ダービージョッキー大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」「競馬の祭典」GI日本ダービー(東京・芝2400m)が5月30日に行な…

ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」

「競馬の祭典」GI日本ダービー(東京・芝2400m)が5月30日に行なわれます。

 騎手、調教師、調教助手、厩務員、生産者、馬主......競馬に携わる者であれば、誰もが「勝ちたい」と思っている――そう言っても過言ではない特別なレースです。

 3歳という限られた年にしか挑戦することができず、出走するためにはそれなりの成績を残して賞金を積み重ねる必要があります。毎年、出走のボーダーラインを見極めながら、どの陣営もレース選択に頭を悩ませるもの。ゲートインすることさえ、容易ではないのです。

 1932年の第1回以来、今年で88回目。芝2400mという舞台でずっと行なわれており、1着賞金も高額。現在は2億円と、3億円の有馬記念、ジャパンCに次いで、国内3番目を誇ります。その伝統と格式の高さから、ホースマンにとって最高の栄誉とされています。

 今はコロナ禍にあって例年とは異なりますが、通常ダービー週となれば、週中のトレセンにも数多くのメディアが押し寄せて活気づき、出走馬に関わる者たちの緊張感はいやがうえにも高まります。ダービー当日の競馬場や検量室、ジョッキールームなども、普段とは違ってピリピリとした異様なムードが漂います。

 そんな特別な一戦を、過去に僕も運よく勝たせていただくことができました。そのことは今でも本当にありがたく思っています。

 ダノンザキッドの故障もあって、フルゲート割れとなりましたが、今年も2018年生まれの7398頭の中から、熾烈な争いを勝ち抜いてきた17頭がエントリー。世代の頂点を決するに相応しいメンバーが集いました。

 ところで、今年は例年以上に出走へのボーダーラインが高くなりそう、と早い段階から言われていました。収得賞金1650万円のグレートマジシャン(牡3歳)も一時は賞金を加算するために、GINHKマイルC(5月9日/東京・芝1600m)の出走も視野に入れていたほどです。

 そうした状況になったのは、ローテーションの多様化がひとつの要因と言えるでしょう。現在はひと昔前と違って、一部の大手生産者が隆盛を誇っており、前哨戦の段階から同グループ内での争いを避けるようにしています。おかげで、賞金が分散されて、クラシック出走のボーダーラインも自ずと高くなっているのだと思います。

 そういう意味では、大舞台を迎えるまで真の強者がわかりにくい状況にある、とも言えます。そんななか、一冠目となるGI皐月賞(4月16日/中山・芝2000m)では、エフフォーリア(牡3歳)が3馬身差の圧勝。その強さは抜けていると感じました。

 これまでの競馬を見ても、操縦性が高く、展開に左右されないのが強みだと思います。ダービーでは時として、相当なハイペースになることがありますが、超乱ペースにでもならない限り、大崩れするシーンは想像に難しいです。今年は逃げ争いになるようなメンバー構成ではありませんから、なおさらです。

 課題を挙げるとすれば、プレッシャーでしょうか。

 鞍上は5年目の横山武史騎手。若いながらも技術の高さがうかがえ、昨年は関東のリーディングジョッキーになるなど、ここまで十分な成績も残しています。ただし、ダービーという舞台、ましてや1番人気の大本命馬に騎乗するとなれば、なかなか平常心ではいられません。

 週中のトレセンでは普段どおりに過ごしていても、レース当日になって、急にプレッシャーが襲いかかってくることは容易に想像できます。彼自身、競馬学校時代に父である横山典弘騎手がワンアンドオンリーで制する姿を見て、ダービーへの思い入れが深まったと聞きます。まだ若くても、その重みは強く感じるものだと思います。

 最近のことは知りませんが、私が現役だった頃はダービー当日、寮の職員さんに作ってもらう定食の中に、普段はあるお味噌汁がありませんでした。「なんでないの?」と聞くと、「"みそ"がつくことがないように」と言われました。

 ホースマンに限らず、競馬に関わる人は皆、ダービーを迎えると、そうやって験を担いだり、いろいろと気を遣ったりするものです。関係者にはそれだけ思い入れの強いレースですから、レースの勝ち負けにかかわる当事者となれば、その重圧は計り知れません。それに、横山武史騎手が耐えられるかどうか。

 僕もサニーブライアン(1997年)で勝った時は、本番までに何度も何度も頭の中でレースのシミュレーションをしました。それで、寝ようと思っても寝られませんでした。横山武史騎手もいろいろなことを考えるはず。ダービーは馬だけでなく、騎手も自分との戦いに打ち勝たなければいけません。はたして、どんな騎乗を見せるのか、注目です。

 エフフォーリアに太刀打ちできる存在をピックアップするなら、キャリアが浅く、伸びしろのある馬でしょうか。

 面白いのは、シャフリヤール(牡3歳)です。デビュー2戦目のGIII共同通信杯(2月14日/東京・芝1800m)では力を出し切れなかったように映りましたが、3戦目となる前走のGIII毎日杯(3月27日/阪神・芝1800m)ではレコード勝ち。ポテンシャルの高さを示しました。

 厳しい流れを自ら動いていって押し切るのですから、GI馬アルアインの全弟という血統は伊達ではありません。ここ一番できっちり仕上げてくる藤原英昭厩舎でもありますし、ゆとりあるローテーションも好感が持てます。一発あっても不思議ではありません。

 穴となるのは、人気の盲点になりやすい存在。特にダービーでは王道タイプがもてはやされやすく、距離に不安があると人気が落ちやすいものです。

 今年で言えば、ステラヴェローチェ(牡3歳)。マイル路線を歩んできたこともあって、皐月賞でも6番人気と伏兵といった立場にありました。実際、同レースにおいては、ジョッキーも距離にメドを立たせようと慎重な騎乗ぶりを見せていました。それでも、3着と好走したことは大きな収穫になったと思います。



ダービーでも上位争いが期待されるステラヴェローチェ

 もともと3歳世代は、マイル路線でハイレベルな争いが繰り広げられています。ステラヴェローチェはそこでトップクラスの成績を残してきた馬。同世代同士の戦いなら、距離もカバーできるのではないでしょうか。

 同馬を管理するのは須貝尚介厩舎。鞍上は吉田隼人騎手です。同タッグと言えば、ソダシ。オークスで結果を出せなかった分、ダービーで挽回したい思いもあるはず。今回の「ヒモ穴馬」には、そんな背景もあるステラヴェローチェを指名したいと思います。