サッカーファンは人生の多くの時間をスタジアムで過ごす。応援するクラブのホームスタジアムは、ファン、サポーターにとってき…
サッカーファンは人生の多くの時間をスタジアムで過ごす。応援するクラブのホームスタジアムは、ファン、サポーターにとってきわめて重要な場所なのだ。川崎フロンターレのホームの等々力競技場がサッカー専用に改修される。現在はサッカーのピッチを陸上用のトラックが囲んでいるが、改装で観戦スタンドとピッチの距離が近くなり、観客数も増える見込みだ。スタジアムは地域の社交の場でもある。良いスタジアムは人々の暮らしを豊かにする。専用スタジアムは、クラブだけでなく、市民にとっていかに大切であることか——。
■ 専用スタジアムのメリットの数々
J1リーグで今シーズンも首位を走る川崎フロンターレ。その川崎のホームスタジアムである等々力陸上競技場がサッカー専用スタジアムに改装されるという。川崎市の「等々力緑地再編整備実施計画」の一環として計画されているものだ(実際の改修の時期は未定)。
公表されている計画の骨子(案)によれば、バックスタンドとサイドスタンドを全面改修して既存のメインスタンドと合わせて3万5000人程度収容の球技専用スタジアムとし、同時に補助陸上競技場を5000人程度収容の第2種陸上競技場にするというものだ。
サッカー専用スタジアムの最大のメリット。それは、何といっても観戦環境の改善だ。
専用スタジアムでは陸上競技のトラックがないので、スタンドからピッチまでの距離は短くなる。そして、スタンドからピッチを見下ろす角度が大きくなるためピッチ上を俯瞰的に見ることができ、そのことによってピッチ上の選手の配置や動きが見やすくなる。選手までの距離が短くなれば選手の動きが良く見えるし、遠くからでも誰がプレーしているかがすぐに分かって、観戦するためのストレスがなくなる。
設備面でもサッカー用のスタジアムにはメリットがある。
たとえば、サッカーでは熱心なサポーターがゴール裏に陣取るという慣習があるが、そのためゴール裏席にも屋根を付けることで観戦環境は大幅に改善される。また、サッカーでは陸上競技とは違ってトイレの利用がハーフタイムに集中するが、専用スタジアムなら、トイレを増やすなどサッカー観戦に特化した設備を備えることができる。
試合が見やすくなり、スタジアムでの滞在時間を快適に過ごせるようになれば、観客動員につながるのは間違いない。
一方で、専用スタジアム化することは陸上競技にとってもメリットがある。
ヨーロッパではスタジアムをサッカー場として利用するため陸上トラックの内側に十分な大きさの芝生面を確保する必要があることから、陸上トラックの曲線部分を「二心円」にしているスタジアムが多い。要するに、コーナー付近を急カーブにすることによってトラック内の芝生の面積を大きくするのだ。しかし、これによってカーブの曲率が高くなるから陸上競技の選手にとっては走り難く、記録も出なくなってしまう(こうした急カーブに慣れていない日本の選手がコースアウトして失格になってしまったこともある)。
また、日本でも芝生の保護のためにハンマー投げややり投げなどの投擲回数に制限が設けられているスタジアムもあるが、陸上専用であればそのような制約はなくなる。
■兼用スタジアムが“世界標準”だった理由
20世紀の末以降は世界的に専用スタジアムが多くなる傾向が強まっている。
まず、スタジアム建設の歴史を振り返ってみよう。
世界で本格的なスタジアムが建設されはじめたのは今から100年余り前のことだ。1908年にはロンドン・オリンピックのために6万8000人収容のホワイトシティー・スタジアムが完成(現在はすでに解体)。その後、世界各地に巨大スタジアムが建設されていった。
日本でも1924年に東京の明治神宮外苑競技場が完成。現在の国立競技場がある場所である。また、同年には兵庫県西宮市に甲子園野球場も完成している。ちなみに、その前年の1923年にはロンドン郊外にウェンブリー・スタジアム、ニューヨークにヤンキースタジアムが相次いで完成している。第1次世界大戦後、各国でスポーツ熱が高まり、多くの巨大スタジアムが建設されたのだ。
当時の巨大スタジアムは多くの競技に使用されていた。ホワイトシティーのピッチ内には水泳プールが設けられていたし、完成した明治神宮外苑競技場では陸上競技やサッカー、ラグビーのほかにバスケットボールやバレーボールの試合も行われた。さらに、野球場として建設された甲子園やヤンキースタジアムにも当初は陸上競技のトラックが併設されていた。
さすがに野球場で陸上競技を行うのは難しかったが、その後、1周400メートルの陸上トラックの内側の芝生で各種のフットボールを行うという形式が定着。20世紀後半まではそれが“世界標準”だった。
イングランドやスペイン、ポルトガルではフットボール・クラブ自身がスタジアムを所有している場合が多かったのでサッカー専用が主流だったが、フランスやドイツ、イタリアなどヨーロッパ大陸の多くの国では陸上とサッカーの兼用スタジアムが一般的で、そのほとんどが市など自治体の所有だった。
つまり、各都市には大きなスタジアムが一つ存在し、そのたった一つのスタジアムがいくつもの競技に使用されるという形式だ。1958年の東京アジア大会のために建設され、1964年の東京オリンピックの時に拡張された旧・国立競技場もそうだった。旧・国立競技場では1991年の世界陸上などの陸上競技大会やサッカー、ラグビーのビッグマッチに使用され、多くの観客を集めてきた(当時の日本には野球場以外に5万人を収容できるスタジアムは「国立」以外に存在しなかった)。