ビッグマン揃いのスペインと激しく競り合う日本チーム(撮影・越智貴雄/カンパラプレス)2016年リオデジャネイロパラリンピックでアメリカに次ぐ銀メダルを獲得したのが、男子スペイン代表だ。グループリーグでトップに立ち、決勝トーナメントではドイツ…

ビッグマン揃いのスペインと激しく競り合う日本チーム(撮影・越智貴雄/カンパラプレス)

2016年リオデジャネイロパラリンピックでアメリカに次ぐ銀メダルを獲得したのが、男子スペイン代表だ。グループリーグでトップに立ち、決勝トーナメントではドイツ、イギリスを破ってファイナルに進出。アメリカには歯が立たなかったが、初のメダル獲得に輝いた。18年世界選手権では5位にとどまったが、東京パラリンピックの切符がかかった19年ヨーロッパ選手権では準優勝と、再び強さを示した。果たして、スペインの強さはどこにあるのだろうか。

“サルスエラ兄弟”がもたらす世界トップの高さ

男子スペインの最大の特徴といえば、やはり高さにあると言っていいだろう。他国との大きな違いはビッグマンの人数だ。車いすバスケットボールでは、障がいの程度や運動機能によって、選手は1.0~4.5の8段階にクラス分けされ、コート上の5人の合計が14点以内というルールがある。高さを有する選手は、ほとんどの場合がクラスが4点台の選手であるため、14点以内にするためにはチームで一度に起用できるビッグマンは1人もしくは2人ということになる。

ところが、スペインの場合はこれに当てはまらない。パブロ・サルスエラ、アレハンドロ・サルスエラという、ハイポインター級の高さを持ちながらクラス3.0の“サルスエラ兄弟”がいるからだ。ともに主力級の実力を持ち、スターティングメンバーであることが多い。その2人にクラス4点台のハイポインターが加わることで、コート上のプレーヤー5人中、常に3人ものビッグマンを揃えられる。その利点を生かし、インサイドでの圧倒的な強さで手にしたのが、リオパラリンピックの銀メダルだった。

サルスエラ兄弟の一人、アレハンドロ・サルスエラ選手(右)(撮影・越智貴雄/カンパラプレス)

しかし実はリオ後、その強さを保持することはできていなかった。17年ヨーロッパ選手権では準々決勝でリオでは8位だったドイツに敗れて、最終順位は5位に沈んだ。さらに18年世界選手権ではグループリーグで3戦全敗という屈辱を味わっている。1992年バルセロナ大会以来、パラリンピックに出場していないアルゼンチンにも54-61で敗れている。決勝トーナメントはクロスオーバー形式(各グループの1位と4位、2位と3位が対戦する)で行われたため、予選落ちすることなくその後の試合で挽回して最終順位は5位とはしたものの、通常であれば決勝トーナメントに姿を現すことはできなかった。

ただ、それでも決勝トーナメントではグループリーグ全敗から5位にまで立て直す地力の強さを見せた。しかも準々決勝では優勝したイギリスに敗れはしたものの5点差と善戦し、5~8位順位決定戦では前年のヨーロッパ選手権覇者のトルコを接戦の末に破っている。特にオフェンスに関しては、現在も世界トップクラスの実力を持つチームであることは間違いない。

カギを握るローポインターの存在

ビッグマンのなかでも最大の得点源は、アウトサイドからのシュート力も兼ね備えたベテランのアグスティン・アレホス(4.5)だ。18年から毎年のようにスペインと対戦してきた川原凜も、彼の強さをこう語る。

「ここぞという時に必ず入れてくるのが、アグスティン選手。特に競っている時や、相手が一番嫌だなと思う時にスリーポイントを入れてきたりするんです。チーム全体に言えることですが、“絶対に決めてやる”というスペイン独特の熱さがあって、そういうところが強さかなと思います」

しかし、高さばかりが注目されがちのスペインだが、実はそこには陰のキーマンがいる。ジョルディ・ルイス(2.5)だ。高さはなく、決して体格に恵まれてはいないが、スピードとクイックネスを武器に、カットインプレーも巧く、またミドルシュートの成功率も高い。18年世界選手権では、ビッグマンたちをおさえて、チーム最多の83得点を叩き出している。

陰のキーマン、ジョルディ・ルイス選手(右)(撮影・越智貴雄/カンパラプレス)

川原も、スペインの中で最もカギを握る選手に彼の名を挙げる。

「スペインは、1.0、2.5、3.0、3.0、4.5(もしくは4.0)でくることが多く、ハイポインターとミドルポインターの3枚のビッグマンがインサイドに流れ込んでくるという印象が強いのですが、実際に対戦していて一番嫌だなと感じるのはジョルディ選手。フリーにすると高確率でシュートを決めてくるので、必ずジャンプアップしないといけない選手です。そして、おそらくそれはスペインの狙いでもあると思います。ジョルディ選手にボールを持たせて、ディフェンスを引き寄せておいて、アウトナンバーの状態から広く空いたインサイドをビッグマンたちが狙ってくるんです」

そして川原がもう一人、キーマンとして挙げたのが、ララ・フランシスコ・サンチェス(1.0)だ。

「一見、体の線も細いですし、シュートもほとんど打たないのですが、ビッグマンたちをインサイドに引き連れるプレーが本当に巧いんです。たとえば、ディフェンスがジョルディ選手にジャンプアップした際、そこにスペインのビッグマンがピックをかけにくると、ララ選手についていたディフェンスがそこにヘルプにいく場合があります。そうするとフリーになったララ選手はその後のプレーを計算したポジション取りをしているんです。だからビッグマンをスーッとインサイドに連れてきたり、うまくシールしてビッグマンをカットインさせたり…。スペインのインサイドの強さは、彼がそういうプレーができるからこそのものだと思います。ローポインターは逆サイドの動きも把握するというのはなかなか難しいのですが、おそらく彼は広い視野で周りを見れているのだと思います」

 

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