格闘ゲーム界のスター選手、ときど 東大卒という経歴を持ちながら、当時発展途上だったeスポーツの世界に飛び込み、対戦型格闘ゲームのコミュニティの活性化に尽力してきたプロゲーマー、ときど。 かつては『ストリートファイターII』などの大ヒットによ…
格闘ゲーム界のスター選手、ときど
東大卒という経歴を持ちながら、当時発展途上だったeスポーツの世界に飛び込み、対戦型格闘ゲームのコミュニティの活性化に尽力してきたプロゲーマー、ときど。
かつては『ストリートファイターII』などの大ヒットにより、対戦型格闘ゲームブームが訪れるほどの盛り上がりを見せていたが、ときどがプロとして業界に飛び込んだ2010年当時は「プレー人口が減りつつあった」と言う。それでも業界を盛り上げるけん引役になるとともに、好成績を残し続け、今なおトップランナーとして走り続けている。
これまでさまざまなタイトルで活躍し、現在は『ストリートファイターⅤ チャンピオンエディション』1本に絞ってトッププレーヤーとして君臨するときどは、プロゲーマー、そしてeスポーツ業界をどのように捉えているのだろうか。先駆者だからこそ見える景色に迫った。
写真右がときど。使用キャラは豪鬼 (ごうき)
――長いプロ活動のなかで、ときど選手が自身をトッププレーヤーだと意識したのはいつごろのことでしょうか。
3年ほど前からです。それまではさまざまなゲームタイトルの大会に出ていて、特定のタイトル1本に絞って極めていたわけではありませんでした。どのゲームにおいてもパターン化された攻略法で勝つことしか考えていなくて、本当の意味でゲームに向き合えていませんでした。
――何がきっかけでゲームに対する姿勢が変わったのですか。
eスポーツに対する世間の関心が高まるにつれて、競技シーンのレベルも上がってきたことがきっかけです。今まで勝てていた大会でも、勝てないようになってしまったんです。このままではいけないと思って練習するタイトルを「ストリートファイター」1本に絞りました。
しかし今度は、今まで「ストリートファイター」だけを真剣に取り組んできた選手たちにまったく勝てなかった。効率重視の戦い方ばかりしていては、本当のトップには通用しない。それを知ってから、ゲームに対する向き合い方を根本から変えました。パターン化された攻略法ではなくて、プレーヤー同士の駆け引きを意識するようになりました。
――駆け引きの中で、相手プレーヤーの戦い方がわかる、ということでしょうか。
はい。トッププレーヤー同士の戦いになると、その選手の背景が見えてくるんです。高いレベルで勝った負けたを経験していくうちに、その選手の生い立ちや経験などのバックボーンがプレーに反映することがわかってきて、それで対応の仕方を考えたりしています。
――ちなみに、ゲームに対する意識が変わってから、ゲーム以外でも変化はありましたか。
自分がプロだという意識が芽生えてからは、メディア露出に備えて見た目を気にするようになりました。それから、筋トレや空手などの運動もするようになりました。身体を動かすとメンタルも鍛えられるので、ゲーム内で精神的にプレッシャーがかかる場面でも、普段どおりの力を発揮できるようになりました。
――3年前といえば、eスポーツがブームとして取りざたされ始めた時期と重なります。「eスポーツブーム」については、どう感じていますか。
格闘ゲームはもともとゲームセンターを軸に発展したので、以前はどうしてもアンダーグラウンドな印象があって、人口も徐々に減りつつありました。
eスポーツブームが来て、トッププレーヤーがプロゲーマーを生業にできるようになった(※)ので、非常にありがたいと感じています。ブームと同時に競技としてのレベルは格段に上がり、結果を残すのは難しくなりましたが、そのおかげで自分も成長できたと思っています。
※年俸は公表されていないが、チーム所属のトッププレーヤーの年俸は「1000万円まではいかないが、平均的なサラリーマンよりも高い」(国内eスポーツチーム関係者)という。個人選手はスポンサー料、ストリーミングの広告費、大会の賞金などで活動している場合が多い。
――反対に、注目されるようになって息苦しさを感じることはありますか。
もちろんプロは常に結果を求められるので大変だと思うこともありますが、息苦しさを感じることはありません。
eスポーツ業界は勝ち負けの世界であると同時に、プレーヤーが自分の個性を発揮できる業界なんです。プロゲーマーはみんな個性が強くて、ゲームを通していろいろな形で自己表現をして、ファンを獲得しています。そういう意味では、eスポーツは受け皿の広い業界だと思います。
――eスポーツでの活動を通して、社会に対してどんなことを伝えていきたいですか。
真面目に取り組んでいれば、ゲームは決して悪いことではないということを伝えたいですね。
自分は東京大学を卒業していますが、学生時代に勉強を頑張れたのもゲームのおかげなんです。海外のプレーヤーとコミュニケーションをとるために英語を勉強したり、攻略のためにデータ分析をする過程で数字に強くなったりと、ゲームのおかげでゲーム以外の部分でも成長できました。
自分がゲームに打ち込むことで、どんないい影響があったのかを、身をもって見せていきたいと思います。
――自分が成長することで、eスポーツの価値を上げていくということでしょうか。
そうですね。eスポーツは選手を含め、業界に関わる全員が意識して盛り上げていかないと簡単になくなってしまう世界だと思っています。自分がゲームのすばらしさを伝えることでもっと多くの人が楽しむようになってほしいですし、若手プロゲーマーたちが安心して取り組める環境を作っていきたいと思っています。
――いずれは、選手活動ではなく啓蒙活動に軸を置くことも考えていますか。
いや、生涯現役で活動していきたいです。今でこそ自分はトッププレーヤーの一人として数えられるまでになりましたが、本当の意味で「最強のプレーヤー」になったかというと、そうではありません。まだ伸びしろがあると思うので、自分の将来が楽しみですね。
フィジカルスポーツの世界でも、サッカーの三浦知良選手やテニスのロジャー・フェデラー選手のように長く現役でプレーされている方がいらっしゃいますから、そういった方々を見習って選手活動を続けていきたいです。
――最後に、プロとして10年間活動されているときど選手にとっての「プロゲーマーの理想像」を教えてください。
プロゲーマーを名乗る者であれば、みんなゲームに対して真剣に向き合っているし、結果を求めて練習しています。しかしその中からさらに突出した存在になるには、ゲームを通して自分の信念や生き様を表現することが重要だと思っています。
そのためにはゲーム以外のところでいろいろな経験を積むことが大切です。たとえば自分は少し前に書籍を出版しました。その際、自分の今までの人生をすべて言語化しなければならなくて、これがとても大変でした。しかし「言語化」はゲームにおいても重要なことで、攻略情報を言語化することでゲームに対する理解度も格段に上がりました。
このように、真剣に突き詰めていけば、必ず自分の人生経験がプレー内容に反映されるようになるんです。自分なりの信念を持ってゲームをしている人を見ていると、応援したくなりますし、自分も選手としてそうあるべきだと思っています。
【PROFILE】
ときど
1985年沖縄県生まれ。麻布中学校・高等学校を経て、東京大学に入学。さらに同大学院に進学するもプロゲーマーになるため中退。2010年、日本で2人目のプロゲーマーとなる。17年に世界最大級の格闘ゲーム大会Evolution(EVO)で優勝し、18年にはEVOで準優勝するなど、数々の実績を残す格闘ゲーム界のトップランナー。書籍『世界一のプロゲーマーがやっている 努力2.0』、『東大卒プロゲーマー』刊行
Twitter>>