SP、フリーともに1位の得点を残したアンナ・シェルバコワ「私たち(ロシア勢)が、4回転時代をスタートさせました」 世界フィギュアスケート国別対抗戦、圧倒的な強さを誇った17歳の世界女王、アンナ・シェルバコワは毅然として言った。「今や4回転を…



SP、フリーともに1位の得点を残したアンナ・シェルバコワ

「私たち(ロシア勢)が、4回転時代をスタートさせました」

 世界フィギュアスケート国別対抗戦、圧倒的な強さを誇った17歳の世界女王、アンナ・シェルバコワは毅然として言った。

「今や4回転を跳ぶ選手がいるのは普通のことです。私自身も4回転を跳びますし、特段のことではありません。私たちはその時代に慣れている。(4回転時代へ)流れは変わっていくでしょう」

 女子フィギュアスケート界をけん引するエースは、言葉に自負心をにじませた。

「世界選手権では(ロシア・フィギュアスケート連盟代表として出場したため)ロシア国旗の掲揚が許されませんでした。(今大会の優勝で)国旗が掲揚され、国歌を歌えたことは光栄で」

 そう振り返ったエリザベータ・トゥクタミシェワも、大会では異質の強さを見せた。滑るほどに精度を増す。達人の域というのか。

 3月の世界選手権、トゥクタミシェワはシェルバコワに次ぐ2位になった。2015年の世界選手権で優勝して以来、6年ぶりの表彰台。次々に若手が台頭し、不振に苦しんだ年月を考えれば、喜びはひとしおだっただろう。

 新旧の世界女王を中心にしたロシア。国別対抗戦の優勝は必然だったかもしれない----。

「心身が解き放たれるような演技ができました」

 ショートプログラム(SP)後のリモート会見。トゥクタミシェワは落ち着いた様子で語った。ビリー・アイリッシュ&カリードが歌い上げる『Lovely』。孤独感の中で苦しむ切なさを、黒いシースルーの衣装でしめやかに美しく表現した。


エリザベータ・トゥクタミシェワは背中に

「愛」の文字が入った衣装で臨んだ

 トリプルアクセル、腕上げの3回転ルッツ+3回転トーループ、そして3回転フリップと完璧に成功。最後は観客の熱気に感極まっていた。

「まぶしく輝かしい演技になるように」

 彼女はその目標を達成したと言える。

 フリーでも、トゥクタミシェワは世界観を見せた。背中に日本語で「愛」とデザインした衣装。「日本の匂いが好き」という親日家である。村上春樹の作品世界を演出した『ねじまき鳥の歌』のプログラムを滑り切った。

 冒頭のトリプルアクセル+2回転トーループは減点となるも、次のトリプルアクセルは見事だった。3回転ルッツ+3回転トーループも高得点を記録。後半のジャンプはGOE(出来ばえ点)が思ったように伸びなかったが、スコアは146.23点で3位と健闘だ。

 2本のトリプルアクセルの完成度だけをとっても、輝きを放っていた。勢いで跳ばず、しっとりと回るのが真骨頂。24歳でジャンプの成熟は珍しい。

「私はトリプルアクセルをたくさん練習してきました。今は子どもの時より簡単で、難しくありません。大事なのは正確な技術を身につけ、それをコントロールすることです。自信を持って跳ぶには、正しい練習が必要で」

 トゥクタミシェワはそう言って、こう続けている。

「今は4回転も練習していて。まだ安定性がないので、試合では使えませんが、来季は練習を重ねて、トリプルアクセルと同じ水準で跳べるようにしたいと思っています」

 スケートの深淵をさらに見せてくれそうだ。

ーー何に力を入れて練習していますか?

 SP後のリモート会見、シェルバコワは質問に簡潔に答えている。

「すべてです。一つではなくて」

 そこに、世界女王としての作法が浮かんだ。

「シーズン最後の演技で、落ち着いてできたと思います。達成したいことが達成できました。改善の余地はありますが」

 夜の海や深い森を思わせる青と黒の濃淡の衣装で、幻想的に舞った。細身の体は芯の強い軸となり、長い手足の振りは妖艶で、指先の角度まで洗練されていた。ダブルアクセル、3回転フリップ、最後は3回転ルッツ+3回転ループを成功。スピンも、ステップもオールレベル4で、物語を感じさせる演技は非の打ち所がなかった。

 スコアは、シーズンベストを更新する81.07点。2位のトゥクタミシェワを引き離し、1位だった。

ーー来シーズンについては?

 そう訊かれた時の答えも彼女らしい。

「今は(フリーを控えて)目の前のプログラムだけに集中を」

 一戦必勝、すべてを出し切る決意が強さの根幹だ。

「今年、やって来たことだけでも大変なことで。納得できるプログラムにするために、最大限のトレーニングをしています。機械的に動くのではなくて、魂を込めた演技ができるように」

 その集大成か、フリーの演技は圧巻だった。

 冒頭、大技の4回転フリップは練習で転倒が続いていたが、意地で持ちこたえた。そこからはほぼ完全無欠だった。一つひとつのジャンプ、入り方も工夫が凝らされていて加点がついた。後半に入れた3回転ルッツ+3回転ループは出色。コンビネーションにトーループではなく、ループを入れて点数を稼ぐことは、トップを争う指標の一つになるかもしれない。

 スコアは160.58点、やはり1位だ。

「世界選手権後は、この大会があって緊張が続いていましたが、シーズンを戦い終えて喜びを感じられています」

 シェルバコワは10代らしい笑みを浮かべた。

「来季はすべてを取り入れていくつもりです。ジャンプ、振り付け、何でも挑戦し、"美しい絵"を提示できるように。プログラムを感じながら滑るつもりです」

 大阪の会場には、ロシア国旗がはためいていた。それはロシアフィギュアスケート界にとってピークではない。北京五輪に向けた前夜祭だ。

 このふたりも不動ではないところに、ロシア女子の奥深さはある。4回転やトリプルアクセルだけではない。彼女たちの技術革新は日進月歩だ。