連載「Sports From USA」―今回は「高校運動部コーチの評価と報酬」「THE ANSWER」がお届けする、在米…

連載「Sports From USA」―今回は「高校運動部コーチの評価と報酬」

「THE ANSWER」がお届けする、在米スポーツジャーナリスト・谷口輝世子氏の連載「Sports From USA」。米国ならではのスポーツ文化を紹介し、日本のスポーツの未来を考える上で新たな視点を探る。今回は「高校運動部コーチの評価と報酬」。

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 米国の大学スポーツに詳しい人ならば、アメリカンフットボール部などの人気種目のヘッドコーチの給与は高額であり、さらに勝利という結果を出さなければクビになる、ということを聞いたことがあるだろう。

 今年の大学アメリカンフットボール部のコーチで、最も高額な年俸を得ているのは、アラバマ大学のニック・セイバン監督で、その金額は910万ドル(約9億9158万円)である。その一方では大学のアメリカンフットボール部のコーチのうち「責任を負う立場にあるのは誰か」というランキングもあり、次にクビになるのはどの大学のどの監督かを予想するメディアもあるほどだ。高額な収入は結果が出なければクビになることの裏返しである。

 米国では、一般的な高校運動部のコーチも、勝利という結果を出さなければクビになるのだろうか。高校運動部の指導者も、毎年、学校の管理職側から勤務内容を評価されている。その勤務評価の内容から、学校は指導者の何を評価しているのかを見てみよう。付け加えておくと、一般的な高校運動部の指導者は、教員が中心であり、不足しているポジションを外部指導者が担っている。

 運動部のコーチをする教員や外部指導者の勤務評価の内容は、各学校で少しずつ違う。一例としてホームページで公開されている米メリーランド州モンゴメリー学区の勤務評価内容を取り上げたい。以下に書き記す項目を3段階で評価している。

モンゴメリー学区の勤務評価内容、6つの実例

【基準1】チームと運動部員である生徒へのかかわり

1 校内の生徒に運動部に参加することを奨励し、リクルートする。

2 運動部員である生徒の学業成績をモニターし、必要な介入を支援する。

3 運動部員の生徒のポジティブな人格、市民としての育成を促進する。

4 運動部員の生徒に対する明確な期待と基準を定めて実行する。

5 健康と安全のガイドラインと手順に関する包括的な知識を用いる。

【基準2】コーチはスポーツに精通しており、生徒に効果的な指導を提供する。

1 MCPS(モンゴメリー公立学区)、MPSSAA(メリーランド州公立中学校・高校運動協会)、NFHS(全米高校協会)のガイドラインと規則を遵守する。

2 スキルや戦略を含むそのスポーツの総合的な知識を示す。

3 運動部員である生徒と保護者に、健康と安全に関して期待されることと手順を確実に伝える。

4 プログラム(活動カリキュラム)にテクノロジーとイノベーションを取り入れる。 

5 大学からのリクルートに関して、運動部員の生徒を適切に支援し、指導する。

【基準3】コーチは自分のプログラムを効果的に管理し、関係者と良好な関係を築く。

1 運動部員である生徒、保護者、関係者と効果的かつ適切なコミュニケーションをとる。

2 学校管理者と協力して、チームのイベントや活動を計画する。

3 学校や地域社会でスポーツやプログラム(活動カリキュラム)を振興する。

4 チームの活動の前、やっているとき、活動後の適切な見守りを提供する。

5 練習やコンテスト用の施設の準備をする。

【基準4】コーチは、運動部員である生徒やチームの進歩を継続的に評価し、結果を分析し、個人やチームの成果を向上させるために適切な対応をする。

1 チームのセレクション、1軍選手に与えるバーシティー・レター、各賞の基準を確率し、書面で伝達する。

2 シーズンを通して、練習やコンテスト(試合)の計画、準備、評価を行う。

3 チームと運動部員個人の高いレベルでの成功を促進するための方法を発展させる。

4 チームや運動部員個人の成績、記録を適切に保持する。

5 チームや運動部員個人に対し、シーズン前、シーズン後、シーズン中に評価とフィードバックを与える。

【基準5】コーチは、継続的な改善と成長に取り組んでいる。

1 高いレベルのスポーツマンシップを推進し、模範となり、MCPS(モンゴメリー学区)スポーツマンシップ賞プログラムをサポートする。

2 健康と安全に関する有効な認証を持っている。

3 専門的な開発活動に参加する。(クリニック、会議、認証コースなど)

4 MCPS(モンゴメリー学区)や地元の学校のプレシーズンやポストシーズンのコーチミーティングに参加する。

5 備品、ユニフォーム、消耗品の正確な取得と在庫の確認をする。

【基準6】コーチは高いレベルのプロ意識を持つ。

1 自分の運動部だけでなく、すべての運動部活動全体の成功に関心を示す。

2 常に適切な身だしなみ、振る舞い、行動によって敬意を示す。

3 ヘッドコーチ、アシスタントコーチ、ボランティアコーチと適切に交流する。

4 締め切り前に、必要な書類やフォームがすべて正確に記入されていることを確認する。

5 活動資金を集めるためにMCPS(モンゴメリー学区)と地元の学校のすべての手順とガイドラインを実行する。

この学区の高校アメフト部は8~11月の活動で指導399時間、報酬65万円

 ここまで読んでいただければ、勝敗では評価されていないことがわかるだろう。

 競技についての知識や技術指導、試合における采配も求められているが、どちらかといえば、学校や州の運動協会が定めた規則に従って安全に運動部を運営しているか、保護者や他の教員、関係者と良好な関係を作っているかに重きが置かれているといえる。運動部員の生徒が成長できるように、評価とフィードバックすることが求められ、学業面にも目を配る。また、運動部員が大学運動部からリクルートされたときにはサポートをするなどである。

 運動部のコーチは、これらを記した勤務評価書を事前に受け取っており、何が評価されるのかを理解してから指導をスタートさせる。最終的に評価をするのは校長だが、各中学校や高校には運動部全体を見守る管理職がおり、この管理職が練習や試合でのコーチの仕事ぶりを見ているようだ。

 これらの勤務評価は指導報酬には反映されていない。

 ちなみに、この学区の高校アメリカンフットボール部は8月から11月まで活動し、指導者に求められる労働時間はシーズン前の準備も含めて総計399時間と職務記述書に示されている。指導に要する総計399時間の報酬は、5985ドル(約65万2156円)で、時間給に換算すれば15ドル(約1634円)。他の運動部も指導内容とそれに要する時間が職務記述書に書かれていて、時間あたり約15ドルが支払われている。

 時給15ドルは高いのか、安いのか。メリーランド州が定めている最低時給は11.75ドル(約1280円)である。州の最低賃金よりも、やや高い金額といえるが、上記に挙げた運動部指導に求められる勤務評価項目から鑑みれば、職務内容のわりには、報酬が抑えられているといえるのではないか。日本で運動部活動を担う教員は、平日の活動の指導には手当が支払われていないので、それと比べれば、時給15ドルの支払いはとても恵まれている。しかし、米国の運動部活動も、平日の夕方の数時間、1年のうち3~4か月の仕事であり、お金のために選ぶ仕事としては条件が良いとはいえず、米国でも、運動部活動の指導は、教員や外部指導者の意欲に支えられていると、筆者は感じている。(谷口 輝世子 / Kiyoko Taniguchi)

谷口 輝世子
 デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情を深く取材。著書『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)『子どもがひとりで遊べない国、アメリカ』(生活書院)。分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店)。