八村 塁が所属するワシントン・ウィザーズが、2021NBAプレーオフ進出を決めた。これにより、日本人プレーヤーが初め…

八村 塁が所属するワシントン・ウィザーズが、2021NBAプレーオフ進出を決めた。これにより、日本人プレーヤーが初めてNBAプレーオフの舞台に足跡を印、同時に当事者としてNBAチャンピオンを語れる日がやって来た。
今シーズンの八村は昨シーズンに比べ、数字的に飛躍的な上昇を見せたというわけではないのだが、57試合に出場して平均13.8得点(昨シーズンは13.5)、フィールドゴール成功率47.8%(同46.6%)、3P成功率32.8%(同28.7%)、フリースロー成功率77.0%(S同82.9%)、4.6リバウンド(同4.5)といった具合に、新型コロナウイルスのパンデミック下の難しいシーズンにおいて堅実な貢献をもたらした。スコット・ブルックスHCは八村の安定感を高く評価し、ラッセル・ウエストブルック、ブラッドリー・ビールら先輩たちとの連係を高めている様子に大いに信頼を寄せている。
ウィザーズの試合日の会見では、ブルックスHCと彼ら二人のスーパースターをはじめとしたチームメイトから八村への称賛がたびたび聞かれるが、それは身内からだけのことではない。例えば、プレーイン2試合目で対戦したインディアナ・ペイサーズのネイト・ビョークレンHCは、レギュラーシーズン中の対戦時に八村を「非常に頭の良いプレーヤー」と言い表した。ミルウォーキー・バックスのマイク・ブーデンホルザーHCは、八村をウエストブルックとビールに次ぐ「もう一人の男」と称し、そのオフェンスを抑えることを「挑戦だ」と語った。アトランタ・ホークスのパワーフォワード、ジョン・コリンズは「ルイは多才だ」と表現した。ウエスタンカンファレンスでプレーオフに進出するダラス・マーベリックスのリック・カーライルHCは、八村がウィザーズの「ビッグスリーの一角にまでのしあがってきた」とその成長ぶりを高く評価した。
八村自身は、コート上の様子からも会見で聞かれる言葉からも、自分が対戦相手やマッチアップ相手に負けることを意識の片隅にすら置いていないような姿勢を感じさせる。どこで誰に対していても自分自身を見失わずに対応しているような、威風堂々とした雰囲気だ。ペイサーズとの試合を終えた後の会見でも、「最初から全然負ける気がしませんでした」と仕事に集中できている様子だった。23歳の若さにして、内面的に非常に研ぎ澄まされた成熟度を感じさせる。

コート上でもコート外でも貫録を感じさせる八村(写真をクリックするとウィザーズ日本語ツイッターのインタビュー投稿が見られます)
オフコートの雰囲気も大いに力強さを感じさせるが、試合中には世界最高峰のNBAでも驚異的と言える部類の、とんでもなく驚くべきプレーをたびたび披露した。開幕以前のプレシーズンゲームでブルックリン・ネッツと対戦した際には、ケビン・デュラントと初めてマッチアップし、オフェンスリバウンドを競い合って勝った上にプットバックダンクを豪快にぶち込んだ。3月27日(アメリカ時間)の対デトロイト・ピストンズ戦では、アイザイア・スチュアートの頭上から雄たけびを上げながら叩き込んだダンクが話題になった。4月28日の対ロサンゼルス・レイカーズ戦では、相手の主軸の一人であるアンソニー・デイビスを空中で跳ね飛ばしてダンクに持ち込んだ。
プレーインのペイサーズ戦では、ドリブルから片手でボールをわしづかみにしてドライブし、レイアップで得点したシーンがあったが、このようなプレーは今日までの日本で教えることができるものではなかっただろう。あのスピードでドリブルから、右手だけでどうしてあんなプレーができるんだ…!? という驚きは、ファンとしてNBAを見ていた学生時代に感じた素直な驚きそのものだ。
こうしたド派手なプレーだけでなく、ペイントエリアの、特にハイポスト近辺から放つフェイドアウェイ・ジャンバーの安定感はすでに定評を得ているようだ。また、ディフェンスでは相手のオールスタークラスにマッチアップすることも多いが、相手のドライブに対し立ち塞がり、しばしば得点機を潰している。例として挙げたこれらのプレーはどれも、八村がNBAでもトップレベルということを示している。
流れの中で八村が繰り出すこうしたとんでもなく驚くべきプレーに、本人が至ってクールな様子であることが、正直なところうまく飲み込めない。ディフェンスで大物とのマッチアップを任されることについても、「僕としてプレッシャーとは考えていません。それが仕事」と落ち着き払っている。NBAの世界は普通――そう捉えることができる、これまでに見たことがないキャラクターの登場は、「NBAに日本人は入れない」という見方に慣れきって生きてきた自分のような者にはあまりにも斬新だ。
NBAで、八村は自分にふさわしい場所を見つけたように思う。逆にNBAも、その発展に必要かつふさわしいタレントを八村の中に見いだした。「Game recognizes game.(本物は本物を見分けるものだ)」というフレーズが両者のありようを言い当てているのではないだろうか。
そう思えば、八村とウィザーズがどこまでいってもおかしくない。ウィザーズはあと16回勝てばチャンピオンシップを手にすることができるのであり、第8シードだからと言って「それはない」と思う必要はまったくない。
ロックアウトで短縮・凝縮日程により進行した1998-99シーズン、ニューヨーク・ニックスが27勝23敗の成績で第8シードとしてプレーオフに滑り込み、そのままイースタンカンファレンスを制してファイナルに進出した例がある。マイアミ・ヒートとのファーストラウンド最終第5戦(当時は3戦先勝)では、今でもファンの間で語り草のアラン・ヒューストンによる残り0.8秒の逆転フローターが決まり、ニックスが勝ち上がった。ウィザーズはファーストラウンドの相手となるフィラデルフィア・セブンティシクサーズに今シーズン3連敗で勝ち星がないが、このシリーズでそんな役者になりそうなビールという点取り屋がいる。
1999年のカンファレンスセミファイナルで、ニックスはアトランタ・ホークスをスウィープしてカンファレンスファイナルに進んだ。今年、もし仮にウィザーズがシクサーズを倒して勝ち上がった場合にカンファレンスセミファイナルで対戦する可能性があるのはニックスとホークスだが、ウィザーズはこの2チームにも3連敗で一度も勝っていない。しかし、レギュラーシーズン最後の20試合の成績を見ると、現時点ではウィザーズがこの2チームに引けを取る存在ではないと思える。ウィザーズはイーストのプレーオフ進出8チーム中、この期間においてニックスに次ぐ2位の勝率なのだ。
イーストのプレーオフチームのレギュラーシーズン終盤20試合の成績
※行頭の数字はシード順
1. フィラデルフィア・セブンティシクサーズ 14勝6敗
2. ブルックリン・ネッツ 12勝8敗
3. ミルウォーキー・バックス 14勝6敗
4. ニューヨーク・ニックス 16勝4敗
5. アトランタ・ホークス 14勝6敗
6. マイアミ・ヒート 13勝7敗
7. ボストン・セルティックス 10勝10敗(プレーインを含めると11勝10敗)
8. ワシントン・ウィザーズ 15勝5敗(プレーインを含めると16勝6敗)
同じ相手との連戦となるプレーオフでは、レギュラーシーズンの成績がそのままあてにできるわけではないという点でも、ウィザーズの可能性は面白みを増す。最初の2ラウンドを勝ち上がったら、後は何が起こってもおかしくない状況になるだろう。
八村 塁所属のウィザーズ、チャンピオンシップまであと16勝。ハラハラドキドキの、楽しいプレーオフになりそうだ。
取材・文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)