「THE ANSWER スペシャリスト論」女子プロゴルファー・北田瑠衣「THE ANSWER」は各スポーツ界を代表するアスリート、指導者らを「スペシャリスト」とし、第一線を知る立場だからこその視点で様々なスポーツ界の話題を語る連載「THE …

「THE ANSWER スペシャリスト論」女子プロゴルファー・北田瑠衣

「THE ANSWER」は各スポーツ界を代表するアスリート、指導者らを「スペシャリスト」とし、第一線を知る立場だからこその視点で様々なスポーツ界の話題を語る連載「THE ANSWER スペシャリスト論」をスタート。女子ゴルフでツアー通算6勝を挙げた北田瑠衣(フリー)が「THE ANSWER」スペシャリストの一人を務める。2006年から10年連続でシード権を保持した実力者。ゴルフ界のトレンドやツアーの評論、自身の経験談まで定期連載で発信する。

 今回は「スロープレーの是非について」。米ツアーでは高額な罰金が科せられるなど厳しい処分の対象となるが、そもそもプレーが“遅い”ことは一体何がいけないのか。ゴルフをあまり知らないライト層のファンにもわかるよう、北田が選手の立場から解説する。

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 まず前提として、プレーするうえで周りに迷惑をかけてはいけません。スロープレーについては選手間でもよく話題に上がります。やはり一番大きいのは一緒に回っている選手に与える影響でしょう。プレーのリズムが変わったり、リズムを乱されたりすることもあります。プロの場合通常3人で回ります。それぞれの選手が自分の間合いやルーティーンを持っているのですが、他の選手のテンポによって自分のプレーに影響がでることが多いです。

 例えば優勝争いをしている時など、すごく集中しないといけないショットやパットの時に時間をかけるのはいいと思います。それは同じ組の選手にも伝わるものです。ゴルフ規則が定める「1打40秒以内」でのプレーが一つの目安となりますが、大事な場面であれば1打にかける時間が40秒をオーバーしてもいいとは思います。ただ毎回のように、使っていい時間ぎりぎりまでプレーしている選手も中にはいます。そういう選手とのペアリングになると嫌ですね。

 ツアーとして、プレーファーストを徹底するようになったのはここ何年かです。プレーが遅い選手に対してイエローカードを出すなど、対策はされていますが、なくなったわけではありません。先月(4月)行われた大会では、本来オナーである選手よりも先に別の選手が打つということもありました。私はすごくいいと思います。2019年にゴルフ規則が改訂され、プレーファーストのために準備のできた選手から打つことが可能になりました。ゴルフは個人スポーツですが、一緒に回るプレーヤーにも配慮しなければなりません。

 先に打ちたいと思ったことは私もあります。前の組と1ホールの間隔が空くと、スロープレーとしてストロークが計測の対象となります。対象になると該当の組に競技委員が付くのですが、やはり気になってしまいます。どうしてもリズムが崩れてしまいます。競技委員が来たときだけプレーが速くなって、それ以外の時は極端にゆっくりになる選手もいます。それをあえて考えてやっている選手もいる。同伴競技者のリズムは崩すのが作戦だとしたら、プロとしてどうなのかなと思います。

 ただ私自身、どちらかと言えば迷惑をかけたほうが多かったかな……。実際にプロになって右も左も分からない時に先輩プロから「遅いわよ」と指摘されたこともありました。自分では気付いていなかったので、言ってもらってありがたかったです。

 それ以来、ショット間での歩くスピードを速くしたり、次のショットで持つクラブの番手を考えながら歩いたり、徹底するようになりました。前の組との間隔が空くと、全体的にスピードアップが必要で小走りになり、自分のリズムもよくわからなくなってしまったこともあります。もう少し落ち着いてショットを打てば良かったなと後で思いますが、スロープレーは自分だけでなく、周りにも影響を与えてしまっているのです。

最大50万円超の罰金が科せられる米ツアー、日本ツアーでは?

 プレーが速ければ速いほどいいというわけではありません。一打に集中していいプレーが見せられるのであればそれがいい。一方で時間をかければいいプレーができるわけでもないのが難しいところ。個々のルーティーンやペースもあります。

 ただ、プレーが遅い選手はだいたい決まっているというのも事実としてあって、それを不満に思う選手がいることも感じています。スロープレーに対して、日本でももっと厳しくしてもいいと思っています。米ツアーでは1回目は警告、2回目からは高額な罰金(※)、が科せられます。実際に米ツアーに出場していた日本人選手が罰金を科せられたこともありました。

(※)米LPGAツアーでは今年からスロープレーの罰則を強化。1ストローク30秒以内を目安とし、パー4なら120秒(30秒×4)で自身のプレーを完結することがノルマに。また1ストローク70秒を超えると「警告」が出され、2回目の違反で1000ドル(約11万円)、複数回繰り返した場合は5000ドル(約55万円)もの罰金が科せられることも。JLPGAツアーでは1回目は警告、2回目は1罰打、3回目は2罰打、4回目で失格。

 個人的には米ツアーと同じように、日本ツアーでも罰金を積極的に採用すべきと思っています。イエローカード(警告)は出ますが、なかなかペナルティを取らない。2罰打が科せられたのも過去に数人しかいません。どんどんペナルティを出したほうがいいと思っています。ゴルフはミスが出るスポーツですし、時間をかけて慎重に打ちたくなる気持ちもわかりますが、一緒に回るプレーヤーに迷惑をかけないことが大事。米ツアーと同じくらい厳しくしていいと思います。

 そうなると大事になってくるのが明確な基準。プレー時間には前の組や、さらにその前の組も影響してきます。また悪天候、風、コンディションにも左右されます。どこからが計測の対象になってくるのか、明確に決める必要があります。不公平がないように、きっちり1打〇秒以内とか、どこから計測に入ってストップウォッチを押すのかとか、色々と考えていく必要はありますね。

 勝負の世界ではありますが、優勝した選手やすごくいいプレーした選手に対しては心から称えたいものです。プレーファーストを大事にしてほしいのはプロだけではありません。アマチュアの方も一緒に回って楽しかったな、気持ちよくプレーできたなという思いは同伴競技者と共通したものですから。

■北田瑠衣/THE ANSWERスペシャリスト

 1981年12月25日生まれ、福岡市出身。10歳でゴルフを始め、福岡・沖学園高時代にナショナルチーム入り。2002年プロテストで一発合格し、03年にプロデビュー。04年はニチレイカップワールドレディスでツアー初優勝し、年間3勝で賞金ランク3位。05年には宮里藍さんとペアを組んだ第1回女子W杯(南アフリカ)で初代女王に。06年から10年連続でシード権を保持した。男女ツアーで活躍する佐藤賢和キャディーと17年に結婚し、2児のママとして子育てに奮闘中。(THE ANSWER編集部・角野 敬介 / Keisuke Sumino)