八村 塁が日本人として初めての、NBAにおけるポストシーズン公式戦に臨んでいる。ファウルトラブルに苦しんだ初戦の対ボス…

 

 八村 塁が日本人として初めての、NBAにおけるポストシーズン公式戦に臨んでいる。ファウルトラブルに苦しんだ初戦の対ボストン・セルティックス戦は出場時間が16分37秒にとどまり、8得点、2リバウンド、1ブロックと、シーズン中の平均的なパフォーマンスに到達したとは言えない成績だったが、日本時間5月21日には行われるインディアナ・ペイサーズとのプレーイン2試合目で復調を期す。

 セルティックスとの試合では、マッチアップしたオールスターのジェイソン・テイタムに50得点と貫録の活躍を見せつけられ、結果としてチームも100-118と悔しい敗北を食らった。ただ、コート上での八村は随所に自らの強みを生かした好プレーを見せていた。フィールドゴールは5本中4本成功させての8得点であり、ファウルトラブルさえなければもっとこの数字は伸びていたことだろう。また、ウィザーズがチームとしてテイタムに50得点を許した背景にも、八村がいなかった影響があったはずだ。
 プレーイン・トーナメントの最初の4試合では、いずれもホームチームが勝利した。ロサンゼルス・レイカーズ対ゴールデンステイト・ウォリアーズ戦を除いては、どの試合もホームチームが第1Qに比較的大きなリードを築き、快勝を手にしている。

 

インディアナ・ペイサーズ144-117シャーロット・ホーネッツ
第1Q ペイサーズ40-24ホーネッツ
ボストン・セルティックス118-100ワシントン・ウィザーズ
第1Q セルティックス27-20ウィザーズ
メンフィス・グリズリーズ100-96サンアントニオ・スパーズ
第1Q グリズリーズ38-19スパーズ
ロサンゼルス・レイカーズ103-100ゴールデンステイト・ウォリアーズ
第1Q ウォリアーズ28-22レイカーズ

 

【関連記事】 「やるなぁ、ルイ」 – マッチアップ相手が語る八村 塁(ウィザーズ)の実力

 

 これを見ると、どうしてもカギが第1Qの入り方と、ホームコートアドバンテージへの対応にあると言いたくなる。プレーインはNBAの歴史で初めて行われる形式で、特にカンファレンス9位と10位の対戦は負ければシーズン終了の一発勝負。7位と8位の対戦には、8位のウィザーズがそうであるように負けても9位対10位の勝者(今回はペイサーズ)と戦う2度目のチャンスがあるものの、この状況がアウェイのチームに大きなプレッシャーをもたらしたのではないかと思ってしまう。
 レイカーズとの試合を前にしたウォリアーズのスティーブ・カーHCの会見が始まった段階で、すでにグリズリーズとスパーズの第1Qが終わっていてその傾向が明らかだったので、この点について質問してみた。カーHCは「この2日間、今日に向けてできることはすべてやってきました。どうやって攻めるべきか、ディフェンス面でどう対応するかもわかっています。ゲームプランを持ってきているので、すぐさまそれを遂行しなければいけませんね。それ以外に多くはないです」とチームとしての準備に自信を見せていた。結果としても非常に良い入り方をし、第3Qにディフェンスのプレッシャーを高めたレイカーズにターンオーバーを誘発させられるまでは主導権を握った。終盤レブロン・ジェームスがスティン・カリー越しに決めたディープスリーが成功していなかったらどうなったかはわからない。こうした接戦に持ち込めた大きな要因は、試合にうまく入っていけたことだっただろう。ウォリアーズは過去6年間で5度NBAファイナルに進出し、3度チャンピオンになったチームだ。それだけに、個別のレイカーズというチームに対する対応も、大一番でのプレッシャーへの対処についてもしっかり準備ができていた。

 

カーHC率いるウォリアーズは最終的にレイカーズに敗れたが、試合への入り方には成功していた(写真をクリックするとインタビュー映像を見られます)

 

【関連記事】 堅調な八村 塁(ウィザーズ)、プレーインT出場権争いで高まる存在感 - ネイト・ビョークレンHC(ペイサーズ)も警戒

 その日の夜、今度はウィザーズのスコット・ブルックスHCが練習前の会見に応じてくれていたので、同じような質問をさせてもらった。ブルックスHCはプレーインについて、「間違いなくバブルでやるのともレギュラーシーズンでやるのとも違います。今夜のように9位と10位の試合ならチャンスは1度だけ。7位と8位には2度試すことができます。我々はプレーオフ進出をかけて2度試せる位置に自分たちを持ってくることができました。こういった状況にどんな対応をするかはプレーヤーによりさまざまです。ウチのプレーヤーたちにとって重すぎるものではなかったと思っていますよ。(Yeah, I mean there’s definitely a different than the bubble and the regular season. It’s you know the 9th and 10th positions like tonight’s game you get one chance at it. If you’re 7th and 8th you get two cracks at it. We’ve put ourselves in a position to get two cracks at getting invited or to be in the playoffs so…. Every player handles those moments differently. I don’t think it was any of our players the moment was too big.)」と話し、問題点はプレッシャーとは別のところにあると捉えているようだった。
 しかし、「ファウルトラブルに陥ったことで、なかなかリズムを崩して流れに乗り損ねたと思います。プレーヤーを入れ替え、ベンチを投入して対応しようと試みましたが、効き目があまり出せませんでした(I thought they got in some foul trouble. It kind of you know messed their rhythm and their flow of the game up for them. And I tried to adjust it and tried to counter that with some of the rotations and some of the guys I put them back in the game with. But didn’t really…, didn’t really work.)」というコメントを聞くと、やはり何らかメンタルな影響があったことは間違いなさそうだ。

 

ブルックスHCは、ペイサーズのとの試合でウィザーズが本来のプレーを見せることに自信を見せた(写真をクリックするとインタビュー映像を見られます)

 

【関連記事】 八村 塁(ウィザーズ)が発散するNBAスワッガー


 八村にその影響があったかどうか、彼自身に感触を聞く機会は得られていないが、試合を見る側としては特異なプレッシャーをどう受け止めているかは気になるところだ。ただ、ブルックスHCの会話の様子は明るく、チームとしての準備は納得のいく状態であろうことが推察される。ペイサーズとの試合がワシントンD.Cで行われることも、その中で一つのポイントであるだろう。「このままでは終わりませんよ。ファウルトラブルになったプレーヤーたちも、明日はよいプレーを見せてくれるでしょう。以前にも話しましたが、この機会はありがたいと思っているんです。D.C.の夜は盛り上がるに違いありません。ファンも楽しみにしているし、プレーヤーたちもしっかり準備していますから。私は彼らを指揮してフィラデルフィアに飛び、イースタンカンファレンスで一番の成績を収めたチームとやり合うのが今から楽しみです(But they’ll bounce back. The guys that you know got in foul trouble, they’ll bounce back and play better tomorrow night. But, like I said, we’re looking forward to the opportunity. It’s going to be a great night in D.C. Our fans are ready. Our players will be ready and I’m excited to coach the group and put us in a position to go to Philadelphia and play against the best team you know in the east record-wise.)」とブルックスHCは話した。キャピタルワン・アリーナで地元ファンとともに勝利を手にする瞬間は、やはり思い描きやすいに違いない。

 

【関連記事】 ロロ、レン、ギャフォード(ウィザーズ)の活躍はNBAの「ビッグマン新時代到来」の兆し?


 ただし、相手のペイサーズにはホームコートアドバンテージがどれだけ有効かわからない。ウィザーズは今シーズン、ペイサーズと3試合を戦い3連勝しているので分はよいが、ペイサーズはアウェイで21勝15敗という好成績を残している。これはイースタンカンファレンスでトップの成績なのだ。

 ウィザーズとの決戦当日朝、シュートアラウンド後の会見に姿を見せたペイサーズのTJ・マッコネルは、アウェイでの戦いについて以下のように話し自信を見せた。「ロードでプレーするのはとても難しくて、プレーオフでは特にそうなります。ただ、うれしいことに僕らはロードで強いチームの一つだと思うので、張り切って一丸で臨むつもりですよ。遠征に出れば、自分とチームメイト、コーチングスタッフとその場にいる仲間たちだけしか味方がいないような感覚になるものです。でも僕はこのグループが一緒でうれしいですから、一丸となって戦ってきます(Playing on the road is very difficult especially in the playoffs. But gladly, we are…, I think we are one of the best teams on the road. You know we're just gonna come out and come together. It's one of those things when we're on the road that, you feel like everyone is against you. So, all you have is your teammates and coaching staff and people that are there with you. So, I'm happy I got this group here and we're gonna come together and go to…, you know, go to battle.)」

 

マッコネルはアウェイでの戦いの難しさを感じている様子ではあったが、表情も明るく大一番を楽しみにしている様子だった(写真をクリックするとインタビュー映像を見られます)

 

【関連記事】 八村 塁(ウィザーズ)は「心地よく自信をもってシュートしている」 - ウィザーズ対ホーネッツ戦試合前会見でジェームズ・ボレゴHCが高評価


 ペイサーズとの試合で八村は、ゴンザガ大学の先輩にあたるドマンタス・サボニスらビッグマンと対峙することになるのだろうが、ファウルトラブルを避けてコートに長く立つことがやはり一番のカギだろう。八村はウインターカップ決勝でも、NCAAファイナルフォーの舞台でも、プレッシャーに動じず自分らしさを出して戦ってきており、大舞台に強いことを証明してきている。
 ここを乗り切れば正式にプレーオフ。そこから先は、「チャンピオンシップ獲得まで16勝」というものすごい形容をすることができる。八村がその中で重要な役割を担っていることは、1970年代からNBAの情報に親しんできた身としては信じられない出来事だ。日本人がNBAでチャンピオンを語れる日が来るのか…。
 ウィザーズがファイナルに進出したシーズンは過去2回あり、50年前の1971年にはオスカー・ロバートソンとカリーム・アブドゥル=ジャバーを核としたミルウォーキー・バックスに敗れたが、1978年にはみごとリーグ制覇を達成している。ブルックスHCは、ラッセル・ウエストブルックとともに2012年にNBAファイナルに進出した。2勝4敗でレブロン・ジェームスを擁したマイアミ・ヒートに敗れたが、9年前、当時でも驚異的と感じられたウエストブルックの存在感が今、決して破られることはないだろうと言われた前述ロバートソンのトリプルダブル最多記録を破るという、これも信じられないレベルに達している。

 レギュラーシーズン最後の20試合は15勝5敗。一時はカンファレンス最下位だったということが信じられないような勢いを持ってプレーインに突入した。第8シードからnbaファイナルに進出した例も、「ミラクル・ニックス」と呼ばれた1998-99シーズンのニューヨーク・ニックスがすでに作っている。あのシーズンも、ロックアウトで日程が短縮された特異なシーズンだった。

 …などといろいろと思い出してみると、今年のウィザーズに非常に大きなチャンスがあることを感じる。ただし、あと一つ勝てば、の話だ。
 八村の爆発にはそんな意味があるように思う。日本人プレーヤーとして最高峰NBAの頂点を語れる立場まであと1勝。ホームで迎えるこの決戦は見逃せない。

 

【関連記事】 八村 塁(ウィザーズ)、「コンニチワ!!」ダンクでピストンズを粉砕


取材・文/柴田 健(月バス.com)
(月刊バスケットボール)