「今シーズン初勝利を挙げた時、あいつにメールしたんです。『よかったな、頑張れよ。去年は1勝だけだったんだから、今年は5勝…
「今シーズン初勝利を挙げた時、あいつにメールしたんです。『よかったな、頑張れよ。去年は1勝だけだったんだから、今年は5勝ぐらいすりゃいいだろう』って」
そんな教え子とのエピソードを語ってくれたのは、八戸学院大学の正村公弘(まさむら・やすひろ)監督だ。そしてその教え子とは、今シーズンここまで先発ローテーションの一角として巨人投手陣を牽引している高橋優貴である。

今シーズンここまでセ・リーグトップの6勝をマークしている巨人・高橋優貴
正村監督は長く八戸学院大の指導に携わり、これまで2004年に新人王を獲得した元ヤクルトの川島亮や楽天の塩見貴洋、広島のドラフト3位ルーキー・大道温貴など、多くの選手をプロの世界に送り込んできた。
「そしたら高橋から電話がかかってきて、『もうちょっと......10勝ぐらいは』って言うんです。あれっ、いつもの高橋と違うなぁと思っていたら、もう6勝じゃないですか。すげえなぁって思う反面、ちょっと心配もしているんです」
※成績はすべて5月29日現在(以下同)
高橋は八戸学院大からドラフト1位で巨人に入団して今年で3年目。5月26日の楽天戦で8回途中まで7安打2失点に抑える好投で、今季6勝目を挙げ、セ・リーグのハーラーダービートップに立った。
「今まで何勝できるかみたいな話をしても『そーっすね』しか言わなかったヤツが、自分から『10勝』と言うんですから。こっちも期待しちゃって、投げるたびに見たいなぁと思って......"DAZN"にも加入しちゃいました(笑)」
正村監督は東北学生界で知らぬ者がいないほど有名な指導者だが、もともとは東海大浦安、東海大、NTT東京で左腕投手として活躍した人物だ。
「4月にセ・リーグの月間MVPを獲って、そのあとしばらく勝てなかったでしょ。その時に『今までよすぎただけで、ちょっと守りに入ってないか?』って言ってやったんです。バックが打ってくれたおかげで勝てているだけなのに、『いいピッチングしなきゃとか、丁寧にいこうとか思ってんじゃないぞ』って。そこまでの力はまだないんです。今までみたいに全力で、がむしゃらに投げないとダメなんですよ、あいつは」
正村監督が心配していたのは、高橋の受け身の姿勢だった。
「相変わらずフォアボールは多いし、首脳陣の方はベンチでハラハラしているはずですよ」
たしかに、ここまで60イニング1/3を投げて、与四球28はセ・リーグワーストである。
「でも、抑えている時はストレートで両サイドをしっかり突けている。とくに左打者の内角を攻められるようになりました。好調の原因を挙げるとすると、そこだと思います。キャッチャーの方もチェンジアップを見せておいて、ストレート勝負というのかな......高橋の持ち味をしっかり生かしてくれて、ほんとありがたいですよ」
さらに、これまでの高橋と明らかに違っていることがあると、正村監督は言う。
「顔つきですよ。顔つきが去年とまるで違う。仕事ぶりが顔をつくるっていうけど、今年は堂々としていて、立派な顔をしています。以前は打たれると、自信なげな表情をすぐしていたんですよ」
26日の楽天戦の6回、1点を返されなおも一死一塁の場面で、最初の打席で一発を浴びている岡島豪郎に回ってきた時も慌てたそぶりを見せることもなく、しっかりインコースを突いてセカンドゴロ併殺打に仕留めてみせた。
「去年、ヒジを痛めて悔しい思いをしていた頃も『子どもの寝顔を見ると癒されます』って言っていたし、結婚して、子どもも生まれて、守るべきものができてあいつも変わってきたんじゃないですかね。昔から家族思いなヤツで、弟もすごくかわいがっていました」
何事もなく、ローテーション投手としてこのままの調子を維持できれば、シーズン15勝以上も夢ではない。
「そんなの無理ですよ。まだ甘いコースに来るし、フォアボールも多い。それでもボール自体はいいし、12勝ぐらいはやってくれるんじゃないかな」
正村監督にしてみれば、フォアボールは多いが、いい意味での"荒れ球"が高橋に味方しているというのである。
「たとえば塩見は本質的にコントロールがいいので、後半にへばってくるとちょっとだけコントロールがブレて、その球を痛打されることがよくあるんです。でも高橋の場合は完全な逆球になるから、かえってバッターは絞りづらいのかもしれないですね」
技巧派サウスポーとして鳴らした正村監督の見立てである。
「スカウトの人に会うと、みんな『高橋くんすごいね』って言ってくれるんですよ」
その口ぶりだけで、うれしさが伝わってくる。
「スカウトの方に『打線に助けてもらっているだけですから』って言うと、『プロは1勝するだけでも大変なんですから』と返されるわけですよ。そういうのを聞くと、ここまですでに6勝している高橋は本当にすごいんだなって、あらためて思いましたよね。
あいつのピッチングを見て感じるのは、プロって真っすぐ以外で打者に意識させるボールがないとダメですね。高橋の場合はそれがチェンジアップなんですけど、そのボールをしっかり意識させることができているから、ストレート勝負ができる。もし意識させるボールがなかったら、ストレートを狙われてメッタ打ちされていますよ」
厳しいながらも優しい眼差しで教え子を見守る正村監督。こんな"恩師"がいて、高橋はつくづく幸せ者だと思う。そんな恩師の期待に応えるには、このまま勝ち続けるしかない。