息子と一緒にゲームをプレーして楽しむ小籔千豊「息子が、僕にゲームの世界を与えてくれたんです」 お笑い芸人としても、音楽アーティストとしても知られる小籔千豊がYouTubeチャンネルを開設したのは、2020年初頭のこと。しかしチャンネルの軸に…



息子と一緒にゲームをプレーして楽しむ小籔千豊

「息子が、僕にゲームの世界を与えてくれたんです」

 お笑い芸人としても、音楽アーティストとしても知られる小籔千豊がYouTubeチャンネルを開設したのは、2020年初頭のこと。しかしチャンネルの軸に選んだのは、本業とはかけ離れたゲームだった。それはeスポーツタイトルとして知られる「フォートナイト」で、チャンネル名は「フォートナイト下手くそおじさん」だ。

 小籔をゲームの世界にいざなったのは、小学生の息子だ。最初は興味を示さなかった小籔だが、息子が熱心に誘い続けたのだという。「一回だけやったるか」とコントローラーを手に取った小籔は、いつの間にか息子に負けず劣らずのゲーマーとなった。

 親子でゲームをプレーすると、お互いに新たな一面を知るきっかけになることが多い。小籔が自身の両親との思い出を振り返りながら、子供と一緒にゲームをプレーすることについて語る。

「子供の頃は父親と一緒にゲームをプレーしていた」と振り返る小籔の口元は微かに緩んでいた。約30年前、多くの子供が家庭用ゲーム機に夢中になっていた。小学校ではゲームの話題が尽きず、放課後も誰かの家でゲームをする子供が多かった。当時からゲームはストーリーや対戦などを楽しむだけでなく、コミュニケーションの場をつくるツールとして機能していたと言える。

 しかし当時の小学生は、一抹の寂しさを抱えていたかもしれない。なぜならほとんどの親が「ゲームは子供のもの」と認識していたため、一緒にゲームをすることはなかったからだ。ゲームは子供同士をつないだものの、世代を超えたコミュニケーションプラットフォームにはなり難かった。

 ただ小籔の父親は当時としては珍しく、時折息子と一緒にゲームをプレーしていた。親と一緒にゲームをしている小学生は小籔の周りにはほとんどおらず、子供心に誇らしさを覚えたという。

「すぐに怒るし、共通の話題もない存在というのが、当時の父親像でした。親だから身近なんだけど、少し近寄りがたい。でも一緒にゲームで遊んでいる時は、距離が縮まっている気がしたんです」

 子供の頃からゲームに触れていた世代がいつしか親となり、今となっては親子でゲームを楽しむ家庭も増えてきた。さらに、ゲームの攻略情報はオンライン上に数多く掲載されており、子供がゲーミングスキルを磨くための環境は整ってきている。親の知らぬ間に子供がゲームのエキスパートになっていても何ら不思議ではない。

「釣りやキャンプは、親が子に与える趣味だと思います。でもゲームは子供が親に与える趣味だと感じていて、他の趣味とは少しニュアンスが違うんです」と小籔は語る。勉強でもスポーツでも親が教える側になる場合がほとんどだが、ゲームの世界では立場が逆になることも多い。子が教え、親が学ぶ。そして親が十分に学べば、対等な関係の「フレンド」となる。

 かつて小籔が父親とゲームの世界を共有していたように、息子と同じゲームで遊ぶことには特別な意味がある。

「ゲームでアップデートがあると『あの変更はどう思う?』『この仕様は厳しいな』などと、息子と一緒に意見を言い合うんです。同じ目線で意見を交えるなんて、なかなかないですよね。親と子の関係性が広がっている感じがします」

 だが、フレンドのような関係でも親として振る舞わなくてはならない場面もある。ある日のこと、小籔の息子がオンライン対戦をしていて、荒々しい言葉づかいをしていたそうだ。言葉の矛先は対戦している「ネットの向こうの誰か」だった。小籔は息子に対して「そういう口調で大丈夫なんか?」と聞いてみた。すると「みんな、こんな感じだから大丈夫」と軽い口調で答えた。

 一昔前はオンライン対戦が気軽にできず、子供たちは誰かの家に集まってゲームをしていた。同級生たちが顔を突き合わせ、少し離れた場所には親がいる。友達に軽口を叩くことはあっても、節度はわきまえる。度を超えた言い合いや喧嘩に発展しても、見かねた親が叱る。そういったコミュニケーションが自然と成り立っていた。だがオンラインゲームは違う。相手の顔は見えず、友達以外とも接する機会がある。子供が向き合うのはディスプレイ越しの広大なネットの荒野――そして、親や大人が一緒にいるとは限らない。


 白熱するあまり口調が荒れてしまうことは、大人にだってある。大切なのは間違いに気づくことだ。小籔は息子に

「食事や買い物に行った時、店員さんに偉そうにせんやろ。今後二度と会わん相手でも、ボロカス言うたらあかん。知らん人にも優しくするヤツのほうがええやろ。だからネットでは、普段よりももっとええヤツでおらなあかん」と注意した。小籔の言うことを理解し、それ以降息子の口調は穏やかになった。小籔はむしろ、そのような場面に遭遇できてホッとしているという。

「もし一緒にゲームをしていなければ息子のそういう一面を見られへんかったかもしらんし、自分がネットの世界を知らなかったらトンチンカンな叱り方をしていたかも。息子が触れている世界を知ってよかったと思いました」

 ゲームがコミュニケーションツールとなりコミュニティを形成する過程で、「eスポーツ」という言葉が誕生した。ゲームによる対戦を競技と捉えるからには、そこに参加する子供にもスポーツマンシップを求める時代となったのだ。しかし子供にも責任を負わせるような風潮に対して小籔は「順序が違う」と釘を刺す。

「だってね、ネットでマナーを守れていない大人もすごく多いじゃないですか。何万人もいますよ。いわゆる『大人』が集まる場所でも、他人を傷つける言葉があふれています。そんな世界を子供に見せている大人にこそ、責任があると思います」

 では、子供に悪影響を与えてしまいかねないゲーム、ひいてはネットから子供を遠ざけてしまえば解決する問題なのだろうか。真剣な目で、小籔はゆっくりと口を開く。

「僕らの世代にとってオンラインゲームやSNSなどのネットの世界は、人生の途中で現れた『新しいもの』ですが、子供たちにとっては『あって当たり前のもの』。ネットの世界はどんどん進化していくだろうから、むしろ子供の頃から積極的に触れさせて教育する必要があると思います」

 子供から与えられたゲームの世界で、小籔は子供に何を返せるのだろうか。礼儀にとても厳しかった母親との思い出を振り返りながら、小籔は思案する。

「騒いだらあかん、挨拶はしっかり、相手が話してる時はちゃんと聞く。子供のころ、僕はそうやって人前でも怒られることがあって恥ずかしかったけど、おかげで大人にえらく褒められました。そういう礼儀は息子に与えてあげたいなと思うんです」

 息子の「父親」であると同時に「フレンド」でもある小籔は、「まぁ僕の母親ほど厳しくはせずにね」とはにかみながら遠慮がちに付け加えた。

【Profile】
小籔千豊(こやぶ・かずとよ)
1973年9月11日生まれ、大阪府出身。吉本新喜劇座長。バンド・吉本新喜劇ィズとジェニーハイのメンバー。今年3月に親子で「GALLERIA presents 第1回 親子大会 Featuring Fortnite」に出場した。
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