FWの巻誠一郎は「利き足は頭です」と語った。足元は不器用だったが、腰より下の低いクロスもヘディングでゴールに叩き込み、名将イビチャ・オシムに愛された。同じく岡崎慎司の座右の銘は「一生ダイビングヘッド」。プレミアリーグ優勝を遂げたレスターシティーFCでの入団初得点もダイビングヘッドによるゴールだった。しかし、ヘディングが脳に与えるダメージが医学界からたびたび指摘されるようになっている。サッカー側もこの問題と向き合う覚悟を決めなければならない。ヘディングのないサッカー……。ありえる? ありえない?

■ヘディングを禁止されたらサッカーはどうなる?

「ヘッドギア」という手段がある。チェコ代表選手でイングランドのチェルシーなどで活躍したGKのペトル・チェフが、2006年のプレミアリーグでの試合中にペナルティーエリアにこぼれてきたボールを倒れながらキャッチした直後、走り込んできた相手FWと激しくぶつかり、頭蓋骨の陥没骨折という重傷を負った。幸い一命をとりとめ、「復帰まで1年」と診断されながら3カ月で復帰したが、以後、彼はラグビー用のヘッドギア(ヘッドガード)をつけ、2019年の引退までその姿のままプレーした。

 5月14日付けの朝日新聞の記事によれば、日本全国で子どものスクールを開講している「クーバー・コーチング」では生徒約2万人にヘッドガードを着用させて練習しているという。近い将来的に年少者のサッカーではヘッドガードが一般的になり、プロでも着用してプレーする選手が増加していくかもしれない。

 だが、ヘディングによる脳の損傷やバッティング(頭同士の衝突)による脳振とうを防ぐ根本的な方法は、ヘディングの禁止しかないのではないだろうか。そしてもしヘディングが禁止されたらサッカーはどうなるのだろうか――。

■ヘディングがシェフィールドで生まれた理由

 いまではサッカーに欠くことのできない技術であり、サッカーの魅力のひとつでもあるヘディングだが、近代スポーツとしてのサッカーが成立した1863年当時のロンドンを中心としたゲームにはまだなかった。ロンドンとともにサッカーの先進地だった中部イングランドのシェフィールドで生まれたのがヘディングだった。

 当時のルールでは、空中に高く上がったボールは、手でキャッチすることができた。「フェアキャッチ」と呼ばれ、ボールをキャッチした選手はそのままボールを手にもって前進することもできた。さもなければ、かかとを使って「マーク」し、適当に下がった地点から「フリーキック」をすることもできた。ほとんどラグビーと変わらなかったと思えばよい。

 一方、ロンドンに設立された「フットボール協会(FA)」にまだ加盟していなかったシェフィールドでは、「フェアキャッチ」は許されていたが、キャッチしきれずボールを前にはじいてしまったら反則ということになっていた(ラグビーの「ノックオン」である)。そこで考えられたのが、手ではなく、頭でボールをはじくプレー、すなわちヘディングだった。これらの経緯については、試合がなぜ90分間なのかについて取りあげたこの連載の第55回(4月21日公開)でも書いた。

 高く上がったボールに対し、ただヘディングを禁止したら、胸や肩に当ててコントロールするか、低くなったところかグラウンドに落ちてから足でコントロールするかしかない。これだと、落下地点ではげしいもみ合いになり、サッカーのスピード感は薄れてしまうだろう。あるは、ゴール前では「オーバヘッドキック合戦」になるかもしれないが、これはこれで危険性が高い。

■ヘディング禁止ルールの試案

 ヘディングをなくして試合をスムーズに進めるには、フェアキャッチとまで言わなくても、ルールを160年前に戻し、少なくとも手の使用を認めるしかないのではないかと、私は思っている。ただ、「前に」すなわち「相手ゴール」に向かって落としたら反則、すなわち1860年代のシェフィールドの考え方にする。前に落としたら「ノックオン」である。この規則を入れないと、試合は「パンチング合戦」になってしまうだろう。

 そしてまた、サッカーだから、後ろへでも手でパスをするのは反則とする。手でキャッチしたり後ろ向きに落としたボールは、自分でプレーしなければならない。自分が手で落としたボールを他の味方プレーヤーがけってしまったら反則である。

 また、この「ルール改正」はヘディングさせないことが目的なので、自分の肩より低いボールを手で扱うことも禁止である。体や足でいかなければならない。ちなみに「ヘディングの反則」は、すべて「自分自身を危険にさらした」ということで間接FKである。守備側の選手がペナルティーエリア内でヘディングしてしまったり、前に落としたり、あるいはまた落としたボールを味方選手がけってしまった場合には、PKにはならず、間接FKになる。

 では、ボールが偶発的に頭に当たってしまった場合にはどうなるのか。たとえば、相手が手で落としたボールがそのボールを競った選手の頭に当たってしまった場合。たとえば近くでけられたボールをよけきれず、頭に当たった場合。あるいは自分でけったボールがミスキックで頭に当たってしまった場合……。

 これは簡単である。現在の「ハンド」の反則と同じ考えにすればいい。偶発的に当たったものは反則ではない。ただ、FKの「壁」の選手の頭に当たった場合には、反則になるかもしれない。FKからシュートがくるのは予期できることであり、プレーヤーは自分の自身を守るために、右手を心臓に、そして左手を頭に当てて保護する形をとるのが、私の「試案ルール」では基本である。

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