バレーボール2部リーグ(V.LEAGUE DIVISION2-以下V2リーグ)に、ホームゲーム1階席のチケットが15分で売り切れるチームがある。 埼玉県川越市を拠点とする埼玉アザレアだ。 地域密着型のクラブチーム…
バレーボール2部リーグ(V.LEAGUE DIVISION2-以下V2リーグ)に、ホームゲーム1階席のチケットが15分で売り切れるチームがある。
埼玉県川越市を拠点とする埼玉アザレアだ。
地域密着型のクラブチームとして2010年3月に発足後、2014/15シーズンにV・チャレンジリーグ。
2020-21シーズンはV.LEAGUE DIVISION2(V2リーグ)に所属、V1昇格への道も視野に据えるところまで来た。
チームの躍進を支え、多くのファンを魅了するその「チーム力」。
選手たち一人ひとりが果たしている役割を取り上げた前編に続き、後半は選手の能力を引き出し、チームを盛り上げる陰の立役者事務局の役割についてお届けする。
ファンとともに作り上げたファンファーストの新戦略~埼玉アザレアからつなぐ人 の輪~
埼玉アザレアのホームゲームはおもてなしサービス満載で人気。しかもホームのファンのみならずアウェーのファンからも人気なのだ。
その人気の秘密は、ファンに向き合い自分たちでできることをコツコツ積み上げ、おもてなしを常に更新してきた事務局の努力の賜物にある。
以下の3つの施策例を紹介する。
ー安全安心な観戦情報
ー迫力のある観戦を実現
ーファンとのふれあい
ー安全安心な観戦情報
ホームゲームが開催される時は、観戦客へ向けた試合会場の情報を配信している。
ホームゲームと言っても試合会場は毎回同じではない。ホーム体育館がないチームだからこそ生まれた心遣いのコミュニケーションなのだ。
情報には、体育館の駐車場・お手洗い・喫煙所情報から、座席の材質や背もたれの有無まで。近くのコンビニまでの距離も教えてくれる。
また、選手による最寄り駅から体育館までの案内ムービーもあったりと、ファンにはたまらない。
これらの情報はSNSで配信され誰でも閲覧できる。そのためアウェーの観戦客もチェック可能だ。
アウェーチーム宛にも差し入れボックスの用意があるなどのありがたい情報もある。
ー迫力のある観戦を実現
試合をなるべく近くで、男子バレーボールの高さとスピードを味わってもらいたい。
この思いからホームゲームでは、1階席にコートが見えやすい角度に配慮された特別席を設置して いる。
白熱の試合を目の当たりにできる、コートに一番近い席だ。
一般席より臨場感を持って観戦できるうえに、プレゼントや選手のサイン、選手と一緒に写真撮影できる特権など嬉しいサプライズがついてくる人気NO.1の席だ。
ーファンとのふれあい
動画配信では選手の試合以外の顔が好評だ。
試合前に行われる恒例の一発芸がある。
この一発芸は選手たちが笑いでリラックスし、いいムード で試合に向かえるようにとはじまったもの。
ウォーミングアップ中にネタを思いついた人から急には じまる。ネタでラグビーのハカをやった時は、会場全体が盛り上がり一体感が生まれた。
チームワークの良さがここでもよくわかる。
メンバーの緊張感をポジティブに持っていける埼玉アザレアならではのゲン担ぎが、今ではファンのお楽しみのひとつとなっている。
試合後は全面全方位に座っている観戦客から見えるようにエンドライン側、サイドライン側、相手コート側に向けても挨拶、応援に来てくれたファンへの感謝の気持ちの表れだ。
2月withコロナで待望の観客を入れてのホームゲームは、1階席チケットは15分で完売。
このようなおもてなしが評判になり、ホームゲーム人気はさらに拍車がかかっている。
ファンへ鮮度の高い情報を届け続け、ファンから共感やリアルの声を受け取ることで繋がる人の輪。
好評だった情報を他チームに公開することは、
「バレーボール界全体がもっと盛り上がって欲し い」「全ての人にバレーボールを楽しんでもらいたい」
というアザレア事務局の願いが込められてい る。
ファンファースト誕生の秘話
このファンファースト戦略が生まれるまでには面白いストーリーがある。
約5年前のこと。 試合を観戦したいと会場に来てくれたバレーボールファンに、チケットを販売することができなかったのだ。
当時チケットは一般の人に売るというよりは、仲間や知人の間で配るものだった。
今まで当日券を求 めて応援に来てくれる人がいなかったから、もちろん用意もしていなかった。
Vリーグの試合とは言え、チームに繋がりのない人は試合のチケットを入手することができない状態 だった。
「席が空いていても入場できないのか?」
「試合を見ることも叶わないのか?」
というファンの声を初めて知るきっかけとなった。
”ファン交流”など頭になかった事務局に、この声を聞いてから少しずつ変化が生まれていったのだ。
地域密着型のクラブチームは、自分たちが強くなればいいだけではない。
目指していることは、子どもたちや地域の人の絆を大切にすること、ファンを作りバレーボールの素晴らしさを広めることである。
例えば小学生から大人まで、幅広い世代を対象にしたバレーボール教室。
埼玉アザレアの部長の萩原秀雄氏によるスポーツ振興を図る講演会への協賛、さらにはバレーボール フェスティバルの開催などなど。
NPO法人という特色を活かしながら、協賛企業との交流会など幅広く地域に根差した活動を行なっていた。
埼玉アザレアのファン交流イベントは、年々異彩を放つ体験型イベントへと生まれ変わっていった。
・実際のコートに選手と共に入ってもらい、男子のネットの高さを感じてもらう。
・試合や練習で使っているボールに触れてもらい、大きさや重さを感じてもらう。
・審判台の上に立ってもらい、リクエスト選手にスパイクを目の前で打ってもらい、スパイクのパワーを感じてもらう。
・コートの中に設置された透明の板の前にレシーブするつもりで立ってもらい、その板に向かって選手がスパイクすることでスピードとパワーを感じてもらう。
・実際にサーブレシーブするポジションでコートに入ってもらい、選手が打つサーブをレシーブすることができたらプレゼントがもらえる。
これらは一部だが、バレーボール自体を知ってもらいたい、面白いと思ってもらいたい、と考えられた斬新な企画が盛り沢山だった。
ファンにとっても特別に選手に近づくことが出来る願ってもない一日な上に、バレーボール体験を通して選手ふれあえることを大興奮で楽しんでくれたという。選手にとっても心に残るファンとの交流の機会であり、今ではなくてはならないイベントにまで成長していた。
コロナ禍によりリアルにイベントを開催できない今は、オンラインで動画配信をしてファンを楽しませている。
・選手個人のパーソナルな部分。
・メンバーのポジションを変えて練習試合の様子。
・控え選手のネタをクローズアップ。
・選手の埼玉おすすめスポット情報。
・各選手のTシャツのサイズや好きなお菓子など。(差し入れに困らないようにと配慮)
選手との地道な交流の積み重ねを経て応援してくれるファンが年々確実に増加している。
”地域の元気の源”になるために
埼玉県バレーボール界の重鎮と言われている埼玉アザレアの部長萩原氏は、埼玉県バレーボール強豪校で教諭として指導、日本バレーボール協会の強化委員長、北京オリンピック日本選手団長などを歴任してきた名伯楽だ。
協会在任中にはバレーボールの競技人口が急激に減ってきている現状を知り焦りを感じていた。
2009年地元埼玉県に戻った萩原氏は教員仲間でチームを結成、バレーボールの普及を目指した。
これが埼玉アザレア創設の背景だ。
萩原氏は、目標に向かって生きることの素晴らしさ、心の持ち方や考え方を、バレーボールの指導を通じて自身が見本となり選手たちに伝えてきた。定年を迎えてひと休みも頭をよぎったが、やはり今まで教えてきた子どもたちに嘘をつかないと心に誓い、死ぬまで目標に向かって生きていくことを 身をもって表現すると決めた。このことに生きがいを感じているという。
「上のリーグに挑戦し、クラブチームでもここまでやれることを実現したい。そして埼玉アザレアから、埼玉バレーボール界にうねりをうませたい。」
これが萩原氏の今の熱い目標だ。
チャレンジの時がきた
埼玉アザレアの2020-21の成績は3位。
後半戦は8連勝、あと一歩のところまで勝ち進んだ。
来季2021-2022シーズンはV2リーグで優勝を目指し、V1リーグに挑戦するのが大きな目標。
上のリーグに挑戦するということは、V2リーグ2位以内の成績でS1ライセンスを保有が条件。
昇格することを前提にライセンスを申請してシーズンを挑むのだ。
トップリーグで戦い続けるには、選手の体格の違いもあり選手補強や、練習環境整備など考えると運用資金も今までと違う。
チームが強くなっていく喜びを実感しながら、挑戦する覚悟を決めなければならない。という萩原氏。
クラブチームは自分たちで利益を上げていくか、スポンサー企業やサポーターを集めていかなければ存続できない。
いまチームの経営が盤石でないことの不安のなかで、V1リーグへの昇格を目指して戦い続けている。
そのためこの過程を一緒に体感しながら埼玉アザレアの成長を応援したいサポーターを緊急募集している。
埼玉アザレアはクラブチームの弱点を乗り越えながら、少しずつ人の輪を広げつつある。その歩み が続いていくことを願い、埼玉県のバレーボールを「アザレア」の花のように華やかに咲き誇る、まちを元気づけるチーム「埼玉アザレア」の活動に期待したい。