4月16日、国別対抗戦フリーの宇野昌磨。3A +4Tに挑戦したが決まらなかった「決していい(状態)とは言えないですね」 世界フィギュアスケート国別対抗戦、大会前日の公式練習後、リモート会見に出てきた宇野昌磨は包み隠さずに言った。「先日、靴を…



4月16日、国別対抗戦フリーの宇野昌磨。3A +4Tに挑戦したが決まらなかった

「決していい(状態)とは言えないですね」

 世界フィギュアスケート国別対抗戦、大会前日の公式練習後、リモート会見に出てきた宇野昌磨は包み隠さずに言った。

「先日、靴を変えまして。前の靴は、(3月の)世界選手権までもつようにギリギリで調整して履いていたんです。それで限界が来てしまって、(国別対抗出場で)急遽、靴を変えることになって。世界選手権でシーズンを終えるつもりでいたんですが......」

 ナイーブな競技だけに、スケート靴の交換は影を落としていた。ジャンプの感覚が合わない。コロナ禍の調整で体だけでなく、心が疲弊する中、一度、オフにしかけた気持ちをつなげるのも簡単ではなかった。

「今日(大会前日)の練習をしている中で、3A(トリプルアクセル)+4T(4回転トーループ)をやっているときだけ楽しかったです。フリーで挑戦できたらいいな、と。他のジャンプに比べて回転も回っていて、悪くない印象なので」

 そう語った宇野は、どこか手探りの様子だった。3A+4Tという世界で誰も成功していない大技を旋回軸にすることによって、何とか羽ばたこうとしていた。



SPの宇野。本来の力が発揮できず、9位だった

 4月15日、大阪。国別対抗戦男子シングルのショートプログラム(SP)で、宇野は9番目に滑っている。

「足を引っ張らないように」

 彼はそればかり気にしていたが、調子は上がっていなかった。不安が緊張となって、表情にも表出していた。

 重低音で『Great Spirit』が流れ出すと、体は自然に動いた。しかし、冒頭の4回転フリップをクリーンに着氷できない。悪い流れで4回転トーループも軸がずれ、コンビネーションをつけられなかった。最後のトリプルアクセルも、本来の出来には程遠かったと言える。気持ちを切らさず、スピンでレベル4を取り、ステップで観客を引き込んだのはトップスケーターの意地だろう。

 しかしスコアは77.46点で、9位に沈んだ。

「チーム戦(各選手の順位によって、国別の順位が決まる)なのに、僕が足を引っ張ってしまって。ジャンプはもちろん、つなぎやスピンも......。悔しがる場所にも立てていないと思いました」

 宇野はそう言って、自らを責めた。うつむくことで、伸びた前髪が目にかかった。

「プログラムを通した練習(が足りない)ですね。単発のジャンプは着々と自分の中で納得できるものになってきているんですが。世界選手権が終わってから、プログラムの練習をできていなくて」

 翌日のフリーで、宇野は3A+4Tの成功にかけていたはずだ。

 2シーズン使用してきた『Dancing On My Own』、冒頭で果敢に挑んでいる。目に光が満ち、風を切って、思いを込めるように跳び上がってアクセルは成功した。しかし続けざまのトーループは鋭く回転するも、着氷できなかった。

 その後は4回転フリップでGOE(出来ばえ点)で加点を叩き出すも、4回転トーループは転倒。3回転ループは完璧に成功も、トリプルアクセル+オイラー+3回転フリップは、最後が1回転になった。3回転サルコウ+3回転トーループ、ダブルアクセルと華麗に成功したが、ラストは3回転ルッツを回避していた。

 164.96点で6位。コレオやスピンは彼らしさが見えたが、悔しさの残る結果だ。

「順位がかかっているチーム戦で、(3A+4Tに)挑戦させてもらって......。チームメイトには『申し訳ない』という気持ちですが、それは求められていないと思うので、『ありがとうございます』って伝えたいです。『本人が満足していればそれでいいんだから』と言ってもらえて」

 リモート会見に出てきた宇野は目を赤くし、震える声で言った。自責の念が身体中を駆け巡っていた。

「僕が国別に出ず、他の選手が出るほうが優勝につながったと思います。申し訳ない、恥ずかしい気持ちで。失敗するたび、悲しい、ふがいない気持ちでした。今振り返ると、大会に向けて、"いい演技をするぞ"って覚悟を決められませんでした」

 宇野は、「覚悟が足りなかった」と何度か繰り返した。自分に厳しく矢印を向けるところは彼らしい。しかし、起死回生で大技に恐れず挑んだ。

「(来シーズンは)このジャンプ(3A+4T)を入れられるように、とは思っています」

 宇野は心境を語った。

「今の僕の構成だと、3A+4Tを入れるのはあまり意味がなくて。リスクに対して点数が見合っていないよな、と。でも、もし4回転サルコウや4回転ルッツを入れられるようになったら、(フリーのジャンプは2種類のみを2回行なえる条件で)活きてきます。課題は山積みですが、それだけ成長できる幅があると思って」

 彼は「もっと成長したい」と願う。世界のトップを凌駕するような戦いができるように。今回の無念は忘れない。

「シーズンをいい形で終えることができなかったことを、逆にプラスにつなげられるように。オフもこの気持ちを持ったまま過ごし、次に活かしたいです」

 宇野は2019ー20シーズンも、苦境を乗り越えてたくましさを示した。失意のたび、彼は強くなるのだろう。前人未到の3A+4Tを足掛かりに、さらに高く羽ばたくはずだ。