ただひとり、手が使えるという特異なポジションであるGKには、なにより経験が必要と言われる。試合中に起こりうる様々なシチ…
ただひとり、手が使えるという特異なポジションであるGKには、なにより経験が必要と言われる。試合中に起こりうる様々なシチュエーションは、場数を踏まなければ味わえないし、シュートやクロスへの対応力や1対1の状況で求められる判断力は、実戦を積んでこそ研ぎ澄まされるものだ。
たとえば、キャッチするのか、弾くのか。飛び出すのか、構えるのか......。日々の練習だけで、その感覚を身につけるのは難しい。
味方を声で動かすコーチングも、説得力が備わらなければ、チームメイトは素直に耳を傾けてはくれないだろう。その説得力も、また経験によって築かれるものだ。

浦和レッズのゴールを守る18歳の鈴木彩艶
だからGKは、ひとつしかないそのポジションを一度掴んだら、なかなかその座が揺らぐことはない。逆に言えば、ほかの選手、とりわけ経験の乏しい若手にとっては、モノにするのが困難なポジションでもあるのだ。
浦和レッズで長く守護神として活躍するのが西川周作である。
2014年に加入以降、昨季までの7シーズンでリーグ戦のピッチに立たなかったのは、わずかに1試合のみ。183cmとGKとしては小柄ながら、鋭い反射神経を生かしたセービングとフィールドプレーヤー顔負けの足技を駆使し、攻撃の起点としての役割も担ってきた。
とりわけ、ビルドアップを重視するリカルド・ロドリゲス監督が就任した今季は、キックを武器とする西川の存在感はますます高まるかと思われた。
ところが、開幕からスタメン出場を続けてきた西川は第12節のアビスパ福岡戦を最後に、ついに守護神の座を失うこととなる。奪ったのは18歳の鈴木彩艶(ざいおん)である。
ガーナ人の父を持つ鈴木は、第13節のベガルタ仙台戦でリーグデビューを果たすと、いきなり完封勝利に貢献。続くガンバ大阪戦、ヴィッセル神戸戦でも無失点に抑え、3試合連続完封勝利を達成した。
第16節のサンフレッチェ広島戦で2失点を喫したものの、Jリーグの公式サイトのデータによると(5月28日時点)、ペナルティエリア内からのシュートのセーブ率は100%でリーグ1位。試合数が少ないため純粋な比較にはならないかもしれないが、18歳とは思えない落ち着いた対応で、相手のシュートをことごとく防いでいるのだ。
当然、経験値ではJ1通算出場500試合超を誇る西川には大きく及ばない。足もとの技術も西川に分があるだろう。しかし、鈴木が西川を大きく上回るのは、圧倒的なサイズである。
身長189cm、体重91kgの恵まれた体躯は、GKの大型化が進む現代サッカーにおいて基準を満たすものだろう。世界を見渡せば190cm超が平均値となるなか、まだ成長の余地を残す鈴木が、国際基準に到達することは十分に考えられる。
もちろん、サイズだけではない。セービングや足もとの技術も国内では水準以上にあるだろう。そのレベルをクリアしているからこそ、西川からポジションを奪うことができたのだ。
鈴木だけではなく、ほかのクラブでも190cm前後の若きGKが台頭しつつある。
FC東京の波多野豪(23歳)は198cm、湘南ベルマーレの谷晃生(20歳)は190cm。サンフレッチェ広島の大迫敬介(21歳)は187cmとわずかに及ばないが、がっしりとした身体つきでサイズ感は数字よりも大きく感じられる。彼らはいずれも所属クラブでレギュラーを担う存在だ。
ほかにも、まだポジションは掴めていないものの、北海道コンサドーレ札幌の中野小次郎(22歳)は2メートルちょうど。横浜F・マリノスのオビ・パウエル・オビンナ(23歳)は193cmで、横浜FCの市川暉記(あきのり/22歳)は190cm。一時期は韓国人選手に奪われつつあったこのポジションに、サイズと足もとの技術を兼備した若きタレントが次々に台頭してきている。
鈴木に話を戻せば、5月30日に行なわれた名古屋グランパスとの一戦でも、この新たな守護神は才能の片鱗を垣間見せている。前節の広島戦ではCKを直接決められ、終了間際にニアサイドを抜かれてミドルシュートを叩き込まれた。とりわけ1点目は判断ミスを指摘されるものだっただけに、この名古屋戦は巻き返しの一戦だった。
決定的なシュートは少なかったとはいえ、柿谷曜一朗の進入を防いだり、1対1の局面で放たれた山崎凌吾のシュートを冷静にキャッチするなど、鈴木は終始安定したプレーを見せた。後半には相手のプレスにも動じず、落ち着き払ったビルドアップも披露。味方の援護射撃がなく勝利は手にできなかったものの、鈴木は出場5試目にして4度目のクリーンシートを達成している。
「自分としては前節ミスをして引き分けにしてしまったので、今日は無失点というところを意識して入りました。攻撃の部分ではまだまだ課題はありますけど、GKの第一の仕事ができたことはよかったです」
安どの表情を浮かべた鈴木には、試合を重ねるなかで着実に自信が育まれているようだった。
鈴木の前でプレーするCBの槙野智章は、3つのポイントを挙げて若きGKを評価する。
「ひとつはGKに最も必要なシュートストップ。ポジショニングがいいこともありますし、体格もある。シュートモーションに入った相手の攻撃陣がなかなかいいコースに飛ばせないところが、彼の強みだと思っています。彼が構えた時にボールが正面に飛んでくるケースが多いのですが、それは相手に対するプレッシャーのかけ方がうまいからだと思います」
たしかにデビュー戦となった仙台戦でも、相手のシュートは正面に飛び、鈴木が難なくキャッチするシーンが多かった。名古屋の山崎も1対1の状況になりながら、力のないシュートを鈴木の正面に打つだけだった。その状況を生み出せることが、鈴木のすごさなのだろう。
ほかにも槙野は、しっかりとキャッチできるクロス対応と、確実に味方にボールをつなげられる視野の広さを高く評価。そして最後に「まだ18歳で、あの体格と落ち着きがある。今後の日本サッカーを面白くする存在だと思います」と最大級の賛辞を送っている。
浦和で出場機会を増やす鈴木は、ひとつ上の世代にあたるU−24日本代表にも初招集された。
「自分は初招集なので一番下から始まりますが、試合に出るなかで得た自信を発揮して、ここから追い上げて五輪代表に入れるようにがんばりたい」
中学生の時にU−17日本代表に選出され、16歳にしてU−20ワールドカップのメンバー入りと、鈴木は常に上の世代と渡り合ってきた。
プロの舞台で実戦経験を積み始めた規格外のGKは、果たして東京五輪のメンバーに滑り込むことができるか。最終選考の場となる6月の2連戦(vsU−24ガーナ代表、vsジャマイカ代表)は、この驚異の18歳のパフォーマンスが焦点となる。