悪天候によって36ホール競技となった、ほけんの窓口レディース(福岡県・福岡カンツリー倶楽部)を制したのは、またしても黄金世代のひとり、大里桃子だった。パッティングが復調し、2度目のツアー優勝を飾った大里桃子 2週前のパナソニックオープンレ…

 悪天候によって36ホール競技となった、ほけんの窓口レディース(福岡県・福岡カンツリー倶楽部)を制したのは、またしても黄金世代のひとり、大里桃子だった。



パッティングが復調し、2度目のツアー優勝を飾った大里桃子

 2週前のパナソニックオープンレディースでは、上田桃子とのプレーオフに敗れた。先週のワールドレディスチャンピオンシップ サロンパスカップでも、西村優菜に競り負けて2位に終わった。

 とりわけ、同じ熊本県出身の上田に"直接対決"で敗れたことが悔しく、「発奮材料になった」と大里は振り返る。

「(敗れた2試合は)最後の詰めが甘かった。3度目の正直ができました(笑)。めっちゃ、うれしい。初めての優勝は勢いだけで勝てた。"奇跡"のイメージ。今回は苦労した分、実力が備わって、勝ち取った優勝だと思う。苦しんだ時期を思い出すと、涙が出て......」

 30cmのパットが入らない――。

 2018年のプロテストに合格し、それから23日後のCAT Ladiesでツアー初優勝(黄金世代としては当時、4人目の優勝だった)を遂げるという華々しい船出を飾った大里だったが、そのシーズンの最終戦となるLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップで、高麗グリーンの対応に苦しみ、わずか30cmのパットを外したことがあった。

「悪いパットじゃなかったんですけど、『あれ!?』となっちゃって。気持ちの悪いままシーズンが終わり、次の年の(開幕戦である)ダイキンオーキッドレディスのプロアマで、1mのパットを(アマチュアの)みなさんが外すなか、私も外してしまって......それが、本格的な始まりです」

 以降、普通なら外すことなど考えられないショートパットを簡単に外してしまう、いわゆるイップスに陥った。

 翌2019シーズンは、シード権確保へ苦しい戦いが続いた。シーズン序盤は6戦連続予選落ちという屈辱も味わった。以降、パッティングに苦しむ大里を横目に、親友の渋野日向子ら同じ1998年度生まれの黄金世代の仲間たち、さらには年下の選手たちも次々にブレイクしていった。

「私たち(黄金世代)よりも、とにかく年下の子たちの勢いがすごい。彼女たちはショットメーカーで、『どうしたら、こんなに曲がらないんだろう』と思って見ていました」

 コロナ禍で2年におよぶ2020-2021シーズンも、苦しい状況に大きな変化はなかった。24試合に出場し、予選落ちは9回もある。年明けも2大会連続で最終日を迎えることができなかった。

「オフシーズンに、これまで自己流でやっていたスイングを改造しようと、いろいろな方に相談するようになった。私の身長(171cm)ならもっと飛ぶはずなのに、インパクトで詰まるような感覚があって。その点に関して、いいスイングを教えてもらいました。

(2019年に比べれば)賞金ランキング的には余裕はありましたが、今年序盤の予選落ちもあって、だんだんとランキングが落ちていた。早く解決策を、と考えているなかで、改善ができた」

 解決策の最たるものは、やはりパターだ。順手、逆手、クローの三種の握りを局面によって使い分け、不安を抱えながらも乗り切っていく。そして、1カ月前のヤマハレディースオープン葛城で、パターのシャフトを33インチから36インチに長くした。

「パターを長くしたことで、(技術的に変化したというより)気持ちがリセットできた。あんまり深く考えないことにしました。

 今も、1mが必ず入るとは思っていないですし、入れば『入った!』という感じ。以前は、どうやったら入れることができるのか、ばかり考えていた。気持ちの余裕が、好成績につながっていたと思います」

 36ホール競技となったほけんの窓口レディースの優勝の行方は、通算9アンダーで並んだささきしょうことのプレーオフにまでもつれた。18番のパー5で行なわれたプレーオフで、ピンチを迎えたのは2ホール目だ。

 先にささきがタップインバーディーを決め、大里が外せば手が届きかけた優勝がまたもこぼれ落ちる。そんなパッティングだった。

「これまで悩んできたことを、最大限生かしたいなという場面でした。外れることは考えず、『ここに打つ!』という強い気持ちで打てた。今週は、今まで悩んできたパターに救われたホールもたくさんあった。成長を実感できました」

「入ったらラッキー」くらいの余裕で回った本戦と矛盾するように、勝負のかかった最終局面では「決める」と腹をくくって決めきった。

 ゴルファーにとっては致命的なイップスの不安が、少しだけ、解消に向かうきっかけとなった2勝目ではなかったか。