サッカースターの技術・戦術解剖第58回 ダニ・オルモ<スペインの伝統を継ぐ新世代> 2008年のユーロ(ヨーロッパ選手権…

サッカースターの技術・戦術解剖
第58回 ダニ・オルモ

<スペインの伝統を継ぐ新世代>

 2008年のユーロ(ヨーロッパ選手権)で優勝、10年南アフリカワールドカップで初優勝、12年のユーロを連覇。スペインが世界を席巻した時期から、およそ10年が経過しようとしている。



6月から始まるユーロでの活躍が期待される、スペインのダニ・オルモ

 シャビ・エルナンデスもアンドレス・イニエスタもすでに代表チームにはいない。栄光を経験したメンバーで残っているのは、セルヒオ・ラモス(レアル・マドリード)とセルヒオ・ブスケツ(バルセロナ)ぐらいだ。

 しかしスペインは相変わらず強く、かつてほど圧倒的ではないが世界の強豪の一角を占めている。そんな新たな世代を代表する一人が、ダニ・オルモ(ライプツィヒ)だ。

 チームの基本的なプレースタイルは変わっていない。縦横にパスをつなぎ、素早いコンビネーションや個人技を駆使した、技巧的な攻撃が看板だ。3トップを形成するのはアルバロ・モラタ(ユベントス)、フェラン・トーレス(マンチェスター・シティ)、そして23歳のオルモである。

 左サイドが主戦場だが、右も中央もできる。左ウイングだが、ハーフスペース(サイドと中央の間)でのプレーも得意な、現代的なウイングプレーヤーだ。

 現在のウイングはタッチライン際での古典的なウイングプレーだけでなく、1つ中へ入って中間ポジションでのプレーも求められている。ウイングとインサイドハーフの両方の資質が要求されているわけだが、オルモはそれにぴったりの選手と言える。

 ファーストタッチがピタリと収まる。止まっていても、動いていても、足のすぐ近くにボールを置ける。さらに俊敏で、相手の動きをよく見て逆を取るのがうまい。ボールタッチ技術の高さと自信があるので、ボールから自由な選手と言える。

 ボールをコントロールし、プレスに来る相手をいなしながら周囲の状況を把握できるので、複数の相手の間でのプレーにそつがない。

 シャビ、イニエスタなどスペイン人MFに見られる資質だが、オルモはそれをきちんと受け継いでいるようだ。それもそのはずで、「ラ・マシア」の呼び名で有名なバルセロナのカンテラ(育成組織)で育っている。同じ街のエスパニョールからバルセロナのカンテラに移ったのが9歳。16歳まで伝統の寮(ラ・マシア)で生活した。

 ところが、そこからは独自の道を歩んでいる。ラ・マシアを出たオルモは、クロアチアへ向かっているのだ。

<クロアチアで開花、ライプツィヒで活躍>

 将来を嘱望されていたダニ・オルモはバルサBでプレーするはずだった。しかし、クロアチアのディナモ・ザグレブと契約し、ザグレブのBチームでのプレーを選択した。

 1年後にはトップチームに昇格し、2年後には4年契約を結んでいる。その時は左または右のウイングとしてポジションを確保していた。オルモは「選択は正しかったと思う」と振り返っている。

 バルセロナの育成組織は多くの俊英を生み出してきた。ただ、そこからトップチームのレギュラーに定着するのは途方もなく難しい。とくに攻撃的なポジションはリオネル・メッシを筆頭に名声を確立したスタープレーヤーで占められており、MFもシャビやイニエスタがいれば出番はなかった。

 カンテラが生み出した最大の才能と言われたチアゴ・アルカンタラ(リバプール)でさえも、ポジションをつかみきれなかったのだ。結局、バルサはカンテラで育てた才能の大半を手放している。

 クロアチアリーグのMVPにもなったオルモには、クロアチア代表入りの可能性もあった。本人もそれを考えたこともあったようだが、U-17からプレーしていたスペイン代表でのプレーをつづけ、U-21ヨーロッパ選手権で優勝。ドイツとの決勝ではゴールを決めて、マン・オブ・ザ・マッチに選出された。この19年にはスペイン代表にも招集される。

 20年1月、ブンデスリーガのライプツィヒに移籍。ユリアン・ナーゲルスマン監督の下、順調に成長を遂げエース格として活躍している。そして今やスペイン代表でもレギュラーポジションをつかみ、攻撃の中心となった。

<プレーの強度を出せる存在>

 ルイス・エンリケ監督が率いるスペイン代表は好調だ。22年ワールドカップ予選の3試合を2勝1分でグループトップ。20年10月のウクライナ戦に0-1で敗れた以後の6試合は無敗で、ドイツに対する6-0の大勝も含まれている。

 もっとも、スペインがメジャー大会前の予選で好調なのはいつものことで、かつては「無敵艦隊」と呼ばれながら本番ではさっぱりという時代もあった。現在のスペインもユーロやワールドカップを制したピーク時と比べると、スケールは小さくなった感は否めない。

 バルセロナとレアル・マドリードで占められていた代表選手も、所属クラブがバラけている。モラタはユベントス、フェラン・トーレスやロドリはマンチェスター・シティ、ダニ・オルモはライプツィヒと国外でプレーしている選手も増えた。

 かつてスペインだけが持っていたパスワークは、ポジショナルプレー(位置取りで相手の優位に立つ)という概念とともに世界的に普及していった。オルモが所属するライプツィヒもその影響を強く受けている。バルサやレアルでプレーしていなくても、スペインふうの作法を現在の選手は身に着けているわけだ。

 程度の差はあれスペイン化された対戦国を相手に、本家のスペインが優位性を持つにはプラスアルファが必要だろう。つまるところサッカーの優位性は「精度」と「強度」であり、スペインの精度はすでに高水準にある。あとはいかに強度を示せるか。

 そうなると、強度を追求してきたライプツィヒでプレーしているオルモは、それを体現できる選手だと思う。

 ボールがない時のランニングは、スペインというよりドイツ的だ。ヒザ下のコンパクトな振りで体重を乗せたシュートや、球際の強さも典型的なスペイン人とは少し違う強みだろう。

 ダニ・オルモは、まだ小粒感の抜けない現在のスペインが、スケールアップするためのカギを握る選手の一人になる。