角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)の9位入賞と、レッドブル・ホンダの2位表彰台。 ともに称賛されるべきは、その"結果"ではなく、"中身"のほうだった。 どちらも決勝後に浮かべたのは笑顔ではなく、むし…

 角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)の9位入賞と、レッドブル・ホンダの2位表彰台。

 ともに称賛されるべきは、その"結果"ではなく、"中身"のほうだった。

 どちらも決勝後に浮かべたのは笑顔ではなく、むしろ不満顔だった。予選で手にした大きな手応えに比べれば、決して満足できる結果ではなかったからだ。もっと多くを期待していたとも言える。



F1デビュー戦で9位入賞を果たした角田裕毅

 角田は予選Q1で2番手タイムを記録する快走を見せたが、Q2ではミディアムタイヤでの通過を狙ってこれに失敗し、13番グリッドからのスタートを強いられた。

 僚友ピエール・ガスリーは0.146秒差で通過に成功したが、角田はミディアムのグリップを引き出し切れたという自信が持てず、アタックラップをまとめられずにQ2敗退となってしまった。Q3に進んでいればガスリーと同じ5番グリッドあたりを争えていただけに、悔いの残る結果となった。

 Q1では路面の改善シロが約1秒と予想以上に大きく、最後にタイムアタックをしたアルファタウリ勢はその恩恵を大きく受けた。これによって自分たちのポテンシャルをやや過大評価してしまったことが、2強チーム以外で唯一「ミディアムでのQ2通過を目指す」という戦略のリスクを取る結果になったように見えた。

 もっと上位のグリッドは間違いないという手応えを掴んでいただけに、予選後の角田は狐につままれたような様子だった。

「う〜ん、不思議な気持ちとガッカリしている気持ちが混ざって、何が起こったのかは正直、まだわからないです。Q1では普通にいつもどおりいったんですけど、Q2でいきなり(遅くなった)。とくに大きなミスをしたわけでもないし。すごくグリップが失われて、まったくタイヤが機能していなかった感じがします」

 13番グリッドからスタートした角田は、計算上最適な戦略であるミディアムでスタートすることを選んだ。だが、ミディアムはQ2で使い切ってしまったため中古タイヤしかなく、Q3に進んでいた場合と同じ戦略を採ることになった。

 ルーキーにとって初戦は、完走が至上命題になる。

 それゆえ、スタート直後のホイールスピンで出遅れた角田は、ターン1以降の攻防でも集団の中で接触を避けるためにコンサバティブにならざるを得ず、次々と抜かれて位置は17位までポジションを落としてしまった。

「1周目にフロントウイングなどをぶつけないようにすることを意識しすぎて、ディフェンス側に寄り過ぎ、アグレッシブに行かなさすぎて、そのせいでポジションを落としてしまったんです。そこからかなりポジションを挽回するばかりのレースになってしまって、実際にはかなり速さがあったのにリカバリーに時間と労力を使われてしまったので、次への大きな課題がそこ(1周目の攻防)かなと思います」

 しかし角田は、そこから安定した走りで戦略の異なる前走車たちを次々にパスし、ポジションを上げていった。

 フェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)やセバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)など、ベテラン勢も易々と仕留めていった。彼らも戦略が異なるだけにタイヤ状況が大きく違うため、抵抗することなく角田を前に行かせた。

 終盤はタイヤがタレてペースの上がらないランス・ストロール(アストンマーティン)に追いつき、ストロールの乱流でなかなか追い詰めきれなかったものの、最終ラップのターン1で「ここで行かなきゃ今夜は眠れない!」と意を決してインに飛び込び、抜いて9位でフィニッシュして見せた。

「意識せずガムシャラに前を狙って走っていました。あそこから追い上げてポイントを獲れたのは、最低限の結果だったかなという感じです。ちゃんとレースを終えることができたのは自分にとって大きなことですし、次へつながる本当にいいレースだったと思います。そこはポジティブに捉えて、あとは本当に反省しなきゃいけないところは反省して、次につなげたい」

 角田のスマートなレース運びとバトル勘、そしてアルファタウリの速さは間違いなく証明された。

 レースを終えた角田は「50%はうれしくてホッとした気持ちと、50%は悔しい気持ち」と表現したが、日本人初のデビュー戦入賞という記録については「何とも思っていない」という。

 まさしく、その9位という結果は今の角田とアルファタウリにとって、満足にはほど遠い何でもない結果だろう。しかしレースの内容は、十分に称賛に値するものだった。

 もし、ソフトタイヤでQ3に進み、マクラーレン勢やフェラーリ勢、アロンソらと同じ戦略で真っ向勝負をしたら、どうなっていたのか。本気のベテラン勢と戦ってこそ光る角田の真骨頂を見たかったが、それは次戦以降のお楽しみといったところだろう。



あと一歩で勝利を逃したレッドブル・ホンダ

 一方のレッドブル・ホンダは、ポールポジションからスタートしたマックス・フェルスタッペンがメルセデスAMG勢を抑え、レースをリードした。

 しかし実際には、彼らを引き離そうとするも離せず、ルイス・ハミルトンに2秒以内の差で着いてこられている状態だった。そしてメルセデスAMGは13周目という早い段階で先にピットインを仕掛けて新品タイヤに履き替え、その威力でアンダーカットを成功させる。

 もう1台のバルテリ・ボッタスもすぐ後ろに控えており、仮にフェルスタッペンがハミルトンの直後にピットインしてそちらを抑えても、ボッタスが異なる戦略で前に出る1対2の戦いだった。

 レッドブルとしてはメルセデスAMGの揺さぶりに惑わされることなく、自分たちの決めた戦略を貫いた。セルジオ・ペレスがQ2で敗退し、さらにフォーメーションラップで電源がシャットダウンしてピットレーンスタートを余儀なくされたため、そうするしかなかったのだ。

 フェルスタッペンは第2スティントでプッシュしてハミルトンの背後に迫り、今度は逆にハミルトンにアンダーカットを仕掛ける素振りでプレッシャーをかけ、先にピットインさせた。すると、そこからは可能なかぎり引っ張ってタイヤ交換を遅らせ、最終スティントをハミルトンより11周フレッシュなタイヤで追いかけるという勝負を挑んだ。

 計算上それは成功し、残り数周でフェルスタッペンはハミルトンに追いついた。しかし残り4周となったターン4でオーバーテイクを仕掛けるも、リアがスナップしてコース外にはみ出してしまい、ポジションを譲り返すことになる。

 この1度のアタックでフェルスタッペンのタイヤはグリップを失い、これによって再逆転のチャンスは失われてしまった。レース序盤から低速コーナーの立ち上がりで片輪だけデフが滑る問題を抱えていて、その影響もあったようだ。

「もちろん楽しんだよ。でも、2位に終わったからガッカリでもある。F1のレースではトラックポジションがどれだけ重要かということを証明したと思う。相手よりもいいタイヤを履いていて、気持ちよくギャップを縮めていけたとしても、背後に接近してくるとグリップは失われてしまうんだ。とくに今日のように風が強かったり、僕のように低速コーナーでクリティカルな問題を抱えているとね」

 自分たちのレースをやり切り、計算上は勝った。オーバーテイクさえ成功していれば、優勝していたのはレッドブル・ホンダとフェルスタッペンだっただろう。それだけの速さと強さがあることは証明してみせた。

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 理由のない勝利はあっても、敗北には必ず理由があるという。そういう意味では、今回の敗北の理由ははっきりと見えていて、それも十分に解決が可能なものだ。

「去年の僕らなら、この結果はこのうえなくハッピーだったはずなのに、今はガッカリしている。つまり僕らは、間違いなく大きく前に進んだということだ」

 フェルスタッペンの目には、間違いなく2021年のチャンピオン争いが見えている。

 そして、F1で最後のシーズンを戦うホンダにとっても、1戦1戦を悔いのないよう戦いきるという信念を貫いた。金曜に問題が発生した角田のマシンを徹底的に調査し、夜間作業禁止規定を超えて準備を整えたのも、その表われのひとつだった。

 ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターも戦いを終えて、やれるだけのことはやったという思いでいた。

「できることはやったし、その都度の判断も最適なものだったと思っています。しかし、敵にやられてしまった。何か失敗をやらかしてしまって悔いが残るわけではないですが、結果に表われなかったということはまだ何かが足りないんだろうと思います。

 100%満足か、100%悔いがないか、と言われたらそうじゃないよね、という気持ちでいます。勝利を逃したのは非常に残念ですし、レース展開上も悔しいところはあったんですが、その一方で今年の開幕戦で終始トップ争いを展開するパフォーマンスを見せられたのは非常にポジティブに捉えています」

 レッドブル・ホンダと角田裕毅、それぞれの2021年の戦いが始まった。そしてこれは、まだ始まりでしかない。この先に明るい未来が待っていることを示してくれた、開幕戦バーレーンGPだった。