ベテラン吉田宏が考える新生ジャパンの可能性 ラグビー日本代表の2021年メンバーが5月24日に発表された。トップリーグ(…
ベテラン吉田宏が考える新生ジャパンの可能性
ラグビー日本代表の2021年メンバーが5月24日に発表された。トップリーグ(TL)がパナソニックワイルドナイツの優勝で幕を閉じた翌日に、ジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチ(HC)が選んだメンバー36人は、2019年ワールドカップ(W杯)経験者19人、ノンキャップ14人という顔ぶれ。英国諸国、アイルランドの連合軍「ブリティッシュ・アイリッシュライオンズ」、アイルランド代表とのテストマッチへ向けて、26日からは大分・別府での合宿もスタート。国内を熱気に包んだW杯日本大会以来18か月ぶりとなる再始動の目指すゴールは、2年後のW杯フランス大会。新型コロナウィルスによるパンデミックと戦いながら、悲願のベスト8突破に挑む新生ジャパンの課題と可能性を考える。(文=吉田宏)
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ファン誰もが待ちわびたときが近づいている。
ジョセフHCが発表した新生ジャパンは、事前に発表された候補選手54人から選りすぐられた36人。4年に1度しか編成されないライオンズとの歴史的な初対戦、そしてダブリンの至宝アビバスタジアムでの2019年“エコパの歓喜”の再現へ、桜のジャージーが2年ぶりに満開のときを待ちわびる。
満を持して集められたメンバーの選考基準を、オンラインでのメディアブリーフィングで同HCに聞いてみた。
「テストマッチの経験ある選手、同時に状態が仕上がっている選手を選んでいる。準備期間が短いことで、経験のある選手が重要になる。そしてTLでいいプレーをした選手を選んでいる。同時に、若い選手を育成して、メンタリティーの部分でもしっかり備えさせていきたかった。W杯まで2年しかないので、若い選手も入れながらの選考になった」
19年W杯戦士は半数を超える19人、ノンキャップ選手が14人と、新たな戦力を抜擢しながら強豪相手に戦える実績を持つメンバーに若干の厚みを持たせている。新旧メンバーのバランスが取られている印象だが、注目したいのはノンキャップ勢の中の7人の海外出身選手たちだ。
彼らは、統括団体ワールドラグビーが設ける海外出身選手の代表資格「36か月継続的に当該国に居住する」という規約をクリアしている選手だ。この36か月という居住規約が、来年1月からは「60か月」に引き伸ばされることが決まっている。そのため、今年中に代表入りさせようという戦略的な狙いが、今回のメンバー選考に反映されている。もし、彼らが今年中に代表戦に出場できなかった場合は、日本でトータル60か月を過ごすことが代表入りの条件になる。そのため、この7人に関しては、6、7月のテストマッチに優先的に出場する可能性が高いと考えていいだろう。
熱心なファンであれば、代表メンバーにTLを制したパナソニックワイルドナイツでMVP級の活躍を見せたCTBディラン・ライリーの名前がないことに疑問を持つだろう。日本代表の藤井雄一郎ディレクターに聞くと「ライリーの居住規約がクリアになって代表戦に出られるのは今年の秋以降になる」と説明している。
オーストラリア、南アフリカでの代表資格も持つライリー本人も、24日に行われたオンライン取材で「いまの自分がいるのは、日本に来ることができたおかげだと思う。その日本でベストを尽くせる機会が訪れるのを楽しみにしている」と秋の日本代表戦でのデビューに強い意欲を示している。
TLプレーオフ決勝で見せたインターセプトからの60メートル独走の先制トライが象徴する超攻撃的なプレースタイルが期待のライリーだが、「ディフェンス側の部分をもっと伸ばしていきたい」と、秋の代表入りへ向けて防御面の進化にも取り組む姿勢をみせている。藤井ディレクターはさらに、「松島幸太朗が国内合宿には不参加ということも踏まえて、人数を合わせるために大分合宿に呼びたい」と早期の帯同も用意している。
ポスト福岡を占うWTBのポジション争いに注目
ポジション争いでは、ポスト福岡堅樹を占うWTBが注目だ。4月に順天堂大医学部に入学したために、トップリーグを最後に現役を引退した福岡だが、今回の合宿メンバーを見渡すと、その穴を埋めるほどのスピードの持ち主は少ない。もう一方のWTB兼FBはフランスでも活躍する松島幸太朗が健在だが、福岡級のスピードを持つ初選出のセミシ・マシレワはコンタクトと防御には不安を残す。
経験豊富なレメキ・ロマノ・ラヴァに期待したいところだが、怪我による長期離脱で回復具合が気掛かりだ。注目したいのは、サンウルブズで実績を残すシオサイア・フィフィタだが、マシレワ同様に防御に課題がある。福岡の穴埋めは、初選出ながら経験値の高いゲラード・ファンデンヒーファーや可能性を秘めたフィフィタらフィジカルの強さが武器のWTBを使いながら適性を見ていくことになりそうだ。
WTBとともに注目されるのが、SHのポジション争いだろう。フレッシュな顔ぶれになったが、2019年W杯で活躍した田中史朗、流大が選外となったのは、すでに評価が固まっていることと、コンディションを重視したためで、刷新という捉え方はできない。2019年大会に選ばれながら出場機会がなかったが、今季のトヨタ自動車ではチームの躍進を支えた茂野海人、パス、キック、戦術眼と将来性抜群の齋藤直人、サイズが魅力の荒井康植が、どこまで不在の2019年組に肉薄できるかが試される。
このような状況の中で、27日に怪我のためにWTB江見翔太が合宿参加を辞退して、代わりに高橋汰地が招集されたのは興味深い。トヨタ自動車ヴェルブリッツで2シーズンをプレーした高橋は、事前に発表された候補メンバーにも選ばれていなかった選手だが、チームでもハイボールへの無類の強さ、スピードとステップを駆使した突破力に加えて、試合を重ねるごとにポジションに関係なく、チャンスでボールを貰いに行く積極性も見せてきた。国際舞台での経験値は少ないが、潜在能力はかなり高いのは間違いない。今回の臨時招集で代表クラスのスタンダードを体感することで、自らのポテンシャルをさらに輝かせることに期待したい。
次回W杯へのポジション争いを考えると、今回選ばれた3人が争うというよりも、評価が固まっている流や田中、前回Wまでに代表経験もある内田啓太らも交えたレースになると考えていいだろう。トータルバランが高く、サンウルブズでも判断力の高さを見せた齋藤が、代表戦という高い水準の試合でどこまで自身のスタンダードを見せることができるかに注目したい。
上記してきたフィフィタ、齋藤に加えて、コンタクトの激しさが持ち味のFLベン・ガンターという20代前半の若手が、代表戦でジョゼフHCの期待に応えることができれば、2019年メンバーからの世代交代に拍車がかかることになるだろう。
チームの活動に目を向けると、今季に関してはコロナ感染の影響を、どこまで回避しながら効果的な強化ができるかが大きな挑戦になる。ライオンズ戦が行われる英国の場合、海外からの渡航者には入国から10日間のホテル等での隔離措置が求められている。日本代表は、6月12日に静岡でサンウルブズとの強化試合を終えて16日の渡英を準備している。
隔離措置と試合への準備が不安視されるが、日本協会の岩渕健輔専務理事は「ヨーロッパの国々は6か国対抗、各国リーグ間の試合も行われている。エリートスポーツが国を跨いで行われるのは、すでに、かなり頻繁に行われている。ライオンズ戦は英国の中でトップカテゴリーと位置付けられたスポーツイベントになっている。その観点から、特別な措置をしていただいて、現地に入ってもトレーニングを含めて前向きな形でできることになっている」と、行動制限はかなり厳しい中でも特別措置が取られるために、練習などの環境は確保できていると説明する。
アイルランド共和国への国境を跨ぐ移動についても、「6か国対抗で適用されていたような形でできないかと話しをしている。ライオンズ戦の1週間後に試合があるので、トレーニングが許されなければ試合は行えない。前向きな形でやらせていただけると聞いている」として、今春の6か国対抗と同様の扱いでの、移動に関しての特別措置を各国政府、協会と調整している。
注目ライオンズ戦へ指揮官は自信「1試合多く事前に試合ができる」
新旧メンバー、そして36か月規約をクリアした選手のポジション争い、コロナの中での強化の先には、ライオンズとの歴史的な一戦が待っている。このゲームを、どう戦い、勝利するかが今回の合宿・遠征の最大のミッションでありターゲットになるのは明らかだ。
ライオンズはイングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランド代表の連合軍。言い換えれば、フランス、イタリアを除いた6か国対抗のオールスターチームと表現するのが適当だろうか。4年に1度しか編成されず、その試合も南半球への遠征が大半のために、スコットランドでその雄姿が見られること自体が異例のことになる。
日本戦は、2005年にカーディフで行われたアルゼンチン代表戦以来の“ホームゲーム”だ。日本代表にとっても、次回の対戦が実現するかはニュージーランドや南アフリカ代表以上に難しい相手だが、ジョセフHCは“思い出作り”に終わらせる気持ちは一切ないはずだ。この歴史的な対戦について、指揮官は興味深い話をしている。
「サンウルブズ戦を有意義に使わなければいけない。ライオンズよりも1試合多く事前に試合ができることになる。なので、この試合を有効に使っていくこと、同時に後半でもしっかりと、インパクトのある選手が出てくるような、強度の高い試合ができることが重要だと考えている」
ポイントになるのは、ライオンズが編成後初めてのゲームになるのに対して、日本はウォームアップゲームを経ての対戦になることだ。このアドバンテージについては、奇しくも21日に取材したスコットランドの英雄、SHグレイグ・レイドローが、こう指摘している。
「すこし日本にアドバンテージがあるとすれば、ライオンズは最初の1、2試合は調整不足もあり、あまりいいゲームができないことが多い。そこはチャンスだろう」
ライオンズOBのレイドローが語るように、過去の戦いぶりをみても、遠征序盤に苦戦を強いられ、地域代表クラスのチームに敗れることも少なくない。2017年に行われた前回のニュージーランド(NZ)遠征でも、初戦のNZバーバリアンズ戦を13-7で逃げ切ったが、2戦目でブルーズに16-22、4戦目にハイランダーズに23-22で競り負けている。
1つの国の代表チームなら1年で数週間は一緒にプレーするが、ライオンズにはそのような下地はなく、プレースタイルも価値観も異なる選手が集められたチームだ。そのため、試合を重ねることで、コンビネーション、戦術理解を高め、同時にメンバーセレクションも積み上げていくのが特徴だ。ライオンズでのプレーも経験するレイドローのコメントは傾聴に値する。
その一方で、日本代表にも不安要素は少なくない。ライオンズのメンバーは、すでに昨秋から各国代表で真剣勝負を繰り広げているが、日本は2019年W杯以降テストマッチどころか合宿も行っていない。組織プレーの精度を高めた戦い方が強みの日本にとって、チームを作り上げる“時間”は他国以上に重要かつ不可欠な要素になるため、今回の大分合宿からの準備で、どこまで完成度を高めることが出来るかが勝負になる。
もちろん、ジョセフHCは、大分での活動再開以前から、打倒ライオンズに着手している。
「もうすでにリーダーのメンバーたちとは(ズームを使うなどして)話をし始めている。いちばんキーになるのは、ここの段階からしっかりチームが繋がっていくことだと話をした。2019年のW杯で何が良かったのかを考えてみると、チームとして団結していった、タイトだった、しっかりチームとしてコネクトしていけたこと。それを、今からしっかりと始めなければいけない。合宿前から先手を取って、スタートしていこうと話した。それをすることによって選手全員が合流したときには、しっかりしたいい関係が出来、チームとしても前に進めてけるはずだ」
日本代表の戦術の中枢であるトニー・ブラウン・アシスタントコーチが、自らがHCを務めるハイランダーズの指揮を早々に手渡し、日本代表コーチとしての仕事に着手しているのは朗報だ。限られた時間で、どこまで戦術を深め、完成度を高めることができるかが、ライオンズ戦を歴史的な一戦にするか、単なる相手チームのウォームアップ試合にするかの分水嶺になる。
先にも書いたように、2023年へ向けたレースでは日本代表は大きく出遅れている。そして、アウエーでのアイルランド戦が決まった時点で、7月までに国内でテストマッチを行う可能性はほぼ消滅した。今シーズンの代表戦はテスト2試合、ノンテスト1試合しか行われない。このような状況の中で、新生ジェイミージャパンがライオンズを苦しめ、倒すようなことがあれば、エディー・ジョーンズHCの下での2013年のウェールズ戦の金星、ジョセフ体制での同代表を敵地で追い詰めた16年の大接戦(30-33)や17年のフランスとの引き分けと並び、それ以上に、2023年のフランスへ向けてチームに自信と勢いをつける起爆剤になるはずだ。(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)
吉田 宏
サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。W杯は1999、2003、07、11、15年と5大会連続で取材。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。