2・3月は名古屋の守護神・ランゲラックの2つの異なるセーブを選出 元日本代表GK楢﨑正剛氏が、Jリーグを全…

2・3月は名古屋の守護神・ランゲラックの2つの異なるセーブを選出

 元日本代表GK楢﨑正剛氏が、Jリーグを全試合配信している「DAZN」のパートナーメディアで構成される「DAZN Jリーグ推進委員会」の企画で、2、3月に行われたJ1リーグから「月間ベストセーブ」として名古屋グランパスの異なる試合からGKランゲラックが見せた2シーンを選んだ。

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「優劣をつけるのではなく比較することで名古屋の守備が堅い理由、失点が少ない理由がよく分かります」と楢﨑氏は頷く。好調・名古屋を下支えするGKランゲラックの基本技術の高さをGKならでは目線で説いた。

 1つ目のシーンは、第5節名古屋対横浜FC(3-0)の前半44分。横浜FCはハーフウェーライン手前でパスをもらったMF瀬古樹が巧みなボールタッチでプレスをかわし、そのままドリブルでスピードアップしながら名古屋陣内へ。そして瀬古からの縦パスをバイタルエリアでボールを受けたFWクレーベが前を向くターンから間髪入れずミドルシュートを放つ。これに対してランゲラックは手元でショートバウンドする難しいボールをしっかりとキャッチして横浜FCの攻撃を終わらせた。

「横浜FCが中盤でスピードアップしてきて、名古屋の守備陣としては下がりながら守らなければいけませんでした。この時点でGKとしてはシュートまで来る確率が高いという想像ができます。さらにシューターである(横浜FCの)クレーベ選手は外国籍選手なので、あの位置は十分にシュートレンジのはず。ランゲラック選手にしてみれば、シュートが飛んでくる覚悟はできていたと想像できます」

 さまざまな経験則に基づいてシュートを予測していたことはもちろんだが、シュートを弾くのではなくキャッチしたことで横浜FCに二次攻撃のチャンスを与えなかった。クレーベのシュートに合わせてFWジャーメイン良が詰めており、もしボールをファンブルしていたら失点するリスクもあった。

「この類のシュートをキャッチしきれず、こぼれ球にもう一度アクションするGKもいますが、ランゲラック選手は綺麗にキャッチしました。シュートの回転やスピード感、タイミング、それから気象条件を含めたピッチコンディションなどをトータルで考え、咄嗟の判断でキャッチするのか弾くのかを決めないといけません。体が勝手に判断する部分も大きくて、それは経験値やトレーニングによって作り上げていくしかない。ランゲラック選手はそのレベルがとても高くて、このシーンは頭の中で考えていることと体が動くことがしっかりと一致していた結果の隠れたファインプレーだったと思います」

“823分”というJ1連続無失点記録を打ち立てた名古屋の守備力を解説

 この場面とは対照的に、シュートに対してキャッチングではなく、弾くという判断でゴールを守ったのが、第6節鹿島アントラーズ対名古屋の51分の場面だ。鹿島のMFレオ・シルバからのワンタッチパスを受けたMF松村優太は、ペナルティエリアに侵入しながら右足を振り抜く。地を這うような軌道の鋭いシュートに対し、ランゲラックは体を倒しながらボールをしっかりと弾いた。

「これはディフレクティングという技術です。ボールをキャッチング、つまり掴めない、掴まないという判断になった時、GKとしては強く大きく弾きたいわけです。でも力が入りすぎて失敗する場面や、大きく腕を振ってしまってしっかり弾けない場面も出てきます。GK練習の多くは掴むことにフォーカスしがちですが、実際の試合ではこうやって弾くというプレーもとても重要。相手にCKを与えることなく攻撃を終わらせた技術と判断は目立たないかもしれませんがとてもハイレベルなものです」

 加えて楢﨑氏が注目したのはディフレクトしたボールの場所と質だった。ゴールマウスに立つGKの視点に立つと、松村のシュートはファーサイドへ飛んできている。ランゲラックは右側に体を倒して右手でセーブ。弾かれたボールはそのまま両軍どちらの選手もいないスペースへ流れていった。

「同じディフレクトでも技術レベルもさまざまです。この試合の日は雨が降っていてピッチコンディションがスリッピーだったので、さらに高度な技術を要求されるシチュエーションだったと言えるでしょう。ランゲラック選手はおそらく手のひらに当てて弾いているのですが、あれだけ大きく弾ける日本人はあまり見たことがありません。手首の強さも感じますし、意図して弾くことができている好例だと思います」

 2つのシーンを比較してランゲラックのポテンシャルの高さを解説し、さらに「GKが持つ能力はチーム全体の守り方や判断基準にも影響を与えます」と楢﨑氏。名古屋は開幕戦のアビスパ福岡戦で失点したものの、以降は第10節サガン鳥栖戦で失点するまで823分というJ1連続無失点記録を打ち立てた守備にも言及した。

「名古屋の試合を見ているとランゲラック選手が間一髪のところで防ぐシーンもありますが、それ以上に相手に二次攻撃、三次攻撃の機会を与えない能力がほとんど失点していない大きな要因だと思います。守備陣としてはある程度の位置からのシュートであれば打たせても問題ないという安心感があるでしょうし、最も危険なゴール前のスペースを消すという優先順位も明確になります。エリア外からのシュートを確実にさばいてくれるランゲラック選手の存在によって失点が減るのは必然に近づきます」

 安定した守備をベースとした戦いぶりで上位をキープしている名古屋。そんな“リーグ最強の盾”の最後の砦として、ランゲラックが立ちはだかっている。難しいシュート処理を難なくこなすオーストラリア人GKの存在抜きに名古屋の好調さは語れない。

■楢﨑正剛(ならざき・せいごう)

 1976年4月15日生まれ、奈良県出身。1995年に奈良育英高校から横浜フリューゲルスに加入。ルーキーながら正GKの座を射止めると、翌年にJリーグベストイレブンに初選出された。98年シーズン限りでの横浜フリューゲルス消滅が決まった後、99年に名古屋グランパスエイトへ移籍。10年には、初のJ1リーグ優勝を経験し、GK初のMVPに輝いた。日本代表としても活躍し、国際大会では2000年のシドニー五輪(OA枠)、02年日韓W杯などに出場。19年1月に現役引退を発表し、現在は名古屋の「クラブスペシャルフェロー」に加え、「アカデミーダイレクター補佐」および「アカデミーGKコーチ」を兼任。21年からはJFAコーチとしても活躍している。(藤井雅彦 / Masahiko Fujii)