「四六時中、海にいないと落ち着かない」。そう話すのは、2017年のプロツアーでルーキー・オブ・ザ・イヤー、そしてグランドチャンピオンを獲得したロングボーダー浜瀬 海(23)だ。彼が得意とするのは、ボード上で踊るようにステップし、ノーズをキメるクラシックなサーフィン。そのスタイルをつくったのは、過去の挫折と、波乗りに向ける異常なまでの愛だった。
波の曲線に恋したサーフジャンキー
2017 JPSA LONGBOADGRANDCHAMPION 浜瀬海ライディング(撮影:HAJIME AOKI)ーサーフィンデビューはいつですか?
浜瀬:5歳です。物心ついたときには馬入川(相模川の河口付近)の潮だまりで、小ぶりの波に乗って遊んでいました。
ーご両親もサーフィンを?
浜瀬:はい。両親も平塚出身のサーファーです。最初はプッシュしてもらってましたけど、すぐに自分一人で乗れるようになりました。初めてカスタムメイドのボードを作ったのが、僕が小学3年生のころだったかな。
生粋のサーフジャンキー、浜瀬海(ハマセカイ)
ー浜瀬さんがサーフィンにのめり込んだきっかけは?
浜瀬:波の曲線を見ちゃったんですよ。ラインというか。
ー詳しく教えてください。
浜瀬:あれは茅ヶ崎のパークポイントで入っていたときのことなんですけど、後ろからプッシュされて波に乗ったら、ボトムからトップ(フェイス)に曲線が浮き上がっていて。それを目にして、幼心にときめいちゃったんです。
ーそれは衝撃ですね。それがいまに至るまで続いているということですか。
浜瀬:そうですね。陸では見たことのない、あの独特なカーヴにすっかりほれ込んでしまってから、僕のサーフジャンキー人生がはじまりました。
平塚の「生コンポイント」が彼のホーム
ー具体的に、自分のどういうところが“ジャンキー”だと思いますか。
浜瀬:たとえば、海のない場所に一泊二日で出かけるとするじゃないですか。ホテルに入ったら、ずっと部屋でシャワーを浴びています。
ー想像以上でした。
浜瀬:これを話すとだいたい同じような反応をされます(笑)。でも本当なんですよ。できるだけ水に身体を浸しておきたいし、潮風にあたっていないと落ち着かない。魚みたいな人間なんです。
得意技のハングヒール
ーそこまで“ジャンキー”だと、陸での日常生活が大変そうですが。
浜瀬:そう感じることもあります。とくに恋愛は大変ですね。サーフィンに理解のある人じゃないと付き合うのは難しいです。デートで遊園地に行ったことなんて、数えるくらいしかないし。
ーもしかして、サーフィンが原因でパートナーと別れたこともありますか?
浜瀬:ありますよ。「サーフィンとワタシ、どっちが好きなの」と相手から迫られたこともあります。
ー差し支えなければ、そのときの答えも教えてください。
浜瀬:「もちろんサーフィン……だけど、変わらないくらい好きだよ!」と返しました。でも目は泳いでましたね。たぶん。
ーサーフジャンキーの宿命かもしれませんね。
浜瀬:自分にも他人にも、ウソがつけないんです。
ーそこまで夢中になれるサーフィンは、自分にとってどのような存在ですか。
浜瀬:んー。なんでしょう。歯を磨くことと同じ……かな。人生において、切っても切れない存在であることは確かです。
ーサーフジャンキーらしい答えですね。
浜瀬:食欲・睡眠欲・性欲を上回りますね。波のコンディションがいいときは一日中、食事や休憩を忘れて海に入っていることがありますから。人はサーフィンで何を満たそうとしているんでしょうね。不思議でしょうがないです。
「ロングはおじさんが乗るもの」じゃない
ーJPSA(日本プロサーフィン連盟)ロングボード部門において、2017年・2018年ツアーの年間覇者となった浜瀬さんですが、成功の秘訣を一言で表すと?
浜瀬:難しい質問ですね。でもあえて言うなら「やりたいことだけ楽しむこと」じゃないかな。
ーでは、やりたくないことはやらない方がいいと。
浜瀬:あくまで理想です。現実問題、どのスポーツにもつらみや苦しみといったスパイスは絶対にあると思いますから。僕の場合は、ショートボードで味わった挫折でした。
ーそれはどういったものですか?
浜瀬:試合で勝てなかったんです。同世代のサーファーがチャンピオンを獲るなかで、僕は行けてもクオーターファイナルやセミファイナルまで。アマチュア大会で連戦連勝して高くなっていた僕の鼻は、プロになって簡単にへし折られました。
ースポーツ選手にとってはつらいですね。
浜瀬:そうですね。そんな時期にJPSAロングボードの試合を観る機会があって、そのときに「ロングボードでプロを目指してみたい」って思ったんです。
ーそれはどうしてですか?
浜瀬:僕は初め、ロングボードを遊びでやっていたんですが、クラシックなスタイルの海外ロングボーダーに密かに憧れてもいたんです。心機一転、この機会に流れを変えたかったのかもしれません。
ー経験があったとはいえ、よく転向に踏み切りましたね。周りの反応はどうでしたか?
浜瀬:賛否ありましたね。「ロングはおじさんになってから手を出せばいいんじゃない?」と言われたこともあります。悔しかったですね。
ーそんなことが。
浜瀬:「それなら、その意識から変えてやろう」と決意を固めました。昔から負けず嫌いなので(笑)
ー結果、ロングボードへ転向後にルーキー・オブ・ザ・イヤー、そしてグランドチャンピオンを獲得されたわけですが、そのときの気持ちを教えてください。
浜瀬:最高でしたね。あの「やってやったぞ」という高揚感は忘れられません。ショートボードで試合に出ていたころとは、まったく違う自分になれた気がしました。
ー結果につながった要因はなんだと考えていますか?
浜瀬:ロングの試合では顔見知りがいなかったので、逆に思い切りよくできました。それがよかったのかもしれません。ショートボード時代は周りに同世代のサーファーがたくさんいたので、変に力が入っていましたね。
ー浜瀬さんが考える、ロングボードの魅力とはなんですか?
浜瀬:「運んでくれる」ことです。僕は流れに身を任せるだけ。試合に勝てなくて焦っていた僕を、ロングボードが変えてくれました。
ー視点を変えて、異なる世界に目を向けることも時には必要なのかもしれませんね。
浜瀬:はい。あきらめずに粘ることも大事かもしれないけど、他に「楽しい」とか「やれそう」と感じたことは、周りの目を気にせずにやってみること。それからいろいろな意見を聞いて、最後は自分で決断すること。それが道を切りひらくことにつながるかもしれません。
波に乗り、人を育てる
愛用のボードと
ー2019年の大会を振り返って、いかがでしたか。
浜瀬:JPSAの成績はあまり振るいませんでした。WSL(世界プロサーフィン連盟)ツアーの方に力を入れていたからです。このご時世で大会自体がなくなることもありましたし。
ー大会が次々と開催延期・中止となっているいま、何をして過ごしていますか。
浜瀬:中級者向けのサーフィンスクールをしています。これがけっこう人気で、ありがたいことに8月まで予約でいっぱいなんです。毎朝4時起きでこなしていますが、生徒さんの上達を間近で見られるのでやりがいがありますよ。
ーサーフィンのお弟子さんもいるとか。
浜瀬:はい。高井汰朗(タカイタロウ)と悠二朗(ユウジロウ)の兄弟です。この子らのポテンシャルはハンパじゃないです。今後のサーフシーンを引っ張っていく2人ですよ。
Taro & Yujiro surfing at Kai Hamase Surfing school.ーそれは楽しみです。
浜瀬:スクールとも関連していることですが、いまは人を育てることにハマっています。高井兄弟にも時々、僕のボードを乗らせて、いろんな板に対する感性を育ててもらっているんです。
ー素晴らしい取り組みだと思います。
浜瀬:ありがとうございます。「波乗りってショートボードだけじゃないんだ」ってことが分かれば、後のサーフィンに生きてきますから。僕が通ってきた道でもあるので、そこはしっかり伝えていきたいですね。
ー最後に、浜瀬さん自身は今後どのようなサーフィンをしてきたいですか。
浜瀬:試合に強いだけのサーフィンではつまらないので、見る人を全員、魅了するような波乗りをしたいですね。ボード上でダンスするようなライディングスタイルに注目してほしいです。
コンペティションに関しては、今後は海外を視野に入れて活躍をしていきたいと考えています。ケリー・スレーターのウェーブプールの世界大会に出てみたいですね。
あとはコンペに限らず、フリーサーフィンの要素も取り入れていきたいなと。目下の目標は、雑誌『BLUE』にフッテージを残すことです。
ーサーフジャンキーは変わらずに貫いていきますか。
浜瀬:もちろんです。これからも、やりたいようにやっていきます!
浜瀬海プロフィール
1997年5月28日生まれの23歳。神奈川県平塚市出身のプロサーファー。5歳からサーフィンをはじめ、2009年に出場した「THE SURFSKATERS」で最年少チャンピオンとなる。2012年、14歳にしてショートボードでプロデビュー。国内外のツアー(JPSA / WQS / ISA)に出場を続け、2017年にプロロングボーダーに転向。初年度でJPSAグランドチャンピオン、そしてルーキー・オブ・ザ・イヤーに輝いた。スポンサーはBillabong、Kanaloajapan、rockdance、sidecanyon、YNSF、vonzipper、destination、freestretching、haircalifornia、futures。
【競技実績】
2017年「JPSAロングボード部門グランドチャンピオン」
「JPSAロングボード部門ルーキー・オブ・ザ・イヤー」
2018年「JPSAロングボード部門グランドチャンピオン」
「WSL Men’s Longboard Tour LT #2 Volte Wetsuits Men’s Pro」5位
「WSL Rincon 50 Surf Fest」3位
2019年「2019 ASIAN SURFING CHAMPIONSHIPS」2位
「2019 BIARRITZ FRANCE ISA WORLD LONGBOARD CHAMPIONSHIP」17位
2020年「Noosa Festival of Surfing」Mens Open,Mens Logger Proともに3位
interview&edit by 佐藤稜馬
photo by 村田一樹
film by HAJIME AOKI
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