松山英樹がついに夢を実現した。マスターズで悲願の優勝。日本人として初のメジャー制覇を果たした。ウイニングパットを沈めて、パトロンの祝福に応える松山英樹 イーグルを奪った初日の8番パー5をはじめ、同じくイーグルを奪った2日目の13番パー5や…

 松山英樹がついに夢を実現した。マスターズで悲願の優勝。日本人として初のメジャー制覇を果たした。



ウイニングパットを沈めて、パトロンの祝福に応える松山英樹

 イーグルを奪った初日の8番パー5をはじめ、同じくイーグルを奪った2日目の13番パー5や、バーディーを奪った3日目の7番のセカンドショットに、絶妙なコントロールショットでバーディーチャンスにつけた11番の第2打。さらに3日目、単独トップに立つイーグルを決めた15番のセカンドショットに、ピンハイにつけてバーディーを奪った16番パー3のティーショット。そして最終日、ピン手前にピタリとつける9番のセカンドショットなど、歴史を動かしたハイライトシーンを挙げればきりがない。

 そうした派手なシーンに日本中が沸いたことは間違いないが、それ以上に際立っていたのは、パーを拾っていった精度の高いショートゲームだった。グリーンを外したあと、ピンにピタリと寄せるアプローチや、微妙な距離をことごとく沈めたパーパットを見て、唸り声を挙げたファンも多いのではないだろうか。

 初日、圧巻だったのは4番、5番、6番だ。多くの選手が苦しむ高速グリーンにあって、外してもおかしくない2~3mのパーパットを3ホール連続で決め切った。

 その際、松山は非常に落ち着いているように見えた。というか、過去の大会では見られたマスターズゆえの"気負い"というものが感じられなかった。この時、これまでとは違う松山の雰囲気を感じ取り、何かやってくれそうな予感を抱いた人は決して少なくないのではないだろうか。

 そうして、18番でも危うい距離のパーパットを沈めて「69」。3アンダー、2位タイと好発進を決めた。ラウンド後、松山自身も中継局となるTBSのインタビューでパットのよさについて触れた。

「(ボギーを叩いた)17番以外はいいプレーができた。最終18番もそうですけど、流れが悪くなりそうなところで、パットが入ってくれたのはよかったと思います」

 2日目も、9番のバーディーパットや、13番のイーグルパットもすばらしかったが、厳しい状況でのショットゲームが光った。

 4番パー3では、ティーショットをグリーン奥に外すも、抜群のアプローチを見せてパー。13番でイーグルを奪ったあとも、続く14番で2m弱の微妙なパーパットを沈めて、悪いリズムに陥ることはなかった。

 加えてこの日も、最終18番で嫌な距離のパーパットを決めて、いい流れをキープ。多くの選手がスコアを伸ばすなか、松山はスコアを1つ伸ばすだけにとどまったが、通算4アンダー、トップと3打差の6位タイという好位置につけて、決勝ラウンドへと駒を進めた。

「なかなか思うようなプレーができなかったけど、1つ(スコアを)伸ばせたのはよかった。いい位置で2日間を終えられた」と、中継局のインタビューでも松山は前向きに語った。

 3日目も"しのぐプレー"が、1イーグル、5バーディー、ノーボギーという圧巻のプレーを呼び寄せた。出だしの1番、ティーショットをバンカーに入れるも、2m弱のパーパットを沈めて爆発への準備を整えた。

 そして9番、セカンドショットを右に外すも、精度の高いアプローチでピンにピタリ。難なくパーを拾って、「アーメンコーナー」の入口となる11番から始まるバーディーラッシュの"スイッチ"を押した。

「ムービングデー」と言われる3日目、これまでの松山はなかなか爆発することができなかった。しかし今年は、マスターズ自己ベストの「65」をマーク。他がスコアを伸ばせずにいるなか、ほぼ松山だけがムービングデーを実演。通算11アンダーまでスコアを伸ばし、後続に4打差をつけて単独首位に立った。

 それでも松山は、中継局のインタビューでは舞い上がることなく、淡々とコメントした。

「前半はバタバタして、パットも決め切ることができなかったんですけど、(サンダーストームによる)中断のあとでグリーンのスピードが落ちて、13番で3パットをしたあとから(気を引き締めて)いい感じで(パットを)打てるようになった」

 迎えた最終日も、緊張した雰囲気を見せずに安定したプレーを披露した松山。出だしの1番でボギーを叩くも、2番でバーディーを奪ってリズムを取り戻した。以降、3日目までと変わらぬ、卓越したアプローチとパットでスコアをまとめた。

 とりわけ、4番、5番のパーセーブはすばらしかった。首位と2打差の3位タイで最終日を迎えた2016年は、序盤で崩れて早々に優勝争いから脱落した。当時とは、松山のプレーする姿からにじみ出る"気持ちのゆとり"が明らかに違った。

 その後、15番パー5でセカンドショットが大きくオーバー。池に落としてボギーとして、16番でもボギーを叩いて苦しい状況に陥った。さすがに簡単には勝たせてもらえなかったが、優勝争うライバルも終盤にミスが出てスコアを伸ばせず、松山が通算10アンダーで勝利。10回目の出場で、念願のグリーンジャケットに袖を通した。

「今日は朝からずっと緊張していて、最後まで緊張しっぱなしだった。(周囲からの期待は)あまり考えないようにしていたんですけど、(結果的に)いいプレーを見せられてよかったです」

 ウイニングパットを決めたあと、はにかんだ笑顔を浮かべてパトロンの祝福に応えた松山。日本のゴルフ界の歴史を変えた。