「久保の夏」 スペイン大手スポーツ紙『アス』はWeb版のトップ記事で、久保建英(19歳)の去就に注目している。 2020…

「久保の夏」

 スペイン大手スポーツ紙『アス』はWeb版のトップ記事で、久保建英(19歳)の去就に注目している。

 2020-21シーズンのビジャレアル、ヘタフェというクラブ選びは、久保自身も後悔の言葉を口にしているように、成功とは言えなかった。スペインを代表するリアクション戦術の監督、ウナイ・エメリ、ホセ・ボルダラスという二人の麾下で、豊かな発想力と高い技術を限定的にしか見せることができず、「守備が弱い」という指摘を受けた。

 それでも、ヘタフェの1部残留を決めるゴールを叩き込み、「星を持った選手」として帳尻を合わせている。久保への評価は上がったとは言えないが、下がってもいない。正念場で試合を決めるプレーをし、チームを勝利に導ける選手は、スペインでは重宝されるのだ。

 久保はこの夏、どこへ行くのか――。



日本代表の合宿に参加中の久保建英。ヘタフェの監督交代により、残留の目も出てきた

 久保の新天地選びで大事なのは、何よりも監督だろう。ひとりのプロ選手として、どんなチームでも最大限に力を発揮するのは理想と言える。一方で、適材適所という考え方もひとつだろう。「頭上をボールが飛び交い、帰陣して肉弾戦を求められる」。そのような受け身のサッカーを前提にした指揮官のもとでは、コンビネーションで相手を崩し、ゴールに迫る利点を十全に出せない。

 その点、久保に適合するクラブは三つに分けられる。

 一つ目は、戦力で勝って相手を押し込めるチーム。二つ目は攻撃的な「ボールありき」の戦術を奉じるチーム。そして三つ目が、一昨シーズンに在籍したマジョルカのように、自らが中心となってプレーできる下位クラブだ。

 一つ目としては、パス所有先であるレアル・マドリードが最たるものだろう。世界的な戦力を誇り、個人で引けを取ることはない。トップレベルの選手の集団だ。

 久保は、レアル・マドリードでプレーする実力的基準を満たしているだろう。しかし「ヴィニシウス・ジュニオールがスペイン国籍を取得し、EU外選手枠が空いたら」(近日中に取得する可能性もあるという)というのが久保復帰の条件。つまり、序列はヴィニシウスよりも下。実績も含め、主力としては考えにくい。

 同じポジションで同年代のロドリゴのように、レアル・マドリードに残って出場機会を狙うのはひとつの選択だろう。ただ、クラブが補強で視野に入れる選手がキリアン・エムバペ(パリ・サンジェルマン)のような規格外の選手だと、あまりに分が悪い。ロドリゴもこの2年は限定的な活躍を見せてはいるものの、実績は乏しい。シーズンを通しての起用が望めず、バックアッパーに定着すると、やがて"期限切れのセール商品"になる。

 レアル・マドリードの次期監督はマウリシオ・ポチェッティーノ、ラウル・ゴンサレス、アントニオ・コンテのいずれかと言われるが、誰であれ、久保にとってはまだ1シーズンは研鑽を積むことが"急がば回れ"だ。

 二つ目の適性のあるボールポゼッション型クラブとしては、ベティスの名前を挙げたい。

 ベティスは伝統的にスペクタクルを好む傾向があり、ホアキン・サンチェスのようなテクニシャンの存在は象徴的だろう。バルサとの提携関係からも、クラブの志向が近いのは歴然としている。久保にラブコールを送り続ける理由も、頷けるはずだ。

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 もうひとつ急浮上しているのが、ヘタフェ残留の選択である。

 ヘタフェはボルダラスが退任し、ミチェル監督を新たに招聘している。ミチェルは1980~90年代にレアル・マドリードの背番号8、右サイドアタッカーとして名を馳せた人物。監督としてはボルダラスと違い、ポゼッションを重視し、コンビネーションを組み立て、自らがそうだったようにドリブルやクロスを許容するタイプと言える。

 つまり、久保にとって悪くない選択肢になった。

 ヘタフェはマドリード市郊外にあるため、もともとレアル・マドリードが選手を"武者修行"に行かせることが多い。定点観測にもってこい。久保もすでに半年を過ごしたたけに、チームメイトとの関係性という意味でもアドバンテージがあるはずだ。

 そして最後はマジョルカのようなクラブだが、1部に昇格したタイミングのエスパニョールは、おあつらえ向きと言える。

 エスパニョールの指揮官はマジョルカ時代の恩師ビセンテ・モレーノで、久保をどう使うべきか、体験的に知っている。マジョルカにはかつて大久保嘉人、家長昭博と日本人が在籍していたが、エスパニョールも西澤明訓、中村俊輔がいた実績がある。おまけに、エスパニョールはバルセロナ市のクラブとしてバルサとはライバル関係で、むしろレアル・マドリードと親密な関係を持っている。

 この夏、久保にはスペイン以外の各国クラブからもオファーが届くだろう。しかし、本人がレアル・マドリードでの成功を考えている限り、他国リーグでのプレーを選ぶ可能性は低い。スペイン国外に出たレアル・マドリードのパス所有選手は、片道切符になるケースが多いのだ。

 いずれにせよ、久保は今後の1、2シーズンでレアル・マドリード首脳陣を納得させる結果を叩き出すしかない。さもなければ、いい買い手がついた瞬間、買い戻しオプションをつけて手放す案件になるだろう。レアル・マドリードの白いユニフォームを身に纏って栄光をつかみ取るまで、行く手は高い壁ばかりだ。