今季シニアデビューした日本男子の新星・鍵山優真が初舞台の世界選手権で躍動。一気にその名を世界にアピールした。 25日に行なわれたショートプログラム(SP)で、鍵山は堂々たる落ち着きで、ミスのない演技を披露。自己ベストを更新する100.96…

 今季シニアデビューした日本男子の新星・鍵山優真が初舞台の世界選手権で躍動。一気にその名を世界にアピールした。

 25日に行なわれたショートプログラム(SP)で、鍵山は堂々たる落ち着きで、ミスのない演技を披露。自己ベストを更新する100.96点で、首位に立つ羽生結弦と6.02点差の2位発進となった。自身初となる100点超えは、男子SP史上8人目となる快挙だ。

「現地に入ってからの練習で、調整が難しかったんですけど、試合本番はそんなことは何も考えずにできたのでよかったです。本当に自分が滑りたいように、やるべきことをやったうえで自由に伸び伸び滑れました。初めての世界選手権で、初めて父(正和コーチ)と海外(の大会)に来ることができてよかったですし、そこでいい演技ができて、自分もうれしいし、父も喜んでくれてよかったです」



自己ベストを更新する高得点でショートプログラム2位発進となった影山優真

 アジアの民族衣装をイメージしたというコスチュームを新調して、4度の世界選手権出場経験のある父親の前で見せた演技は、気合いも十分だった。前回の四大陸選手権でマークした91.61点の自己ベストを大きく上回る高得点が出た瞬間、キスアンドクライに座った鍵山は右手を高々と突き上げてから、両腕を体の前に突き出すガッツポーズでうれしさを爆発させ、親子そろって喜びをかみ締めた。

「(初めての世界選手権で)緊張してガクガクになるんじゃないかと本当に思ったんですけど、案外、そんなことはなくて、実際は緊張よりも『早く演技がしたい』という楽しみのほうがすごく大きかったです。緊張はするんですけど、悪い緊張をしなくなったのが、自分のひとつの成長ポイントだと思っています。

 とにかくノーミスすることを一番の目標にしてきたSPの演技は、練習どおりひとつひとつこなせてよかったですし、そのうえで100点の点数がついてきたので、自分でも言うことはないほど、すごくよかったんじゃないかなと思います」

 SPの演技直前、リンク中央に向かう鍵山の表情はかなり緊張しているように見えた。だが、音楽が始まるとすぐにスイッチが入り、目を見開く表情と踊り出しで見る者を惹きつけ、鍵山の世界に引き込んだ。五輪メダリストを輩出している著名な振付師のローリー・ニコル氏が手がけたSP『ボーカッション~Vocussion~』をひっさげての世界デビューである。

 冒頭の4回転サルコウ+3回転トーループを軽々と決めると、波に乗って、続く4回転トーループでもキレのいいジャンプを跳んでみせた。そして基礎点が1.1倍になるプログラム後半では本人が「鬼門」と言うトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)をしっかりと成功させた。いずれのジャンプもGOE(出来栄え点)加点で2点以上がつき、特に冒頭の連続ジャンプでは3.46点の高い加点をマーク。ステップと3つのスピンではすべてレベル4判定をもらい、世界の舞台でジャッジから高評価を得たと言っていいだろう。

 海外メディアから「17歳で初めの世界選手権で、恐れを感じない堂々とした演技がどうしてできたのか」と問われた鍵山は、「初めてだから緊張する部分もあれば、初めてだからこそ、逆に思い切りできる部分もあると思います。今日のSPは正直なところ、緊張よりもすごく早く試合がしたいとか、楽しみとかのほうがすごく大きかったので、SPでそういう演技ができて、楽しさを見せられたことがすごくよかったと思います」と、しっかりした口調で答え、胸を張った。

 5歳でスケートを始めた鍵山は、オリンピアンの父である正和コーチから徹底的に基礎を叩き込まれ、特に基本のスケーティングを指導されてきた。そして、目標を定めると段階を踏み、ライバルが一足先に結果を残しても焦ることなく、着実に階段を上ってきた。

 ジュニア時代に苦手だったトリプルアクセルを習得してシニアに転向すると、4回転時代を迎えた男子シニアで戦うためにトーループとサルコウの2種類の4回転も自分のものにして、世界のトップ選手たちと戦えるベースを作った。

「世界選手権(2019年埼玉大会)を生で見たからこそ、そこで自分のモチベーションもやる気も目標もすべて上がって、この2年間、ずっと努力し続けてきました。その努力が報われたというか、とりあえずSPは練習してきたことをすべて出し切れたので、よかったです。もちろん、フリーもノーミスでやることが目標ですけど、ひとつひとつ丁寧に落ち着いてやって、自分が納得いく演技ができればいいかなと思います」

 五輪2連覇中の羽生と世界選手権2連覇中のネイサン・チェンに挟まれてのメダル争いで、鍵山はどの色のメダルを掴むことができるのか。表彰台争いは最終グループの6人にチャンスがあるだけに気は抜けない。SPに続いてフリー『アバター』でも完璧な演技を見せることができたら、2012年ニース大会に初出場して銅メダルに輝いた羽生に続く偉業達成となる可能性は高い。