今季、シニアデビューを果たした17歳の鍵山優真が、世界選手権ではつらつとした会心の演技を披露し、初出場銀メダルの偉業を成し遂げた。ショートプログラム(SP)、フリー、合計のいずれも自己ベストを更新する快挙。大会3連覇を飾ったネイサン・チェ…

 今季、シニアデビューを果たした17歳の鍵山優真が、世界選手権ではつらつとした会心の演技を披露し、初出場銀メダルの偉業を成し遂げた。ショートプログラム(SP)、フリー、合計のいずれも自己ベストを更新する快挙。大会3連覇を飾ったネイサン・チェン(アメリカ)、今大会銅メダルの羽生結弦と表彰台に立った鍵山、日本勢トップランカーとなるその活躍は、日本フィギュアスケート界にとっても慶事だろう。



自己ベストを大きく更新して、世界選手権銀メダルに輝いた鍵山優真

 大会最終日に行なわれた男子フリーの得点190.81点が出て、メダルが確定した瞬間、キスアンドクライで父の正和コーチと喜びを分かち合った。両腕で何度もガッツポーズを繰り出し、ぴょんぴょんと跳びはねて喜んだ鍵山は、日本最高位の世界選手権2位について、率直な気持ちをこう口にした。

「正直、演技が終わった時点で、びっくりして動揺を隠せない状態になっちゃっていました。結果としてはすごくうれしい思いです。やっぱりここ(世界選手権)に来たからには表彰台を狙っていたので、努力が実ったかなという感じです。完全には発揮できなかったんですけど、自分の実力は出し切ったかなと思います」

 正和コーチとの二人三脚で5歳から歩んできた競技生活。本格的な世界デビューとなった24日のSP『ボカッション』では、軽やかで流れのある着氷を見せるジャンプを次々と決め、ジュニア時代は苦手だったトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)も成功させて、ミスのない演技を見せた。演技後のキュートな笑顔と、キスアンドクライで得点を待つ愛らしいしぐさに、虜になったファンも多かったに違いない。

 高得点の100.96点が出た瞬間、右手を高々と振り上げてから両腕を前に突き出すガッツポーズでうれしさを爆発させた。SPは首位の羽生に続き、世界王者のチェンを抑えての2位発進だった。

 フリーでも、多くの五輪メダリストにプログラムを提供してきた世界的な振付師ローリー・ニコル氏が作った『アバター』で、鍵山は躍動した。プログラム前半に跳んだ4回転は、3本とも「これぞジャンプの基本です」とお手本になるようなジャンプだった。

 冒頭の4回転サルコウは文句のつけようがない着氷で、続くトーループの4回転+3回転の連続ジャンプも軽々と跳び、4本目の4回転トーループの単発もキレがあった。この3本のジャンプのGOE(出来栄え点)加点の合計は9.42点となり、この3本だけで42.32点を叩き出した。

 基礎点が1.1倍になる後半に跳んだトリプルアクセルからの3連続ジャンプにもGOE加点1.26点がついた。ラスト2本の3回転ルッツ+3回転ループと単発のトリプルアクセルでは着氷が乱れてしまったのは残念だったが、ミスを最小限にとどめたことでジャッジに対して好印象を残すことができ、しっかりと得点にも反映された。ステップと3つのスピンはいずれもレベル4と判定されて、演技構成点でも5つの項目で8点台後半を揃えた。

 初めて挑んだ大舞台で堂々とした落ち着いた演技を披露して、自己ベストを更新。フリーは11.81点、合計点も21.16点アップさせるなど、大きく躍進した鍵山だが、その心の内には確固たる自信がみなぎっていたようだ。

「そもそも、この世界選手権に出ているだけで緊張しているんですけど、さらに最終グループに入って練習したり、試合したりすることになって、『本当に自分がここにいていいのかな』と最初は思っていました。ですけど、ここに来たからには日本代表としてやらなくちゃいけないと思ったので、試合にはしっかりと集中することができたと思います」
 
 シニアデビューシーズンで華々しい活躍を見せ、世界にその名をアピールできたことは、これからの鍵山にとって、プレッシャーにもなる可能性もあるが、大きな励みになることは間違いないだろう。負けず嫌いを自認。努力をいとわない芯の強いスケーターだけに、この結果におごることなく、これまでと同じように真摯にスケートと向き合っていくはずだ。

「フリーは細かいミスが出てしまったので、ジャンプの調整をしっかりしないといけないです。そしてもっとシニアらしい滑りができたらいいなと思います。日本に帰ったら、今日のフリー演技がちょっと悔しかったので、休みたいんですけど、すぐに練習したいです。自分に足りない部分がたくさん見つかったので、そこをしっかり練習したいと思っています」

 世界選手権銀メダリストになった鍵山は、北京五輪のメダル候補に名乗りを上げたと言っても過言ではないだろう。本人も「五輪金メダル」を大きな目標に掲げており、現実味も帯びてきた。すでにその視線の先に五輪代表への道が広がっており、その扉をしっかりと見据えていた。

「今回の世界選手権は、来季の立ち位置を確かめるために大事だと思って臨みました。この試合でいい結果を出せても、必ずしも次のオリンピックで上位を狙えるかと言ったらわからないですし、ほかの選手ももっともっと練習してうまくなってくると思うので、自分もそれに負けないようにもっと練習して成長して、まずはオリンピックに出場することが大事だと思うんですけど、オリンピックに出て上位を狙っていきたいなと思っています」
 
 基本に忠実なスケーティングで癖のないジャンプを跳び、踊り心を持つスケーターが、今後どんな成長を遂げ、どんなプログラムを見せてくれるのか。そんな期待が持てる選手が出現した。