お気づきだったろうか。ユンカー旋風が静かに吹き始めている。昨年のオルンガ台風ほどの派手さはない。しかし静かに、着実にブ…

お気づきだったろうか。ユンカー旋風が静かに吹き始めている。昨年のオルンガ台風ほどの派手さはない。しかし静かに、着実にブームは胎動を始めた。J1デビューから出場4試合のリーグ戦すべてでゴールを決めて、計5得点。他を圧倒する高さや強さ、スピード、ボールテクニックを披露するわけではない。武器は、「決定力」というストライカーとしての能力そのもの。わたしたちは、ユンカーを分析して、理解する必要がある。浦和レッズは彼のデビュー以来、3勝1分け無敗で順位を8位に上げてきた。

■ユンカーの決定力の最大の秘密とは

 こうした冷静さとも関連するが、ユンカーの決定力の最大の秘密は、ゴールを取るためのポジショニングの良さ、そして体の向きのつくり方にある。そうした「基本」があるからこそ、シュート時に余裕ができ、冷静な判断を下すことができるのだ。

「僕の強みはペナルティーエリア内でのポジショニング」

 チームに合流して4日目、4月29日にオンラインで行われた「新加入記者会見」で、ユンカーは繰り返しこう語っている。その言葉どおり、ユンカーは「シュート」から逆算して理にかなったポジションを適切なタイミングで取り、得点に結びつけている。

 仙台戦では、武藤にスペースを空けるために右に動きながらも、スムーズなステップで体をゴールに向け、しかもいたずらに前に出ないようにして、自分の前にボールを止めてシュートを打つためのスペースを確保した。極端に言えば、彼の「仕事」の8割はここまでで終わっている。武藤からパスがきたらワンタッチでそこにボールを置き、GKを見ながらゴールに送り込むだけだった。

■繰り返される細かくてスムーズなステップ

 G大阪戦の2点も、まさにポジショニングによるものだった。右のゴールラインで田中がクロスを上げようとしたとき、ゴール正面でG大阪DF三浦弦太にマークされていたユンカーは2歩、3歩とバックステップを踏み、ボールに目をやる三浦の視野から消えようとした。さすがに三浦は右手を伸ばしてユンカーの動きを察し、ついていったが、田中がクロスを上げた瞬間にはユンカーが先手を取ってジャンプ、結果的にはほぼフリーでのヘディングシュートとなった。

 そして2点目は、右から突破した田中のクロスに合わせてゴールにはいったが、田中が少しひっかかってスピードダウンしたため、ゴール前で止まった状態でクロスを待つ形になった。だがこのとき、彼はただ立ち止まっただけではなかった。背後からG大阪MF矢島慎也が追走してくることを察知し、右足で踏ん張り、右腕を広げて矢島をブロックしながら自分の前のスペースを確保し、シュートに持ち込んだのだ。

 神戸戦では、やはり細かなステップワークによるポジショニングが得点を生んだ。西が放り込んだときには戻ってくる途中だったユンカーだが、岩波と菊池が競るときにはすでに岩波の左まで戻って体をゴールの方向に向けていた。だからワンバウンドしたボールに即座に反応することができたのだ。

 広島戦の先制点のときにも、汰木がくるのに気づくのが遅かったとはいえ、気づいた瞬間にはスムーズにステップを踏んで体をゴールに向けていた。この体の向きがなければ、汰木のクロスに右足のインサイドを合わせることはできなかっただろう。

■なぜ、決定力が日本サッカーの課題なのか

 ユンカーの得点は、けっして天才による「ゴラッソ」ではない。彼は柏以外の昨年のJ1チームを恐怖に陥れたマイケル・オルンガのような「モンスター」ではないし、フィジカル面も技術面も日本人選手からかけ離れているわけではない。ただ、彼はシュートから逆算したポジショニングや体の向きの作り方を自分自身で考え、工夫し、試合のなかで愚直に実践する。そうした「準備の良さ」が、いざボールがきたときの落ち着きにつながり、「オンターゲット率64%」「得点率43%」という驚くべき効率性を生んでいるのだ。

 日本のサッカーで「決定力」が課題になって何十年もたつ。テクニックの向上、戦術の緻密化によって、以前と比較するとチャンスの数は増えている。しかしプレーヤーたちは、それを大盤振る舞いで無駄にし続けているし、コーチたちは、「決定力は個人の問題」というだけで解決の気配もない。

 ユンカーの「毎試合得点」がいつまでも続くわけではない。次の試合にもストップするかもしれない。しかし5月5日の「日本デビュー」以来彼が見せ続けてきた「決定力」がどこから来ているのか、それを分析し、日本のサッカーに生かすのは、日本サッカーの最優先課題ではないか。この課題の解決なくして、日本が世界のトップクラスに並ぶ日などくるはずがない。

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