織田記念国際、女子100m障害・寺田明日香が1年7か月ぶり日本記録更新 東京五輪まで約3か月となった中、陸上・織田記念国際が29日にエディオンスタジアム広島で行われ、女子100メートル障害決勝では寺田明日香(ジャパンクリエイト)が12秒96…

織田記念国際、女子100m障害・寺田明日香が1年7か月ぶり日本記録更新

 東京五輪まで約3か月となった中、陸上・織田記念国際が29日にエディオンスタジアム広島で行われ、女子100メートル障害決勝では寺田明日香(ジャパンクリエイト)が12秒96(追い風1.6メートル)の日本記録で優勝した。直後に6歳の愛娘とフィールドで記念撮影。約束を叶えた幸せなひと時は、母として娘の成長を感じる瞬間となった。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

 最初は悔しさがこみ上げた。寺田は1位でフィニッシュ。表示された速報値は自己ベストタイの12秒97だった。「もうちょっとだったのに」。そうつぶやいた。1年7か月、あと一歩で破れない0秒01の壁。しかし、ゴールから27秒後だ。確定タイムは12秒96に修正。気づいた瞬間に「ぎゃ~」と叫び、手を広げて跳びはねた。

 感情を爆発させたのもつかの間、両手をおでこにかざし、スタンドに目をやる。一人娘の果緒ちゃんを探した。「おいで! 早くおいで!」。タイムが表示された電光掲示板との記念撮影。夫・峻一さんとフィールドに降りた長女はママの胸に飛び込んだ。抱っこされたまま一生懸命に涙を拭う。母娘で喜びをかみ締めながら会話した。

寺田「なんで泣いてるの?」

果緒ちゃん「嬉しくて……」

寺田「ありがとう」

果緒ちゃん「よかった……」

 フラッシュを浴びながら2人でピースサインを決めた。一緒に潤んでいたママの瞳。娘に力をもらって壁を破ったレース後、心境を明かした。

「嬉しいって言われた時に私もウルっと来ました。嬉しくて泣くというのが彼女の中にある。しかも、自分が走って記録を出したことに対して嬉しくて泣くというのは、母親として彼女の大きな成長を感じます。それを私ができたことも嬉しかった」

「大好きだよ。頑張ってね」、レース前にもらった手紙を財布に入れて出陣

 勝利後に一緒に写真を撮るのは、母娘の約束だった。寺田が19年9月に日本記録を出した際は一人で撮影。娘に「ずるい!」と言われた。海外選手が優勝した時に家族でウィニングランをしているシーンを見たことがあったから。「私もやりたいんだけど」と嫉妬されたため、ママは「私が勝ってタイムを出した時、かつ彼女がそばにいる時はやってあげたいなと思っていた。叶えてあげられて良かった」と強さを見せて喜ばせた。

 この日の朝は「1番がいいよー!」と激励されて別れた。しかも、「だいすきだよ。がんばってね」と書かれた手紙付き。つたない字の宝物を財布にしまい、雨の降る予選を走り抜けた。広島市内は気温15度前後と肌寒く、地面の濡れた悪条件。しかし、決勝が近づくにつれて空が晴れ、女子の15分前に行われた男子110メートル障害決勝で金井大旺(ミズノ)が13秒16(追い風1.7メートル)の日本記録を叩き出して優勝した。

「寒くて予選では体が本当に動かない感じだったので、決勝でもその印象が残っていた。やっぱり寒いなと思ったけど、金井君が日本記録で走ってかなり早かったので『えっ、走れるんだ!? 日本記録出るんだ』と思って切り替えられました」

 実は「ママアスリート」と呼ばれることをあまり好んではいない。それでも、あえて自ら使っているのは、子どもを産んでも再び競技ができる環境をつくり、後輩たちの可能性を広げるため。次の照準は五輪参加標準記録の12秒84。会見では「ママかっこよかったって言ってほしいです」と娘に会うことを心待ちにした。五輪出場を掴みとり、夢舞台でもう一度、愛娘を喜ばせる。(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)